見出し画像

05.パーマ【沖家室】思い出備忘録

母は沖家室出身の父と結婚した頃、美容師だった。

小さな繁華街の外れにある店で、
その頃はヘアセットなどに訪れる常連のお客で繁盛していたらしい。
お客は少々気ままで気まぐれな人が多く、
機嫌が悪い日もあれば、気前よくチップをくれる日もある。
親戚の経営するその店で、
母はいとこや叔母と一緒に住み込みで働いていた。

一方、父は超がつくマイペースで、
子どもの頃、友達が家へ誘いに来ても
自分がしていることがあると、
生返事したままなかなか自分の部屋から降りて来ず、
誘いに来た友達を待たせてばかり。
こんなことでこれから人様とやっていけるのかと
祖母がヤキモキしながら見守っていたという。

そんな父も、明るく社交的で世話好きな母と結婚し、
「多少は」変わって一安心、と
祖母は胸をなで下ろしていたそうだ。

母の持つ明るさを、祖母は好ましく思っていたらしい。

私たち家族が島へ帰るときは、
1液、2液と書かれたパーマ液のボトルや
大きなおかきの缶に入れた色とりどりのロットを、
すでに荷物でいっぱいの車のトランクに詰め込む。
古くなったパーマ椅子を車で運んだこともある。

母が祖母にパーマをあてる為だ。

家事に仕事にと始終忙しい祖母の空き時間に
祖母専用の美容室は開店する。

居間より一段低くなった台所に椅子を置いて、
ケープを被った祖母が座っている。
その周りを母が忙しそうにくるくると回りながら
髪にロットを巻いていく。
私は母にロットと髪にあてる白い紙、
ロットにかける輪ゴムを渡す役だ。

髪を切ったりパーマをあてたりと
長時間にわたる施術を終え、
祖母がお風呂場へ髪を洗いに立ち上がる。

洗い終えた祖母の髪を母が乾かしている。
「できるだけ短くして、パーマ強めにあてたよ」といつも母が祖母に言う。
次にパーマがあてられるのは何ヶ月も先になる。

「あぁ、さっぱりした」
パンチパーマ寸前のような強いパーマがあたった髪に、
台所から差し込む夕日があたっている。
そのくるくるになった髪の下で、祖母が満足そうににっこりと笑っている。

「やぁりょう、えらいきれいになって」
開け放した台所の扉から通りががりのおばあさんが話しかける。
「今やってもろたんよ」
話好きの祖母が嬉しそうに答えている。

今日の夕飯は鍋いっぱいに作ったカレーとメバルの煮付けだ。
家の中にはまだパーマ液の匂いが漂っている。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?