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映画「マーラー」1974年制作 ケン・ラッセル監督 を観て

マーラーの最晩年の列車の旅での回想と夢が彼の人生の回顧録となるような構成になっている。

最初の映像は実験的で衝撃的な映像だ。繭のような白い繊維の中から出てきた虫のような女性が岩場を這ってマーラーの岩に刻まれた顔に口づけする。これは、車内で眠っていたマーラーの見た夢だということが後に判明する。

また、ある停車駅では「ヴェニスに死す」の映像のシミュラークルで少年の遊ぶ姿と彼に恋をしたアッシェンバッハの苦悩する姿に交響曲第5番「アダージェット」が流れる。

また、次の映像はポール・デルボーの絵のような暗い背景にシルクハットの男性たちが細長く佇む。そこにマーラーの妻アルマがやってくるが彼女もシルクハットにフロックコートだ。しかし、彼女の顔には常に紗がかかっている。そして「私はいつもあなたの影なのね」と言う。

アルマはマーラーと同様作曲を志していたが、マーラーの人生の悪戦苦闘につき合わされて、主婦となっていた。しかし、彼女もココシュカという恋人をもち、更にマックスという軍人の恋人がいることがこの旅で明らかになる。

マックスはアルマに付き纏い、途中の駅で一緒に降りようと促す。それを聞いたマーラーは「君は愛でどちらを選ぶか決めてくれ、決して義務で決めないでくれ」という。

そして熱を出したり、頭痛がしたり、音や振動に敏感で注文の多いマーラーであった。その度に、アルマは対策を施し甲斐甲斐しく世話を焼いた。

回想シーンでは、幼少期に森で「ムーミン」に出てくるスナフキンのような人物に出会い、作曲の神髄は自然、宇宙を知り理解することだと諭される。

そして、突然戯画化された映像に変わりコジマ・ワーグナーが音楽界の権威で、ユダヤ人であるマーラーは仕事から排除されているのだと音楽学校の同級生フーゴ―から聞く。家族を音楽で養っていくためにマーラーはユダヤ教からカソリックに改宗する。

そして娘の死。冷え込む夫婦の仲。

映像は、キリスト教文化、ヨーロッパの文化の厚みを感じさせる重厚な画面が次々と現れる。

近づくマックスと約束の駅、マーラーは渾身の愛をこめてアルマに語り掛け、自分の全霊を込めた作曲はアルマへの愛そのものだ、と言う。果たして、アルマはマーラーの愛に気づき(多分望んでいた答えを得て)、マックスを二人で見送るのであった。

当時の音楽家は芸能スターのように持て囃されていたようだ。到着駅で、人ごみに紛れながら二人で生きていくのだと意気揚々と歩いていくマーラーに、医師が電話で聞いた所見は「のどの炎症からの心筋炎、あと2週間の命」だった。

見ごたえのある映像はディック・ブッシュによるものだ。アマゾンプライムで。

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