04.メインストリート 【沖家室】思い出備忘録
沖家室には、海に沿って島の動脈とも言える車道が走っている。
この小さな島には平地がほとんどなく、
民家は海沿いにある僅かな平地を利用して建てられている。
周防大島からかかる橋から見て順に「州崎」と「本浦」という集落があり、
その2つの集落は、この車道で繋がっている。
州崎に、その車道に並行して山側に通る1本の細い道がある。
民家と民家の間に挟まれて、
人がやっと行き違えるというようなその道は、
かつて島のメインストリートだったらしい。
そのことを知ったのは、私が学生になってからのことで、
それまでずっと島のメインストリートは海沿いの車道であり、
山側の細い道はいわば裏道だと思っていた。
実は、車道は埋め立てにより作られたものだと言う。
今でこそ車道を挟んで海岸のやや内側に建っているように見える民家も、
実は埋め立てた車道ができるまで、
海のほんのキワに建っていたそうだ。
そういえば、洲崎の車道沿いに建っている民家のうち、
かなり昔に建てられたと推測される民家では、
玄関が車道に面して設けられていない。
車道に対し垂直に伸びる山へ向かう小道か、
私が裏道と思い込んでいた、かつてのメインストリートに面している。
そのかつてのメインストリートには、
食パンや牛乳を売るお店、
おもちゃなどを置いている店もあった。
その昔には、私も小銭を握りしめておつかいに行った記憶がある。
牛乳や食パンを買いに行ったお店では、
いつも前掛けをしたおばあさんがいて、
「ああ、いらっしゃいませ、帰りましたか」と
「ませ」が強調されたこの地方のイントネーションで迎えてくれる。
品物が売り切れていると、
「あら、ごめんなさい、売り切れました。
〇〇の次の入荷は◯曜日になります。
△△は毎週△曜日に入るから・・・それまでおられるかしら」と、
子ども相手に入荷日を丁寧に説明してくれる。
だんだん品物が入る間隔が空いてきている気がしたが、
お客として尊重してくれているのが伝わり、
調味料の賞味期限がちょっと過ぎてしまっていることなど、
まったく気にならなかった。
また、その店の向かいの並びには、雑貨などを置いた店があって、
そこには手持ち花火を買いに行くこともあった。
子ども心にいつの時代のものだろうと思うような
絵本やおもちゃ、雑誌が置いてあったりした。
ここでは眼鏡をかけたおじさんが店主だったと記憶している。
私が小さかった頃にはすでに数件になっていた店だが、
一つ減り、一つ減り、今はもうすでに無い。
ただ、店の構えをした建物だけが、
そこにかつて暮らしの賑わいがあったことを表している。
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