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幸せになることをやろう。
新潟の実家に行ったら、玄関の鍵が閉まっていた。チャイムを鳴らしたら、家の中から「けいごか!?」と叫ぶ声が聞こえて、バタバタと足音がした。ガチャと玄関の鍵が空き、扉を開けたらパンツ姿の母がいた。母は「一人きりだから、こんな格好で過ごしていたよ」と笑った。俺はこの母親から生まれたんだなと思った。母親は異様に明るく、この前も趣味のボーリングで190という比較的高スコアを叩き出した。成績表を見せながら「すごいだろ!ダブルだ!ターキーだ!奇跡が起きたんだ!」と言った。
母親に会う前は「夏バテと花粉症でへばっている」と聞いていた。だが、実際に会った母は、風邪を引いた時のこどものように元気だった。私には、五歳年上の姉がいる。牡牛座の姉は、一族全員のアゴが外れるほどズボラな人間で、誰がどう見ても怠け者だった。姉のおかげで、私は女性に過度な期待を抱かなくなった。しかし、そんな姉も現在は結婚をして、二人の子供を育てている。へばっている母に「これを飲むといいよ」と言って、比較的高額な甘酒を買ってきた。あの姉が、母に、甘酒を提供する日が来るだなんて。人間は変わるんだなと思った。
動かざること山の如し。そんな姉が、自家製の梅干しを作ったり、子供を連れてあちこちに行ったり、PTAに参加をしたり、活動的な日々を過ごしている。私は「信じられない」と思った。幼少期、私は、姉から「バレない悪事は悪事じゃない」「挑発はするものであって乗るものではない」「感情が揺れた時は笑え」などの薫陶を受けた。あの姉が、極道よりも非道な姉が、結婚を機に変わった。姉の旦那さんは「坂爪家は不思議だね」と言う。姉の名前は香織と言う。姉の旦那さんは「香織さんは何が起きても動じない。なんでこんなに腹が据わっているのかわからない」と言う。動かないこと山の如しの姉は、動じないこと山の如しでもあった。
女性陣が元気だと、家庭内の平和は保たれる。亭主関白や、男尊女卑は、言語道断。女性誌は「愛される女になるために」的な特集を組む。だが、母や姉を見ていると、愛されるよりも愛させる方が重要だと思う。愛されるよりも愛する方が幸せだとか言うが、彼女たちは、もっと暴虐で、暴君で、楽しそうだ。愛されるために尽くすとか、一輪の花のような健気さはない。ヤクザのようにドスを効かせて、海賊のようにガハハと笑う。それが可愛くないのかと言えば決してそんなことはなく、暴君には暴君の可愛さがある。パンツ一丁の姿で「ダブルだ!ターキーだ!」と叫ぶ母に、坂爪家の血筋を見た。
四歳年上の兄は、この前、母方の実家である山形県の小国町に行った。兄も結婚をしていて、二人の子供を育てている。我々の祖母は現在97歳の高齢で、軽い認知症がはじまっている。兄を見ても「お前は誰の子だ」と言う。そんなことはお構いなしに、兄は趣味の昆虫採集に出かける。二人の子供を誘っても「行かない」と断られる。そんなことはお構いなしに、兄は一人で昆虫採集に出かける。坂爪家一族には「なんでわかってくれないの」的な健気さがない。センチメンタリズムがない訳ではないが、そんなことより昆虫採集。珍しい生物を見つけて、自分のことなんか忘れてうわあとなっている瞬間に、喜びを感じる。私は、父や母や姉や兄を見ている時に、珍しい生物を見た時のような喜びを感じる。幸せになることをやろうと思う。
思い切って憧れの人に
会いたいと連絡してみた
返事が来ないかもしれない、会えてもすぐ帰ってしまうかもしれない
そう考えるだけでドキドキした、緊張で胸が熱くなる
遅くなりました、と返事が来た時にやっと落ち着いた
駅で待ち合わせして時間通りに現れたK氏はすごく自然にそこにいて嬉しかった
気持ち悪いくらいニヤニヤしてしまった、バレないように唇の内側を噛む、ニヤニヤをおさえる、、抑え切れない恥ずかしい
2人並んで階段を降りてドキドキします、と言うとドキドキしますね、と言うK氏。目があってそれで余計にドキドキして顔が熱くなって早くビールを飲みたいですねと言った
タコ焼きを食べながらビールを飲んでK氏のタバコを図々しくももらう
途中タバコを買いに行ってくれた時に不安になる
隣にいてくれた夢のような人が夢のようにいなくなるかもしれないと不安になる
夢が叶うのは嬉しい、でも手に入ったら既になくし始めていると感じてしまう
何も手に入ってはいないのにまるで手に入ったように勘違いしてるだけなのに
それは時間と同じ
その時が来て
その時が過ぎていくだけ
K氏は歩くのが早いんだろう、すぐに戻ってきてどうぞ、とタバコを置いた
手が、強そうな手がまた私をドキドキさせた
酔っ払ってきてもう何を話したのかわからないけれど出来るだけ自分の汚いところを見てもらいたかった
そんな私に時々かわいい、と言うK氏、変わった人だ
と、思ったけど
そうか私はかわいかったのかもしれない
きっと恋に落ちたからなのです
私のとりとめのない話を
それから?と聞き続けてくれる
話の着地点を何度も失ってしまうのはいちいちドキドキしてしまうから
まつ毛の長い大きな目に、
綺麗すぎる横顔に、
時々ぶつかる手に、、
K氏にはわたしの正体を暴いて欲しいと言ったけどK氏にたくさん話を聞いてもらってわかった
正体なんてなかった
何も隠してなくてわたしはわたしのままだった
こんなに人に嫌われるのだからきっと私の正体はトグロを巻いていると決めていたけど
そんなことは私の妄想で、言い訳で、ウラオモテなしのわたしがそのまんま嫌われているだけなのです
誰にも嫌われたくないのはどうしてなのだろう
1人ぽっちになりたくないからなのかもしれない
誰からも愛されたいのは
何故なのだろう
居場所がなくなるのが怖いからなのかもしれない
でも私はしっているじゃない、1人ぽっちなんて一度もなったことがない、きっとこの先も1人ぽっちにはならない
居場所なんて特にいらない
そこに居ればそれが居場所なんだから
少なくとも私にはK氏がいる、連絡をすれば都合のいいとき会ってくれるだろう
もしも全員に嫌われたらK氏はよくやった、とむしろ褒めてくれるだろう
恋をするのは久しぶりで本当に気分がいい
誰かを好きになるのは自分を好きになるのに似ているのかもしれない
K氏本当にありがとう
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おおまかな予定
8月15日(木)新潟県新潟市界隈
以降、FREE!(呼ばれた場所に行きます)
連絡先・坂爪圭吾
LINE ID ibaya
keigosakatsume@gmail.com
SCHEDULE https://tinyurl.com/2y6ch66z
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