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【映画のパンフ 全部見せ】No.6 『マルサの女(1987)』

伊丹十三 生誕90年ということで、 午前十時の映画祭で『お葬式』と『マルサの女』を映画館で上映です。ということで今回は『マルサの女(1987)』のパンフです。

監督3作目にしての一つの到達点が『マルサの女』かと思います。映画に興味がある人や伊丹十三ファンの人の垣根を越えて、日頃そんなに映画に興味がないような人も映画館に足を運ばせるくらいの惹きつける力があって、それでいて伊丹十三独自の世界を展開する『娯楽あり情報ありのエンターテイメント映画』です。

観る人を全開で楽しませる感じが伝わる漫画風な表紙

今作は娯楽映画ではあって、お茶の間で家族みんなで見れるような当たり障りのない作品というわけではありません。
いきなりオッパイを吸っている老人からはじまりますし、脱税する側の権藤_ごんどう(山﨑努)の特殊関係人(愛人のことです)との生々しいベッドシーンなんかは「ちょっとリアルすぎないか」と容赦ない濃厚さがあります。それに対してコミカルなマルサの板倉亮子_いたくらりょうこ(宮本信子)がぶつかる。この二人の対決が中心のお話です。

「なにしろ脱税する者と摘発する者との、知能の限りを尽した戦いの映画ですから、取材しないとセリフ一行書けません。(略)
この映画を僕は一種のハードボイルドの探偵モノとして、とことんリアルに作ろうと思ったんです」

(パンフレット3ページより)
(パンフレット4ページより)

このパンフはいくつもの映画へのコメントで埋まっているが、読んでいくとサラリーマンや建築業や主婦などの中に芸能人がいくつか入っているのを発見する。(梅沢富美男、畑 正憲、タモリ、篠沢教授、赤塚不二夫、泉ピン子、ほか)

「あなたみたいに忙しかったら、金を使う暇がないから残るだろう」といわれますが、残らない。せんぶ税金ですよ。とにかく、ワーッと一年間衝いて、その貯金がたまりますね。税金かきたら、だいたいなくなっちゃいますね。だから、自分の収入分で生活をしていって、あんまり残らない。さすがに、税金払えなくて困ったことはないけど。よくあるらしいですね、もう源泉払っているから、せんぶの収入が自分の収入と間違えて使ってしまった芸能人がいて、税務署員が気の毒がったという話が。(略)
芸能界に入って、正直言って、これだけ高いとは思わなかったですね。累進課税とは知ってましたけどね。上がりグラフがこれほど急激に上がってくるものだとは、思ってなかったですね。
そうすると、あまり働いて稼いでもしょうがないと思いますよ。ほどほどに働いて、ほどほどの税金を納めて⋯⋯これ以上の仕事はやめよう、という気分になりますね。●タモリ・タレント

(パンフレット10ページより)
パンフレットよりキャスト紹介

ある時パチンコ屋の若旦那が、自分のうちに査察が入った話をしてくれたわけです。(略)
査察が入ってから親爺は頑張ったんだと。毎日の取り調べにも負けず半年も頑張ったんだけれども遂にオチた。そのオチたきっかけというのがね、毎日調べていた担当の査察官がある日、調べたあとでね、窓の外に大きな夕日が落ちてゆく。その夕日を二人で眺めながら、ポツンとね、仮にその社長の名前をサトウさんとするなら、サトウさん、もうやめましょうよ、と。いつまでもこんなことをしていると、あなた実業家として駄目になってしまう。俺はそれが心配なんだと。あなたが実業家として駄目になったらメインバンクはさっと手を引くよ。メインバンクが引いたら、これは動物が血を抜かれるようなもんだ、査察が入ってのびなかった会社はないんだし、あんたは十分息子さんたちのために頑張ったんだから、ね?もうサトウさん、いいじゃないか、このへんでやめにしようよ、と落ちゆく夕日を見ながら語ったというんだよ。

(パンフレット2ページより)

なにしろ今の世の流れは “受ける=儲かる” 作品かどうかが大事であって、なにかの作品がヒットしたりすると「ヒットしたあの作品っぽいものを作って」で似たような作品が次々と作られる。
今までにない作品なんてものは求められていなくて、そういう作品は「みんなが見慣れていないのでヒットするはずもないだろう」となってて、そんな作品にはどこもお金を出したりしない。そう私からは見えてる。

伊丹十三作品というのはそういう世の流れとは全然別のところから出てきたような作品に感じる。
暗闇の映画館の中で、自分と映画が一対一で向き合う作品。娯楽でありながらワイセツでありイカガワシイ感じのある作品。そういう映画ならではの世界が伊丹十三作品には流れているようにように思う。

映画を観る環境はシネコンとかで便利になったて整ってきましたが、その反面切り捨てられたり失われたりしたものもあって、それがいったいなんだったのかを今のスクリーンで伊丹十三作品を見たら、わかったりするのかもしれないとか思う。

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