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同時通訳者は分からない言葉が出てきたらどうするか?

通訳でも分からない言葉はあります・・・💦

「通訳の方は訳していて分からない言葉が出てくることはあるんですか?」

通訳の仕事をしていると言うと、よく聞かれる質問です。
答えは、「あります!」「めちゃくちゃ、ありますっ!!」「毎日ありますっ!!!😭」ですっっ!!

思わず興奮してしまうほど、通訳中に「分からない言葉」が出てくるというのは本当によくあることなのです。


まず、前提としてお伝えしておきたいのが、通訳は仕事の依頼を受けたら「分からないこと」がなくなるように事前に準備をします。資料の読み込みや単語帳つくり、関連情報を集めるなど、事前準備が当日の通訳の出来を左右するので必死です!

けれども、どんなに頑張っても全ての準備を完璧にできるわけはありません。通訳する相手も生身の人間なので、予想外の話題が飛び出したり想定外のことが起こるのは「普通のこと」でもあります。通常、通訳はパートナーを組み固有名詞や数字などのメモを取るなど、お互いにサポートをしながら作業します。なので、分からない言葉が出てきたときには、まずはパートナーを頼ります。

ただし、一人で現場に入ることもありますし、パートナーがいたとしてもパートナーの方も「知らない」「分からない」ということも起こり得ます。


分かるところまで抽象度をあげる

「分からない!」となったときに良く使うテクニックが、「確実に分かるところまで抽象度をあげる」ということです。

以前、このブログで表現力の引き出しを増やす、そしてピンチの時にも役に立つ「縦横斜めの言い換え表現」について書きました。


「抽象度をあげる」というやり方は「縦横斜めの言い換え表現」に似ているのですが、分からない言葉に出会ったときに、抽象度をあげることによって分かるところまで意味を広げるというものです。

例えば、話し手が「ニコニコ動物園のライオンのねいら」について話しているとします。「ねいら」というのは、名前つまり固有名詞ですね。

この「固有名詞」が聞き取れなかった、あるいは知らないという事態が起こったとします。

そんなときに、分からないからといって適当に「レオ」とか「シンバ」というのはいけません!❌正しい名前は「ねいら」なのですから、それ以外の「名前」をいうのは誤訳になってしまいます!


では、どうするのか状況別にみてみましょう。
状況1:名前はわからないけれど、「ライオン」の話をしているということは分かるという場合💡
「ライオン」であることは確実に分かっているのなら、「ライオン」と言っておきます。抽象度を上げて「ねいら」という固有名詞から、「ライオン」という動物の名称に意味を広げるのです。名前はわからなくてもニコニコ動物園にいるライオンであることは事実なのですから、「ライオン」というのは誤訳にはなりません。

状況2:「ライオン」であるかもわからないけれど、動物園の何かの動物であることは分かるという場合💡
「動物」であることは確実に分かっているのなら、「動物園の動物」と言います。これを「熊」とか「猿」とか当てずっぽうで言ってしまうのはいけません。誤訳になります!確実に分かるところまで抽象度を上げた形で言います。この場合は「動物園の動物」であることは分かるので、「ライオン」という特定の動物の名称から抽象度を上げて何の動物であるであるか特定はしない「動物園の動物」という言葉に意味を広げるのです。

状況3:「動物」なのかもわからないし、もしかして動物園に生えている植物の話なのかも?・・・という場合💡
動物か植物かさえ分からないというのであれば、「動物」も「植物」も含まれるところまで抽象度を上げます。例えば、生き物。動物も植物も生きています。「生き物」です。そんな場合は、「動物園に存在する生き物」と言うのは間違いではありません。

状況3に至ると、かなり苦しい感じはありますが(汗)、こんな風に分からない言葉が出てきたときには分かるところまで抽象度を上げて訳出します。そして、分からなかった言葉にアンテナを立てながら話を聞いているうちに「ねいら」という名前を聞き取れたり、理解できたり思い出したりするので、その時点で確実に分かるところまで抽象度を下げて特定した訳出をします。

通訳は「瞬間芸」なので、知らない言葉が出てきても止まるわけにはいきません。そのため、抽象度を上げて訳出をすることでその場を何とか乗り越えて(やり過ごして?)いるのです。

これは、通訳テクニックとして通訳学校で教わった方法ですが、日常会話でも使えるのではないかと思います。言いたい言葉が出てこないとき、知らないときには抽象度をあげることで「そのものズバリではないけれど、間違いではない表現」が可能になります。「縦横斜めの言い換え表現」と併せて英語の会話で使ってみてください!

抽象度を上げて訳出する方法は、私の著書の付録にも書いてありますので良かったら読んでみてください。

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