プログラム08  大切にされなさい。

一流のコピーライターを目ざしている君のことだ。努力家で、意志が強く、ストイックな性格だろう。すこし変わり者と噂されているかもしれないね。そんな君にとって、今までのプログラムは、抵抗なく挑戦できたのではないだろうか? 一晩500本も、エレベーターは最後に降りなさいも、風邪を引かない人になりなさいも、ランチを抜きなさいも、実行が難しければ難しいほど、君は燃えるタイプだろうから。今回は、そんな君にとってもっとも苦手なプログラムになるかもしれない。挑戦とは真逆の世界に足を踏み入れることになる。君から動くのではなく、受身に立つ。なんとなく居心地が悪いだろう。しかしこれも、一流のコピーライターになるための必修科目だ。決して、落としてはならない。

自分のために他人に大切にされる

他人から大切にされる経験をすること。家族や恋人、ではない。他人から、大切にされなさい。君に名声があれば、あるいは社会的地位があれば、やんごと無い人であれば、頼まれなくても、人は君を大切に扱う。しかし、君はまだ無名だ。地位も身分もない、若造だ。世間の誰も、君に関心はない。渋谷のスクランブル交差点を歩いていても、誰も君を振り向かない。当たり前だね。それがどうした、何が悪い! と思うかい? 普通に生きている人にとっては、スルーしてもいいことだけど、一流のコピーライターを目ざしているなら、この扱いに甘んじてはいけない。地位も身分も名声もない、今のうちから他人に大切にされる感覚を覚えなければならない。理由は2つある。ひとつは、それが自分を大切にすることに繋がるから。自分を大切にできなければ、どんな分野でも一流になれない。

他人に大切にされる方法

心理カウンセラーの心屋仁之助氏が、とある断食道場に行った時、その施設の人から「他人から大事にしてもらうこと」の大切さを教わった。カウンセリングの現場で「自分を大切にすること」の大切さを提唱してきた同氏は、クライアントからその方法がわからないと、よく相談を受けていたらしいが、「他人から大事にしてもらうこと」が「自分を大切にする」ことの具体的な方法になると気づき、早速アドバイスに取り入れたという。では、どうしたら大事にされることができるか? 一流のホテルやレストランに行き、洗練されたもてなしを受けること、マッサージやエステに行くこと、カウンセリングを受けて話をじっくり聞いてもらうことなどを心屋氏は例に挙げている。しかしこれらは、正直のところ高くつく。経済的に余裕がない君には、現実的ではないかもしれない。では、次のような方法はどうだろう。君の住む街に、一般向けに営業している茶室はあるだろうか? 京都なら叶松寿庵、横浜ならランドマークタワー65階にある開光庵など。そこで御茶をいただくことも、大切にされる感覚がかなり味わえる。費用もかからない。一期一会の心でもてなされる至福感。茶の湯というシステムを開発した人には頭が下がる。また、各国の大使館、領事館に行くのもいい。建物には“氣”がある。VIPが、日頃どんな“氣”に包まれて生きているか、そこに行けば全身で感じられる。かつては入館するのに敷居が高かったが、今は一般の人間が無料で気軽に参加できるイベントが催されているのでネットで調べてみよう。

このようなことに時間やお金を使っていると、他人から大切にされることが自然になり、自分を大切にする習慣が身につく。一流に、また一歩、近づく。

一流経営者の世界観を識る

地位も身分も名声もない、今のうちから他人に大切にされる感覚を知らなければならない。2つ目の理由。それは、いつか、一流の経営者から仕事の依頼が来た時に備え、依頼主の世界観、価値観がわかる人になっておくため。

「エルメスにキャッチコピーはないですよね」

そう言って、糸井氏はコピーライター引退宣言をした (2015年5月25日朝日新聞)。今のエルメスに、たしかにキャッチフレーズは必要ないだろう。しかし、未来永劫そうとも限らない。エルメスがコピーの力を必要とする日が、いつか来るかもしれない。その時のために、君は備えなければならないのだ。一流の世界を知らなければ、エルメスのキャッチコピーはつくれない。一流のコピーをつくるには、一流のコピーライターにならなければならない。いいだろうか。

一流が君の身の丈になるまで、しっかり他人に大切にされること。いい思いを、とことんしなさい。

今日は、ここまで。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?