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マロンミルクティー

拝啓、店主様。
秋も深まって来ましたが、いかがお過ごしですか。毎年、お店の前の看板に「マロンミルクティーはじまりました。」の文字を見つけると、いつ伺おうかと、わくわくしながら過ごしていました。仕事が休みの日にお店を訪れると「今年もマロンミルクティーの季節ですね。」と、いつも優しく迎えてくれましたね。

私はマロンミルクティー、家人はコーヒー、そして、シフォンケーキを二人で一つ。マロンミルクティーには、軽く泡立てたミルクがのっている。少し砂糖を加えて、くるくるかき混ぜていただくと、栗の香りと、それを引き立てるほのかな甘みと、ぽってりとした食感で、一口飲むと、ほうっと、ため息がでる。シフォンケーキのふんわりした感じも、秋の休日のゆったりした雰囲気にぴったりだ。

お店ではマロンティーのティーバッグも販売していたので、自宅用に購入した。がんばった日や、ちょっと疲れた日には、自宅でマロンミルクティーを入れて、心を整えていた。家で入れると、たっぷり飲めるのがうれしかったし、丁寧な美味しさが味わいたくて、お店に行くのも楽しみだった。

異変を感じたのは春先だったか。突然、お店が休みになることが増えて、店先の植物も元気がなくなっていった。見知らぬ人がお店に立っていたこともあった。夏になり、なんとなくお店のことが気になって、コーヒーフロートを飲みにいったり、テイクアウトのコーヒーを買ったり、今までより、少し頻繁にお店を訪れるようにしていた。訪れたときはいつも、店主は優しくむかえてくれていた。

秋がはじまると、いつの間にか、「マロンミルクティーはじまりました。」の看板が出ていた。色々あったかもしれないが、ともかく、今年もマロンミルクティーをいただけそうだとほっとしたが、その後、お店が開くことはなかった。

拝啓、店主様。
お元気ですか。どうしてますか。おいしいマロンミルクティーをありがとうございました。どこかで、他の誰かが、マロンミルクティーの幸せを味わっていますように。

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