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恵文社と作り手の人々 vol.2 what is there(寺田靖子さん)

手織りのストールやバッグ、小物など、温かみのある作品を仕立てる手織り作家・寺田靖子さんのブランド「what is there」。2023年、京都・四条烏丸のセレクトショップ「Mustard」から大阪・貝塚へ拠点を移し、屋号を「atelier KUSHGUL」より「what is there」(”そこにあるもの”)へと改められました。

当店では「atelier KUSHGUL」時代より、展示やオンラインショップでお世話になっています。(現在はオンラインショップでのご紹介がメイン)通年でのお取り扱いはタコ糸やガラ紡で作られたコースター。空気をたっぷり含んだ冬物は手織りならではの温かみある表情と軽やかさ、そしてしっとりとした肌触り。どれも手仕事の温もりと美しさを添えてくれる、寺田さんの丁寧な仕事が見て取れます。

先月、京都・四条烏丸の街中から大阪・貝塚の自然が残る場所へと新たな拠点でアトリエ兼ショップをオープンされたばかりの寺田さん。今回は、移転前のショップ兼アトリエ「Mustard」にて、寺田さんのこれまでの活動や今後の展開について伺ったお話をご紹介します。


はじめに

Q. 恵文社との出会いについて教えてください。

学生時代から十数年左京区に住んでいたので、時々立ち寄っていました。当時は月光荘のスケッチブックを愛用。飲んだ帰りに、静かな夜の恵文社にふらっと立ち寄るのが好きでした。(当時は10:00から22:00まで営業)モノ作りをはじめて、最初の展示場所の目標がアンフェールでした。

手織りのこと

Q. 手織りとの出会いについて。

学生時代は建築とデザインを学んでいたのですが、建築はスケールが大きすぎて挫折し、デザインはデスクの上での作業にピンと来ず、手仕事へと興味を持ちはじめました。まず一番自分に近い素材として繊維を選んだのですが、川島テキスタイルスクール(※1)の卒業展を見に行ったことをきっかけに織物の分野へ進んでみることにしました。

スクールではファイバーアートを専攻し、素材を使って感覚を表現することに夢中になりました。自分の持っている感覚と向き合えた貴重な時間でした。

※1:左京区市原にある川島織物が運営するテキスタイルスクール。定期的にWSも開催されている。(リンク:川島テキスタイルスクール

Q. 寺田さんにとって手織りの魅力とは?

手織りの特徴はなんといっても軽く、しなやかな肌触り。微妙に異なる色味の糸を掛け合わせ組織織りにすることで、織り目を詰め過ぎず色合いと表情に奥行きの出る仕上がりになるのだそう。

体を使って出来ることであるということ。織り機のシンプルな構造の装置で、体を動かすことで布が出来るという最初の感動が忘れられません。

そしてひと目ひと目に表情がある不均一性。

例えばインドのカディ(※2)も手織りで、見ているとすごく綺麗だなと思うんです。なぜこんなにも綺麗なのかなと思ったら、布目の感じが微妙に揺らぎがあるんです。

日本だと、かつては手織りで織った着物をみんなが纏っていた時代がありました。今は高価なものになっていますが、そこまではいかずとも何かできるところを見つけたい思いがあります。

服だと本当に常に肌に触れているものなので、心地よさとか色々なものをすごく身近に感じてもらえるのかなと思いますね。

※2:インドの手紡ぎ手織り布。別名“The Fabric of Freedom”(自由の布)。インド独立の父・マハトマ・ガンディの思想がつまった自由の象徴の布。かつてインドがイギリスの植民地支配下にあった当時、イギリス製の機械織り布への抵抗として自国で綿を手紡ぎ・手織りし、普及させた歴史がある。吸湿性・速乾性にすぐれ、夏は涼しく冬は温か。糸ムラや織りムラから生まれるやさしい肌触りが特徴。
(参照:NIMAI NITAI - カディ

制作について

細めのタコ糸を使用し、丁寧に織り上げられた「cloth piece」。フォークロアな雰囲気を纏いつつ、お部屋のインテリアに手仕事の温かみと美しさを添えてくれる。

Q. 素材はどのようにして選ばれていますか?

初期は素材感のありすぎる糸は避けていましたが、とくに素材をこれと決めているわけではなく、その都度出会った糸を使ってきました。糸の特徴をうまく出せるように、織組織や組み合わせを意識しています。生成色フェチです。

Q. 制作の中でやりがいを感じる瞬間・嬉しい瞬間は?

身につけてもらったときに「あ、似合ってる」と思ったり、その人にしっくりくる何かを感じたときにとても嬉しく思います。まさに、お嫁にもらってもらうという感じ。自分の作ったものを「作品」と言うのには少し違和感を覚えていて、どちらかというと「製品」に近いかもしれません。愛情を込めて作りつつも、さらっと渡していけるような、もらわれた先でその空間や人にすっと溶け込めたら嬉しいです。

お店のこと ブランドのこと

Q. お店をはじめられたきっかけは?

私は、途中参加でMustardに加わりました。ちょっと変わった服屋だなと思ってドアを開けたのが出会いで、その後、アトリエとして一部屋を間借りさせてもらえるようになりました。Mustardは、洋服のセレクトショップでしたので、手織りというクラフト的なものも、洋服の中に自然と混ざることになり、それをお客さんはフラットな目線で見る。その様子を身近に感じれる環境は、自分にとってどんな布を織ったらいいか?を考えるヒントを沢山与えてくれました。家で自分一人でもの作りをしていたら、成長できなかったところも沢山あっただろうと思います。

Q. ブランド名の由来について教えてください。

●atelier KUSHGUL
手織り生業にしようと決めて、それまでしていた仕事を辞めたタイミングで中国へ一人旅に行きました。「織りといえばやっぱりシルクロードでしょ」と。一番思い出深い街は中国の西の果ての「カシュガル」。異国の中の異国といった街で、色とりどりの布にあふれる街でした。みんなが布を楽しく纏うその街の光景が忘れられず、その地名をブランド名のもとに。くすぐる(ほんの少し使う人の気持ちをくすぐれたら)という意味も入っていました。

●what is there
京都から、大阪へ引っ越すことになったタイミングで、せっかくなので店の名前と活動名を一緒にすることになりました。

「what is there」は、「そこにあるもの」という意味です。

今、ここに居て、できることを、自然な形でやっていけたらと思います。
機械織の布地で洋服を作りつつ、手織り布もそこに自然な形で混ざり合うような場所にしたいと思っています。

これからのこと

Q. 今後の展望について

アンフェールでの最初の展示の際は、友人とふたりで手織り布の服を作って並べさせてもらいました。
 
手織りの服を作ることは、活動を始めた頃からの目標でしたので、細々とにはなるのですが、ライフワークとしてこれからも制作していけたらと思っています。(手織り布のよさを体を通して存分に実感してもらえるのが衣服ではないかと思うので。)先ずは、あったかいウールのベストからと思っています。

インタビューを終えて

移転前のアトリエ兼ショップ「Masterd」では、実際に織り機で布が織られる様子を目の前で見せていただきました。植物から糸、糸から布へ、私たちの暮らしにおいて欠かすことのできない「衣服」という存在の源に思いを馳せずにはいられませんでした。

また、シルクロードの旅のエピソードでは、寺田さんの生み出すアイテムが纏う洋の東西では括りきれない佇まいとつながるものを感じました。どんなお部屋のインテリアにもすっと馴染む、そんな魅力の一端をうかがい知れたような気がしました。

現在は京都の街中から大阪のまだ自然が残る土地へと拠点を移された寺田さん。新たな拠点では、手織り製品と、機械織の布地を使った衣服の制作をそれぞれ並行して作られていくそう。当店では今後も折々にご紹介の機会を作ってまいりますので、どうぞ楽しみにお待ちくださいね。

当店でのお取り扱いはこちら

ガラ紡のコースター・丸
https://www.keibunsha-books.com/shopdetail/000000026856/
ガラ紡のコースター・角
https://www.keibunsha-books.com/shopdetail/000000027459/
what is there - cloth piece
https://www.keibunsha-books.com/shopdetail/000000026857/
what is there - "puff" neck-cover ※冬季のみ(今季は完売)
https://www.keibunsha-books.com/shopdetail/000000028041/
what is there - "puff" muffler ※冬季のみ(今季は完売)
https://www.keibunsha-books.com/shopdetail/000000028042/
(写真提供:what is there)

話してくれた人

what is there
(寺田靖子さん)

手織り作家・寺田靖子さんのブランド。

日常で使う布製品の提案として、手織りのストールやバッグ、小物など、温かみのある作品を仕立てる。

2023年、京都・四条烏丸のセレクトショップ「Mustard」から大阪・貝塚へ拠点を移し、屋号を「atelier KUSHGUL」より「what is there」(”そこにあるもの”)へと改める。

HP:https://www.what-is-there.com
Instagram:@what__is__there / @yasuko_terada


聞き手:岡本・藤林 書き起こし・文:岡本

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