緊急事態中の風刺を理解するのは難しい

日本でもようやく緊急事態宣言が出されました。果たしてイタリアでは日本に関してどのような記事が書かれているのか、興味のあるところです。私がよく読む2紙には以下のような記事がのっていました。

「コロナウイルス、日本が緊急事態へ:しかし罰則なし、命令もなし」
「安倍晋三首相、日本風罰則なしのロックダウンを宣言、人々の市民意識と伝統的な遵法精神に呼びかける」

どちらの記事も淡々と事実だけを書いてる感じです。(ひとつめのCorriere della Sera紙は、SNSで流行している冗談として「アベノマスク」にも触れています。)経済政策については、総額がこれくらい、というあっさりした書き方です。その他、ネット検索の最初に引っかかって来たメディアでは、世界各国の状況をまとめた記事の中で日本にも少し触れている、といった程度の短信記事でした。ただ、日本の話題に特化したようなサイトだと、また違うかと思います。

共通するのは「強制性のないロックダウンに効果があるのか」という点です。「罰則もなく、要請とアドバイスだけで、果たして本当に人の移動と接触をおさえ、感染をおさえられるのか?」という大いなる好奇心と疑問を持って、日本はイタリアや他国から観察されることになるのでしょう。

4月7日の首相会見で、最後のほうに質問をしたイタリア人記者さんの記事も見つけました。面識はありませんが、ボローニャの文化イベントで見かけたことがあります。日本に興味のあるイタリア人での間では、知られている人物だと思います。

記事はALGANEWSというオンライン新聞に掲載されていました。

「明日から緊急事態... 日本風」

上の2紙と違ってとても個性的な文章ですが、「ソフトなロックダウンに効果はあるのか?」という疑問を投げかけているのは同じです。

私はこのニュースサイトを知らなかったのですが、以下のようなサイト紹介がされていました。

Il nostro obiettivo è quello di offrire al lettore un giornalismo di qualità, con approfondimenti dettagliati sugli argomenti più importanti dell’attualità. (私たちの目的は、現在最も重要な話題を詳細に掘り下げ、質の高いジャーナリズムを読者に提供することです)

なので、同じ記者さんが書かれていたこの記事に、メチャクチャ驚きました。

「日本、安倍、マスクの後は各家庭にトイレットペーパーを2つ配布」
まったくもって有益な取り組みだ。2枚のマスク(まだ届いてない。周囲に聞いて見たが、まだ誰も受けとっていない…)に続き、安倍は各家庭にトイレットペーパーを2つずつ贈るそうだ。トイレットペーパーは日本国旗の模様の入った厚紙にくるまれて届く。まさにコレクションアイテム。

そんなバカな!そんな話し知らないぞ!あわてて日本語の情報を探しましたが、どこにもありません。イタリア語の記事の下に英語の記事が続いています。こちらが情報元のようです。たどっていくと、こんなサイトにたどり着きました。

「satirical news」、いわゆる風刺フェイクニュースを扱うサイトです。日本語でも「パロディニュースウェブサイト」と説明があります。件の元記事はこれでした。

風刺の訳は私には難しいのですが、短い記事だったので和訳してみます。

日本の安倍晋三首相は、継続的なトイレットペーパー不足に対応するため、プラスチックの袋入りのトイレットペーパーを全国の家庭に発送する計画を発表した。
安倍首相は「トイレットペーパー以外のものでお尻を拭く」家庭の数は「恐ろしいほど」だと発言。
「パデミック最中にいつも通りビジネスを続けることと同じくらいに、恐ろしいことですよ」と安倍首相は記者達に語った。
WHOが「一般の人々にとって必要なものではない」と宣言しているにも関わらず、政府は各家庭に日本国旗の模様のついたトイレットペーパーを2つずつ送る予定。
世界中の政府がWHOのトイレットペーパーについての公式見解に反対しているため、誰を信用すればいいのか誰にも分からない状態だ。

私には笑いのツボがどこにあるのか分かりません。しかしこの文章だと、明らかにジョーク、フェイクニュースだと分かります。きっとこれで笑える方もいらっしゃるのでしょう。外国人の間では人気のサイトのようで、別のサイトからインタビューも受けていました。

質問8「日本人の反応は?」「読者はほとんどガイジンだから。日本人読者から直接批判がくることは稀」
質問9「扱うのを避けているトピックは?」「悲劇(災害、惨劇)は避けるようにしている」

日本でのコロナウイルスに関わる事案をここでパロディニュースとして扱っているということは、彼らにとっては”悲劇”じゃないということなんでしょうね。日本に住まれている方が書かれているようなのですが... サイトには日本語の記事もあるのですが、日本のコロナウイルスに関するパロディ記事は英語のみです。風刺も表現の自由、というのは欧州では良く言われることです。つまり彼らには、望むままに風刺をする自由があります。

ただ、志村けんさんの記事まであったのには、正直顔をしかめました。

それにしても、なぜパロディ(フェイク)ニュースが、”質の高いジャーナリズムを読者に提供する”サイトに掲載されているのでしょうか。情報元を確かめずに掲載されたとは思えません。もしかしたら、このパロディニュースを真面目なニュースサイトに掲載すること自体が、「賢明な読者は、これがパロディ(フェイク)だと分かって当然だよね?元ネタのリンクも貼ってあるんだから。」という、ある種の知的なジョークなんでしょうか。私のように慌てる馬鹿な読者がいるだろうことを、面白がられているのかもしれません。
イタリアに住んで26年目になりますが、この種のユーモア(?)を理解するのは本当に難しいです。笑えないどころか、とても嫌な気持ちになります。でも、こういうことで楽しめる人もいる、ということを知っておくことは必要だと思いました。

情報に敏感になってしまう緊急事態中です。どうか皆様、フェイクニュースに心乱されませんように。



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?