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「JAMPの視線」No.193(2023年9月10日配信)

次世代の、挑戦する金融へ
日本資産運用基盤グループ メールマガジン【JAMPの視線】

目次
①JAMP 大原啓一の視点
②NewsPicks ダイジェスト
- 代表取締役 大原啓一
- 主任研究員 長澤敏夫
③お知らせ・ニュースリリース
④インフォメーション

JAMP 大原啓一の視点 2023年9月10日

 今週末は地元の神社で例大祭が行なわれたのですが、コロナ禍で取りやめになっていた露店も今回は数年ぶりに復活するということで、子供たちを連れて参加してまいりました。地元の人たちも久しぶりの完全復活の例大祭を心待ちにしていたのか、最寄り駅の駅前の道路は露店と人だかりで前にも後ろにも進むのが難儀なほど混雑をしていましたが、我が家の小学校3年生の長男と幼稚園年少の次男は露店がたくさん出るお祭りは初めての経験だったので、とても楽しんでおり、良かったなあと感じました。
 さて、少し前のニュースにはなりますが、オンライン証券会社大手のSBI証券と楽天証券が今月末・来月頭から国内株式の取引手数料を無料化することを発表しました。取引手数料の無料化自体はSBI証券が以前から今年度中の移行を発表していたため、その事実もタイミングもそこまで大きなサプライズではありませんでしたが(IPOを控えている楽天証券も同じタイミングで同様に手数料無料化に踏み切ることは正直なところ驚きを感じましたが)、私が改めて感じたのは、「日本のリテール金融業界はいよいよルビコン川を渡り、後には戻れない厳しい事業環境に足を踏み入れることになったな」という待ったなしの危機感です。
 当然ながら手数料無料化の動きそのものは利用者である個人投資家にとってはポジティブなものですし、足もと岸田政権が進める「資産所得倍増計画」のもとでの貯蓄から投資(資産形成)への流れのなかで、個人の金融資産がリスク性資産へと移動することを後押しすることが期待されるのも事実なのですが、リテール金融業界がこのインパクトに耐えきれるのだろうかというのが私の不安です。「金融機関の利益を重視するあまりに個人投資家の利益が軽視されている」というのはよく言われる表現ですが、今回のことはまるで「個人投資家の利益というお題目のもとに金融機関の持続的な利益獲得という視点がおざなりにされている」という奇妙な表現があてはまるように感じます。
 証券会社の売買委託手数料の無料化については、米国では既にそのような動きは広がりつつあり、彼の地で実現できているのだから日本で同様の動きがあっても驚きでは無いという意見もありますが、これもよく言われているように、米国では複数の株式流通市場が存在し、それら流通市場へ注文を回送する等で証券会社が収益を得る事業環境があるため、個人投資家から直接の手数料を得なくても事業性は成り立つ等、日本では存在しない独自の状況があります。そのような事業環境がなく、売買委託手数料を代替する他の収益源の確保が十分ではないままに、手数料無料化という未経験の取組みに足を踏み入れるというのは、リテール金融業界全体としてリスクが大きいように私は感じます。
 今回の場合、SBI証券や楽天証券の動きに他のオンライン証券会社は追随しないようですが、その判断は当然だとは思いつつも、水が高きから低きに流れるように、中長期的には個人投資家の取引は無料化を導入する証券会社に大きく移っていくことは避けられないと思われ、そのことはリテール金融業界全体としての収益額の減少を意味する以外の何物でもありません。他のオンライン証券のみならず、対面証券会社もこの動きには巻き込まれざるを得ず、持続的な事業継続が危ぶまれる金融機関が出てくるなど、リテール金融業界全体の再編が進むカタリストにもなると思われます。
 私は以前から証券売買委託等のブローカレッジ付加価値及びそこでの利潤はいずれ消失し、その後を期待されるアセットマネジメント付加価値とその利潤も後を追うように消失を余儀なくされるという悲観的な予想に基づき、リテール金融業界は中長期的に新たなアドバイス付加価値の提供に移行すべきだという考えのもと、ゴールベースアプローチ型資産運用アドバイスサービスへの取組みを提唱してきましたが、それがいよいよ待ったなしになってきたという切迫感を強く感じます。理想的にはブローカレッジ手数料やアセットマネジメント手数料がわずかながらでもまだ残っているうちにアドバイスサービスを軸とする事業モデルへ移行できれば良かったのですが、残念ながらそのような世界線は実現しませんでした。今から私たちができるのは、SBI証券と楽天証券が開始するブローカレッジ手数料の無料化にリテール金融業界が侵食され、金融機関の多くが生き残れない状況に至るまでに利潤消失が加速しきってしまう前に、アドバイス付加価値を主軸とする事業モデルへ移行するということが何とか間に合うという世界線を実現することだと考えます。
 いずれにせよ、賽は投げられ、私たちはルビコン川を渡ってしまいました。もう後戻りはできません。ここからは個人のお客様の資産形成・運用を支えるというミッションと金融機関の生き残りという両立を実現するための時間との戦いになります。明るい世界線が実現することを祈念しつつ、私たち日本資産運用基盤グループもその実現に貢献できるように全力を尽くしてまいりたいと思います。

News Picks ダイジェスト(代表取締役 大原啓一)

2023年9月4日
【松本マネックス会長、手数料無料化は波及せず 「どう考えても赤字」】
大原のコメント→
 株式等売買委託に代わる新たな付加価値と収益源泉を業界として明確に確立できていない状況であり、その意味において本記事で述べられているようにこの手数料無料化の動きが業界全体に一気に普及するということは考えにくいように思います。
 一方、水が高いところから低いところに流れるように、一部の証券会社ででも手数料無料化が実現された世界においては、・・・(続きを読む)

2023年9月5日
【損保ジャパン経営陣に問題 金融相、立ち入り検査実施を表明】
大原のコメント→
 今事務年度の金融庁の注力領域は何よりも「資産運用立国」構想の実現のための諸施策策定と実行だと考えていましたが、降ってわいたようなビッグモーター問題で損害保険業界の不正に対する調査・処分というものも出てきました。
 もちろんそこで不利益を被っている金融サービス(損害保険)の利用者がいるのであれば早急に対応しなければならないとは思いますが、後ろ向きな対応に忙しくすることにより、・・・(続きを読む)

2023年9月6日
【NEC、金融助言会社を買収 会社員の資産形成支援】
大原のコメント→
 ジャパン・アセット・マネジメント社は著名な老舗IFA会社がけん引するIFA業界においては比較的新興勢ですが、新卒採用を行なっていたり、独自のファンドラップサービスを開発したり等、新たな取り組みを積極的に行なっている会社として注目を集めているIFA会社だったので、驚きました。

News Picks ダイジェスト(主任研究員 長澤敏夫)

2023年9月4日
【セゾン投信の中野晴啓前会長、新会社設立 直販見直しも】
長澤のコメント→
 資産運用業がいまだかつてないほど注目を浴びている今、新しい資産運用会社を立ち上げるのは絶好の機会かもしれません。新設の会社だと過去の負の遺産がないので、プログレスレポートで課題とされている基準価額の一社計算をはじめとした事務の集約・効率化に取組むことで、運用機能への特化がしやすいといったメリットが大きいのではないかと思われます。
 また、同プログレスレポートによると、独立系の資産運用会社は、グループ全体の経営方針等に左右されることなく、自由なカルチャーの下、運用力の強化に注力できることもあり、・・・(続きを読む)

2023年9月5日
【沖縄地銀の「寡占」変調 住宅ローンにネット勢の脅威】
長澤のコメント→
 商品として考えた場合、住宅ローンはコモディティ化が進み、融資金額、期間などでの差別化は難しく、単純な金利競争では収益性の低下が不可避であり、金融機関サイドから見て魅力的なビジネスではなくなってきていると思われます。
 しかしながら、ネット銀では審査が通らないような顧客に対して、勤務先の地元企業の状況を熟知していることによるリスクテイクや、長年の預貸金取引等を通じて得た信頼や情報をもとに、・・・(続きを読む)

2023年9月6日
【株保有の有無、世帯の消費に月3.5万円の差 白書で推計】
長澤のコメント→
 同じ可処分所得であれば、株式を保有している世帯の方が、消費支出が多いとのこと。興味深い記事ですが、自分で働いて得た所得よりもお金に働いてもらって得た所得の方が、財布の紐が緩むというのは感覚的にも納得感があります。特に配当金などは、保有株の損益に関わらず、お小遣い的な感覚で好きなことに使うとか、消費に回りやすいのではないでしょうか。
 政府は、資産所得倍増プランを進めていますが、新NISAの投資枠1,800万円は、含み益は含まない投資元本ベースでカウントされ、また、投資期限も無期限ですので、一般生活者にとっては十分な金額かと思われます。自戒を込めて申し上げると、・・・(続きを読む)

お知らせ・ニュースリリース

■地銀有価証券運用に関するWebミニセミナーの開催について

9月13日(水)16時から主に地域銀行の経営、企画部門、有価証券運用事業ご担当者様向けにWebミニセミナーを開催させて頂きます。
「有価証券運用セミナー~地域金融機関が抱える課題と今後の展望~」

インフォメーション

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