東京パラリンピックの選手村が楽しすぎた話

 8月21日、入村。自国開催であり、かつ俺のレースは試合の後半なので、無理に選手村に入らなくても、ナショナルトレーニングセンターなどの隔離施設で調整することもできたが、せっかく東京パラリンピックだから、村に滞在することにした。ご飯もおいしいって噂だったし。
 ご飯は、確かにおいしかった。おいしいというか、普通だった。
 国際大会に行った時って、「これはなんなんだろう」とか、「どんな味がするんだろう」とかって、思いながら食べて、「うわなるほど、そういう感じね」ってなりながら食事をする。
 今回は、例えば餃子を頼んだら、
「うん、まあ、そうだよな」
ってのが出てくる。よくある冷凍食品だから当たり前なのだが。
 ペットボトルのお茶が飲めたり、レースの合間にうどんとかそうめんが食べられたりしたのは、日本開催の恩恵を最大に感じた。

 今回俺が住んでいたのは、11号棟の608号室。もし選手村跡地の分譲マンションの購入を検討している人がいれば参考にしていただきたい。
 608号室は、リビングを中心に、シングルルームが四つ。4人でルームシェアしてる感じ。
 メンバーは、木村(4大会目)、鈴木(5大会目)、山田(5大会目)、窪田(初出場)と、30を過ぎたおっさん3人プラス初出場の大学生だった訳だが、これがもう、楽しすぎた。マジで、ストレス0。


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今回はプールで直接仲間の応援をすることが難しかったので、基本的にレースはリビングでネット中継を見ながら応援した。かなりのボリウムで大騒ぎをしていたと思うが、苦情は一度も来なかったので、防音はしっかりしていたみたいだ。もし選手村跡地の分譲マンションの購入を検討している人がいれば参考にしていただきたい。

 大会初日、早速鈴木選手が銅メダル獲得。608号室はいいスタートを切った。これから何千人もが触れるであろうメダルが綺麗なうちに、べたべた指紋をつけておいた。
 翌日、鈴木選手が金メダル獲得。今日もべたべた触ってやろうと思ってみんなで待っていたのだが、
「きむちゃんは自分で取りなさい」
と、俺だけ触らせてもらえなかった。
なんか、言うことかっけー。

 3日目は窪田選手のメイン種目。この窪田、驚くほど素直であった。
 結果は自己ベストで5位と大健闘、パリにつながるいいレースをしてくれたのだが、メダルへのこだわりが強くなったらしく、自分のレースの表彰式をしっかりと目に焼き付け、その日以降、表彰式の音楽をアラームに設定していた。悔しさを忘れないためだそうだが、この音楽で起きられるのか?

https://www.youtube.com/watch?v=WZ1986ZRTmE




 大会九日目の夜、いよいよ明日は俺のメイン種目、100mバタフライ。
 すでに緊張状態に入っている俺は、早くもそわそわと落ち着きがない。すると、山田選手が一言、
「まあさあ、もし負けたとしてもさ、木村が世界で一番すごいってみんな知ってるから」
なんか、言うことかっけー。
 とりあえず、いいメンバーに恵まれた部屋だった。

 アメリカで練習をしていた時の仲間とも再会することができた。

 海外でのトレーニングのそもそものきっかけをくれたSnyder選手は、今回はトライアスロンに挑戦、他を寄せ付けない圧倒的な強さで優勝した。
 俺が200m個人メドレーで5位に沈んだ翌日、朝食をご一緒させてもらった。

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 「昨日のレースはどうだった?」
 「いやあ、あまりよくなくて、なんかその、…」
 「ああ、わかった、もうそれ以上言わなくていい。切り替えて、次のレースだけみていこう」
 なんか、言うことかっけー。

 一緒に練習をしていたMcKenzieは、最終日の夜にゆっくり話をすることができた。

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彼女のメイン種目、400m自由形は、これまで彼女の独壇場だった。ところが、本番直前にイタリアから強敵が現れ、結果的には最後まで二人で激しいレースをして、
ぎりぎりでMcKenzieが勝った。よかったよかった。
 「インタビューで何回も敬一のことを聞かれたから、彼は勝つに決まっているって言っといたから」と、自分のレースには自信なかったのに、俺のレースの時は自信あったらしい。
 ちなみに俺もミックスゾーンではMcKenzieのことを沢山聞かれた。
 「私以外をトレーニングパートナーって言ったら許さないって言ってましたよ」と聞かされた時は、嬉しいような怖いような、変な汗が出た。
 終わってしまえば何とでも言えるし、金メダルとったらどれも美談になるわけだが、それにしても、いい人たちに恵まれていた。

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