片思いに、ありがとう。

今回のテーマは、片思い、です。片思いの経験のない人、いわゆる狙った相手を100発100中で落とせる恋愛の達人も、この世界には一定数いるらしいですが、私たち一般人は誰でも一度は、とくに思春期には、経験してきた通過儀礼です。過ぎてしまえば甘い思い出かもしれませんが、なかなか意中の相手に思いが伝わらないもどかしさは、どうすることもできない心の痛みです。胸が張り裂けそう、とはまさに言いえて妙な表現ですね。

さて、この片思いという辛い体験のどこに感謝すべき点はあるのでしょうか? 魂(精神力)が鍛えられることにある、とはよく聞く話です。心が傷ついたぶん、魂が磨かれる。涙の数だけ強くなれる、と歌にもありますね。ちょっとやそっとのことでは、へこたれないマインドパワー。負けない心が生まれます。あの人が振り向いてくれないのは辛いけど、私ではなく、あの人が選ばれたのはとても悔しいけど、これで私も大人になった。次の恋はぜったい負けないぞ、とかなんとか言い聞かせて、片思いというマイナスの事態を乗り切った経験は多くの人にあるのではないでしょうか? ひと言で表現すれば、タフな心を育てるのが、片思いです。

他人の心の痛みがわかる人になれることを、片思いの効用にあげる人もいます。傷ついたことがない人に、他人の心の痛みはわかりません。傷ついたぶん、人には優しくなれます。その優しさは、きっとあなたをより魅力的に変えるでしょう。

心理学者のなかには、あなたが愛されないのは、あなたがあなたを愛していないからだ、と主張する人もいます。つまり、相手は鏡で、あなたの目に映る相手は、まさにあなたの投影だと。このミラー理論によれば、片思いを通して、あなたは自分で自分をどれだけ愛していないかを確認することができた。自分の心の状態を診断できたことになります。

強くなれる。優しくなれる。自分を識ることができる。片思いという現象に感謝すべき点があっという間に3つも見つかりました。前回のリストラ編に比べて、今回のテーマは比較的やさしかったかもしれません。私たち一人ひとりが片思いの経験を通して学んだ知恵の賜物とも言えましょう。しかし、ここにとりあげた感謝すべき効用は、実はあくまで表面的なものに過ぎず、片思いには知られざる深い意味があることを、これから一緒に見ていこうと思います。

それは、あなたが愛されているという事実です。恋が片思いに終わっていちばん感謝しなければならないことは、あなたは愛されているのだということを識ることなのです。何をバカなことを言っているのですか? 愛されていなかったから、片思いに終わったのではないですか? こうあなたは反論するでしょう。そうです。たしかに表面上は、あなたは選ばれませんでした。好きなタイプではなかったのか、疎ましかったのか、そもそも関心がなかったのか、生理的に合わなかったのか、他に付き合っている人がいるから目に入らなかったのか、正確にはわかりませんが、結果として、あなたの思いは伝わりませんでした。なぜなら、それがベストの結論だからです。そのとき、あなたが相手と両思いになってはいけない確固たる理由があるからこそ、片思いに終わったのです。その確固たる理由とは、これから出会う人との恋愛のためかもしれませんし、何か大きな仕事に取り組むためかもしれません。今はわかりません。なかなかわかりません。でもきっといつかわかります。ああ、こういうことだったんだ。だからあの時あの人とは結ばれなかったんだ、と目から鱗が落ちるようにわかる日がきます。そうなって、はじめて人は片思いに終わった恋に感謝します。人は未来が見えないのだから、これから起きる出来事を先取りして感謝しろというのは無理な話かもしれませんが、それをあえてするからこそ意味があるのです。

大いなる計らいの中で私たちは生きているのです。いや、生かされているのです。それに気づくことが片思いという心の痛みの本質なのです。わかりづらい話ですか? 納得できないですか? そうですね。今はそれどころではありませんよね。届かなかった思い、傷ついた心の痛みのことしか考えられないですよね。でもいつか、腑に落ちる日がきっときます。若いあなたに今すぐ理解しろといっても無理かと思いますが、齢を重ねさまざまな恋愛経験をしてきた大人の方なら、きっと共感してくれる話でしょう。あのとき、あの人と恋仲にならなくて本当に良かった。あなたも確実にそう思います。そのときが来るまで、今はただ、「愛されないことで愛されている」とだけ覚えておいてください。


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