飲めない日に、ありがとう。

今回のテーマは、飲めない日、です。言うまでもありませんが、お酒が大好きな人を対象とした限定企画です。お酒を飲まない人からすれば、飲めない日が一日や二日くらいあったって、そんなのを困難や試練だといって騒ぐのは大人気なさすぎる、と思うかもしれません。いいえ、決して大袈裟ではないのです。飲めない日は大きな大きな試練なのです。だから左党にとっては、飲めない日が感謝できる日になれば、奇跡以外の何物でもないのです。アイスクリームを毎日食べる人にとってアイスクリームが食べられない日。サッカーを毎日観戦する人にとってサッカーが観られない日。そう例えれば気持ちがわかるでしょうか? というわけで、とても取り組みがいのあるテーマですので、一緒に解決策を考えていきたいと思います。

まず、当たり前ですが、飲めない日とは、意に反して飲むことができない日のことです。健康診断の前日とか、数時間後に車の運転をしなければならない日です。仕事をした後の一杯のビールを何よりの楽しみにしている人にとって、こんな日は気がおかしくなるほどの苦しみだと言っても過言ではありません。とても感謝などできるはずがありません。さて、どうしたら、いいでしょうか?

仮に、この解決策を公募するとします。多くの人から寄せられるアイディアのおそらく上位にランクされるのは、「休肝日だと思えばいいじゃない」ではないでしょうか。飲めない、という一見ネガティブなことを、肝臓を自然に休ませることができて良かった、と切り替えるのは、見事なリフレーミングではあると思います。実際にそう自分に言い聞かせている同志も多いことでしょう。しかし、いかがでしょうか? 自分ではなかなかできない休肝日を強制的に作れることができて、良かった。感謝します、と素直に感情が流れるでしょうか?難しいですよね。無理やり言わされている感じがしませんか。

理屈ではわかる。しかし、腑に落ちない。「休肝日だと思えばいいじゃない」はまさに典型的なこのパターンです。今回のテーマは、こうした見方、考え方を変えるだけの観念的な方法では感謝に昇華できない典型的な例です。そこで、ちょっとした裏技を使います。アクションを取り入れるのです。飲めないからこそできる○○○をやるのです。そうすることで飲めない日イコール○○○○をする日に転換し、飲めないというネガティブな意識から頭が離れるのです。では、○○○とは具体的にどのようなアクションでしょうか? まず頭に浮かぶのは車の運転でしょう。もし飲めない日が前々からわかっているのであれば、飲めないからこそできる車の運転を、この日は思う存分楽しむという計画を立てる。車の運転が好きな人にとってはかなりイージーな解決策です。この日はせっかくだから日光までドライブしよう。帰りは宇都宮で餃子でも食べるか。などと計画すればワクワクしませんか? 飲めない日がハレのイベントに様変わりします。

車の運転をしない、あるいはそれほど興味がない場合は、たとえばスポーツはどうでしょう。飲めない日は、走る。飲める日、つまり日頃は億劫でなかなかできないことを、この日にエイヤーとやってしまうという手もありです。車にもスポーツにも興味がない人へは、徹夜をおすすめします。飲める日はアルコールが廻るので眠たくなってしまいます。徹夜はまずできません。飲めない日だからこそ徹夜ができるのです。では、夜を徹して何をするか。いつもは忙しさにかまけてできないことをその日に集中して取り組んでみてはいかがですか? 読書を例に挙げると、通勤電車の中で読む週刊誌とかミステリーとかビジネス書ではなく、前々から読みたいと思っていた古典を読むのに、絶好のタイミングです。しかも長編の。もちろん一晩では読みきれませんが、読み始めるいい機会です。ドストエフスキーの『白痴』をその夜はぜひ手にしてください。サリンジャーの『フラニーとズーイ』を原書と村上春樹訳を交互に見比べながら読むのもおすすめです。こんな日がなければ、たぶんあなたはこのような読書体験をしないまま人生を終えてしまう可能性があります。飲めない日だからこそできる醍醐味です。

徹夜をすることでできることは古典を読むことに限りません。私のいちばんのおすすめは、仕事をすることです。会社に居残れる方なら、そのまま会社のデスクで朝まで仕事を続けなさい。時代に逆行したことを言うようですが、年に1度や2度は、長時間、集中して仕事に取り組む必要があります。溜まったタスクを一気に片付ける機会にもなりますし、日中はできない長期的な計画を立てるには、うってつけの時間になります。22時に強制的に会社が消灯してしまうなら、24時間営業のファミレスにラップトップを持ち込みましょう。飲めない日だからこそ体験できる濃密な夜となること請け合いです。翌朝は、溜まっていた仕事が片付き、あるいは1週間分の仕事を先に済ませることができ、あたかも大掃除を終えた後のような爽快感に包まれるでしょう。何度も言うようですが、飲めない日だから体験できることです。

定年退職し、現役を引退した方なら、これまでの人生で一度もやってこなかったこと、しかも大掛かりなことではなく、手軽に始められることに取り組んでみてはいかがでしょうか? 俳句とか書道とか油絵とか。ブログを書いてみるのもいいかもしれません。

飲めない日という逆境を、飲めないからこそできる日にする。この技もいろいろと応用が利きそうですね。


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