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どう訳そう?〜「手触り感」とか、「シュッとしてる」とか

通訳現場で出会う、「これ、どう訳そう!?」な表現

先日、とあるイベントで同時通訳をしていたときのことです。そこで出てきた「手触り感」という言葉に、思わずペアを組んでいる通訳の方と顔を見合わせて苦笑いしながら首を傾げてしまいました。通訳同士の「無言の会話」、良くある光景です。通訳中に訳しにくい表現が出てくると、思わず顔を見合わせて「うわ〜!大変なの出たね💦」みたいな反応をして慰め合う(?)のです。

昨今はコロナ禍で通訳も殆どがリモートで行うようになり、同時通訳でペアを組むパートナーとの「無言の会話」もめっきり減ってしまったのが寂しい限りです。


先述の話は、イベント自体はオンラインだったものの、通訳はイベントの配信会場で作業をすることになり、久しぶりの「現場」での出来事でした。

「手触り感」という表現が出てきたのは、そのオンラインイベントのパネルディスカッションでのことです。「ディスカッション」というのは、何が出てくるか分からないところが面白いけれど、通訳者にとってはチャレンジングでもあります。

以前、同時通訳者が分からない言葉に出会ったときには確実に分かるところまで抽象度をあげて訳出するということを書きました。


ただ、抽象度をあげるにしても、「手触り感」という言葉は日本語で考えても正直なところ意味がいまいちよく分かりません。また、「手触り感」の意味や定義は個人で違うようにも思います。

この時も、「手触り感」という言葉は物理的に何かを手で触った感覚について話しているわけではなく、「人との関わり方」のメタファーとして「手触り感が大事なんですよね」という文脈で使われていました。

人との関わりで「手触り感」と言ったときには、どういうことか????・・・

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考えてみても、「相手の顔と名前が一致するような関係性」とか、「相手の想いが感じ取れる距離感」などという意味なのでしょうが、やはりフワッとして掴みどころがありません。

メタファーとして「手触り感」と言ったとき、それが意味すること自体が曖昧なので(あるいは人によって感じ方が違うので)、抽象度を上げても訳せないのです。

・・・とは言え、通訳の現場では「訳せない」と止まってしまうわけにはいきません。「手触り感」が出てきたときには、順番で同時通訳をするためにペアを組んでいたもう一人の通訳者が訳していたのですが、抽象度を上げて「意味」を訳そうとしても無理なので、直訳で「sense of touch」と訳していました。「手触り」=touch、「感」=senseで、「sense of touch」ですね。

通訳パートナーのありがたさ

その時パートナーを組んでいたその通訳の方は、「sense of touch」と訳しながら私の方を見て首を傾げ、「この訳でよいのかな?」と目で問いかけました。

そして、私は「うん、うん」と頷いて「その訳でいいと思う!だって、他に訳しようないよね」という顔をして「無言の会話」を交わしたのでした。

あまり知られていないことですが、同時通訳者はこんな風に現場でペアを組むパートナーとお互いに精神的なサポートもします。訳しようがない言葉は「正解」も「答え」もないのです。それでも「えいや!」と訳出するしかありません。そういう時にペアを組んでいるパートナーが「うん、うん」と頷いて「それで良い!」という意思表示をしてあげることで安心して通訳を続けられるのです。

同時通訳の仕事を始めて20年以上が立ちますが、仕事のたびに緊張するのは新人の頃と何も変わりません。そして、この仕事はメンタルが大事だとも感じます。不安だったり、何か気になることがあると集中力がダダ下がるので、「この訳で良いのかな?」と不安に思う時に隣でウンウンと頷いて「良いよ!」というジェスチャーをしてもらえるだけで、その後のパフォーマンスに違いが出たりするのです。

もちろん、「その訳は違うんじゃない?」という場合はササッとメモを書いて、「こっちの訳の方がいいかも?」と目で合図したりすることもありますが、基本的には訳している人が集中して通訳できることが大切なので、余程勘違いして意味を間違えていたりしない限りは、「こっちの訳の方が良いよ」と隣から口を出すようなことはしません。


「シュッとしてる」も迷った

さて、「手触り感」で思い出したのですが、最近よく聞く表現で気になっているものに「シュッとしてる」というのがあります。
この表現が実際に通訳の現場で出てきたことはないけれど、「シュッとしてる」という表現に出会ってから、これを英語にしたらどうなるのか???・・・とずっと考えています(職業病ですね💦)

「シュッとしてる」も「手触り感」と同じで、イマイチ意味が掴みにくいんですよね。そこで、「シュッとしている」と聞くたびに、「シュッとしている」と言われている人を観察してその要素を自分なりに分析してみました。

大体こんな感じです↓

かっこいい、聡明な感じ、頭が良さそう、仕事ができる、キリッとしている、シャープ、カリスマ性がある、着こなしや身のこなしがすっきりしていて知性を感じさせる、などなど。

要素を分解して改めて意味を考えてみると、英語では”smart”かしら?と思っているのですが、どうでしょう?


因みに、スマートというカタカナ英語は「痩せている」という意味でも使われますが、英語の”smart”には「痩せている」という意味はありません。カタカナ英語のスマートが、どんな経緯で「痩せている」という意味で使われることになったのかは気になるところです。

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