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【映画のパンフ 全部見せ】No.8 『台風クラブ(1985)』

言葉で説明しないシナリオと映像で表現する監督によって作られた、言葉では表現しにくい傑作と思います。
ザラついた映像にバービーボーイズの曲(『翔んでみせろ』)がかかると、想定外の化学反応が起きて頭がクラクラする。

一発で作品の世界感が伝わってくる表紙イラスト

強烈な"毒"が、将来への期待を抱かせる。
第一回東京国際映画際・国際新進監督コンクール審査員
今村昌平

 評価されたのは、この映画のもつ"毒"のひとことにつきる。
 子供たちのありふれた日常が、相米君の手にかかって不思議な光を放つ。

(中略)

 ここに云う"毒"とは、過去の価値体系では如何ようにも捉え切れない価値。反体制、反常識というような言葉では表現し切れない、もっと人間の奥底にひそむ恐ろしい魅力とでも云うべきか。結局は"好きか嫌いか"ということになるのだろうけど。審査員のベルナルド・ベルトルッチ監督もイシュトバーン・サボー監督も同じ意見だった。
 若い人たちに我々が何を期待してるかといえば、"新しい価値"だろう。
 この作品は破綻に満ちている。荒けずりで非論理的でよくわからない。けれどそれがブッ飛んでしまうような強さがここにはあって、将来への期待を大いに抱かせるものだった。
(映画監督)

パンフレット5ページより
左は恋人の母親に責められる梅宮先生(三浦友和)

脚本の加藤祐司さんの作品は全部で3作(『教祖誕生(1993)』とか)くらいしかない。見えないもの描こうと挑んでいるような感じがして、彼の書いた作品をもっと観たい。
相米慎二監督のこの作品と同じ年に作られた『ラブホテル (1985)』(脚本:石井隆)を夜に部屋を暗くして観ると、水中に沈んでいくようで最高に心地いいです(ロマンポルノ作品です)。

映像を言葉にしてしまうと、
虚しくなるから好きじゃない。
相米慎二

映画は面白けりやいい。というのが俺の持論。この映画は何を言いたかったのかとか、あのシーンはどうのこうのとか人は聞きたがるけど、「セーラー服……」だって『翔んだカップル」だって、そう
いう難しいこと考えて作ってるわけじゃない。「魚影の群れ」にしても鮪漁船の話だけど、あんな漁れるか漁れないかわからない魚を追っていく話を映画にしようとは誰も思いそうにない。だけど俺は面白いと思つた。「台風……」もそうだ。これはシナリオ・コンクールの応募作品だけど、読んで"面白い"と思った、それが全てだ。

パンフレット11ページより
思春期の少年少女の長回し映像に惹きつけられる。

■高見理恵
工藤夕貴


「台風クラブ」。私はこの名前を聞くと、胸にジンと熱いものが走ります、それはきっと、沢山の想い出が今の私の心にそのままよみがえるからだと思います。
台本を手にして、オーディションを受けることになり、初めて相米監督と会ったのは、私が13才の時でした。
相米監督は下駄をはいて机の上にねころんでいました。何だかその姿が妙に印象的で、「変な人だな。」とつくづく思いました。そして、主役をいただいて撮影に入り、数えきれないほど相米さんや助監督に助けられ? 死ぬほどしごかれました。
ゴミ、しじみ。そう呼ばれながら真剣に、「最後までやるんだ。」そう自分に言い聞かせながら頑張りました。
そして最後の日、私は「この映画は私自身への挑戦だったんだ。本当にやってよかった。」そうしみじみ感じました。今、全てを通りこして、私はこの作品を愛しています。皆さん、皆さんがこの作品を観て、それぞれの台風クラブを心に描いてくれたら私は最高に幸せです最後に観てくれて本当にありがとう。そしてスタッフの皆さん大好きです。本当にどうもありがとう。

パンフレット14ページより

思春期に思う「こんな世界まとめて全部ブッ壊れてしまえばいいのに」という気持ち。「自分をいじめてる奴や、見て見ぬふりするクラスの奴らや、知ってってなにもしない教師が、みんなみんなゾンビになればいいのに」とか強く強く朝方まで願っても、登校すればいつもどおりの日常が続いてく。そんな絶望感があった私には、今作はあまりにも深く突き刺さったのでした。
(2023年6月現在、Amazonプライム・ビデオで観れるようです)

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