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慧一君がした辛い経験③ 無限ジャンケン編 その1

過去記事→
慧一君がした辛い経験① パティシエ編
慧一君がした辛い経験② 恋愛編

高井戸に住んでいた時にシェアハウスのメンバーと散歩をするのが大好きで、
その中の住人二人と散歩をする時によく「じゃんけん」をしていました。
そのじゃんけんが普通じゃない上に未だに好きなので、そんな「無限じゃんけん」のルールと、
ゲーム中に起きた出来事を何回かに分けてお話しさせていただきます。

このじゃんけんには「オリジナルルール」と言われる最も一般的で基盤となるルールがあり、
じゃんけんをしていく過程で増えていったルールもあります。

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【オリジナルルール】
・あらゆるタイミングで誰かが拳を握りしめて第三者に突き出した時、ゲームは開始される。これはいかなる理由があっても拒否できず、その拳を見たもの全員がプレイヤーとなる。
・目的地を設定し、到達してから家に着くまでゲームは継続される。
・散歩の過程で交差点や曲がり角に差し掛かった場合、各プレイヤーは進む方を決めてじゃんけんをする。
・じゃんけんで勝ったプレイヤーの方角に進み、また交差点や曲がり角に差し掛かった時にこれを繰り返す。
・住居の敷地内へは侵入できない。
・住居やその他「障害物」をぶっ壊して直進することはできない
・目的地に到達するまでの途中棄権は、他のプレイヤーが満場一致で可決した場合のみ認められる。
【追加ルール】
・自動販売機で飲み物の購入、コンビニでの買い物、トイレ、目的地への侵入、自宅への侵入など「何かの目的、或いは目標を達成する行為」を行う場合、プレイヤー全員でじゃんけんをし、あいこにならなければ実行できない。
ただし、タバコの購入やタバコ休憩はその限りではない。
・誰かが「甘えた発言」をした場合、強制的に目的地から一番遠のくであろう方向へ進むこととする。
・いずれかのプレイヤーが「排泄物を漏らす」「倒れる」「泣く」「死ぬ」「怖い人に絡まれる」のいずれかの状態異常を起こした場合、ゲームは終了される。
・目の前の「障害物」をぶっ壊しても良い。

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【登場人物】(仮名)

・石塚さん
以前僕と組んでいたバンドのベース。
古き良きオタクといった地味な見た目だが、周りにいる人はみんな見た目がいかつい人ばかりで不思議。
10年近くの付き合いになるけど、この人がいまだに何を考えているのか本当にわからない。
駐車違反金の滞納で警察に逮捕されたことがあり、前歴持ち。
彼の言い分は「払いたくない金を払いに行く気が起きないから、払って欲しいなら家までこいよと思っていた。ようやく来てくれたから手間が省けた。」
また、同上の理由で家に警察が来て連行される際に、「手錠がひんやりする」と言いながら消えていった。

・小畑さん
石塚さんと同じ音楽の専門学校の同級生。
石塚さんからは「鬼くん」と呼ばれている。(以前鬼のツノのようなピアスをつけていたため。)
僕と同じ職場で働いていた、背中の下まで髪が伸びてる顔中にピアスが開いている人。
見た目は非常に怖いが、すごく優しくて結構ネガティブ。
よく同級生のバンドを馬鹿にしながら踊っていた。
Hydeとブルーアイズホワイトドラゴンとモンタージュドラゴンのモノマネが得意。
酒に酔いながら麻雀をすると必ず必殺技を1つ作る。しかもめっちゃツモよくなるからムカつく。

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1、初めてのジャンケン。「マクドナルドへ行こう!」

高井戸の井の頭通り周辺に住んでいた僕らの家の近くには、徒歩3分くらいの距離にマクドナルドがありました。
当時のシェアハウスのメンバーは僕含めみんな飲食店勤務で、家に帰ってくるのは全員深夜。
タイミングが合うとみんなでタバコを吸いながらだべったり麻雀や散歩をすることが多く、「家の近くにあるマクドナルドに行く」のは定番の散歩コースでした。

ある日石塚さんは唐突に僕の目の前に「グー」を突き出してきました。
「慧一くんもやる?」
僕はまだ無限じゃんけんの存在を知らなかったので、普通のじゃんけんかと思い手の形をグーにしました。
隣でタバコを吸っていた小畑さんが悔しそうに舌打ちしながら、
「あー、見ちまったかー…」と一言。

石塚さん「とりあえず鬼くんも一緒にマック行こうか。」
小畑さん「行くだけだよな?ハンバーガー食べるよな?じゃんけんしないよな?」
石塚さん「食べるよ。バクバク食べる。そして生きて帰ってこような。」
小畑さん「…」

小畑さんは何かを諦めたかのように靴を履き、外に出ました。

そんなこんなで家まで徒歩3分の距離のマックまで、じゃんけんをして進むことに。
そこで初めてルールを説明されました。
この時のレギュレーションはまだオリジナルルールのみ。


約5時間半かけて帰宅した。おかしかった。
まずマックまで辿り着かないし、帰れない。
あと何が許せなかったかって、マクドナルドについた時には営業が終了していてハンバーガーが買えなかった。
マックシェイクも飲みたかった。

この「無限じゃんけん」は簡単な話、正規ルート(目的地に到達するまで最短距離で行けるルート)を選択している人が勝ち続ければ目的地までは容易に辿り着く。
しかし住んでいた家は住宅街の中だったこともあり、袋小路や曲がり角がとにかく多かった。
マクドナルドへ行くまでのじゃんけんスポットは約10個。参加者は三人。
つまり3分の1の確率を10回連続で通せば、じゃんけんをしているタイムロスを加味しても最短5分ほどでマクドナルドには到着する。
話自体は簡単だが、先ほど言った「3分の1の確率を10回連続で通す」とは3の10乗、つまり59,049分の1を一発で引かなければならない。
石塚さん曰く、「スロットでフリーズ引くよりは簡単」らしい。
さらに途中1回でも道が逸れた場合、新たなルートが再編成されるため確率は辛い方向に修正されていく。
こう思うとこのじゃんけんがいかに鬼畜かわかる。

それに加えて正規ルートを選択している人が何故かじゃんけんで負けることを望んでいて、勝ったにも関わらず進行方向を勝手に変える。主に正反対の方向に。
道が逸れ切ったタイミングでみんなで必死になって軌道修正しようとするが、じゃんけんガチ勝負なのでそれでも正規ルートに戻れずに今までの行いを後悔しながら違う方向へ進んだりする。
ある程度じゃんけんを繰り返していくと人の癖が読めるようになりパターンを分析し出すが、何故か「ここだけは自分が勝つしかない!」ってタイミングでみんなわざといつもと違うものを出す。

「甘えは許されない」らしい。
僕らはみんな、なんか変だった。

ゲームを終えて家に着いた後。
僕の中は達成と疲労が混ざった妙な満足感で満たされ、同時に何かが壊れた気がした。
そこからはことあるごとに僕が拳を握る日が増えたのでした。


続く

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