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4月1日-4月30日|森本徹×ティナ・バゲ『IMPERFECT UTOPIA』写真展

「みんなが島を忘れずにいれば、きっと私たちは間違いを起こさずに済むと思います。」

有吉佐和子「私は忘れない」より(本文引用)

「水平線の彼方にあって、島は私たちを誘ってやまない。
しかしその一方で、島は私たちをきびしく拒否する。船から下りて、島の中に入ってゆくとき、島はたちまち幻と化する。島は、決して真に到達することのできない場所なのである。」

岡谷公二「島 水平線に棲む幻たち」より(本文引用)


このたび、写真家の森本徹さん、バルセロナ出身のティナ・バゲさんによる作品集『IMPERFECT UTOPIA』の写真展を書籍フロアにて開催いたします。

2014年から6年間撮りつづけた日本の離島の横顔、島に住まう人々の表情。
時代とともに薄れてしまった島国の文化と風土が色濃く滲むさまざまな情景をおさめます。

展示スペースでは、手漉き和紙にプリントされた作品たちを展開いたします(作品の販売もございます)。
真摯な眼差しを通しおさめられた、無垢の美しさを纏う写真群をぜひお見逃しなく。

大地の創世を命じられた二柱の神、伊奘諾(いざなぎ)と伊奘冉(いざなみ)は、与えられた天沼矛(あめのぬぼこ)で渾沌とした世界を固めるために大海原をかき混ぜました。すると、その矛から滴り落ちた雫が固まり一つの島になりました。この二柱の神はこの島に降り立ち、八つの島を生み、「大八洲国(おおやしまのくに)」すなわち日本が生まれました。古事記の「国生み神話」です。

古事記が書かれてから1300年以上経った現在の日本は正式には6,852島の島から形成されています。そのうち有人島が416島、無人島が6,436島となっています。現在では日本の人口約1億2000万人のほんとんどの人が「本土」と呼ばれる北海道、本州、四国、九州、沖縄の5島に住んでいます。「本土」はもちろん島ですが、日本人にとって沖縄を除いた「本土」には島という感覚は薄く、住んでいる人たちも自分たちを島人だと意識している人は余り多くないようです。その一方、「本土」以外の島は「離島」と呼ばれ、「離島」に住む人たちの多くは自らを「島民」と認識しているようです。

私たちが日本の離島を始めて訪れたのは2010年のことでした。写真プロジェクトで時々コラボする私たちは、当時別のプロジェクトで日本全国を回っていました。そして、その時に訪れた幾つかの離島で強い衝撃を受けました。それは、離島に残る文化、自然、そしてそこに生きる人たちが当時撮影をしていた本土よりもより日本的で日本人的に感じたからでした。

本土の都市に住む人たちにはどこか大陸の匂いがしました。しかし離島は違っていました。島民は寡黙で、恥を知り、寛大でした。そして離島には、海に閉ざされて、洗練されていない、飾り気のない無垢の美がありました。島国としての日本、島民としての日本人を感じました。

2014年、私たちは島国の日本、島民としての日本人を探すため海に出ました。撮影は2019年まで続き、その6年間に及ぶ撮影で私たちが訪れた離島は、60島以上に及びます。撮影には中判カメラとパノラマカメラを使用し、全てフィルム(カラーとモノクロ)で撮影しました。デジタルカメラの便利性と無限性は日本の本土的であり、不便で撮影枚数が限られたフィルムカメラは、離島そのもののように思えたからです。

島々への旅は、本土から船で数十分の島もあれば、離島から離島へ船を乗り継がなければ辿り着けない島、海が荒れれば何日も島を出ることも入ることもできない島もありました。当然のことながらこれらの全ての離島は海によって隔離されています。

トマス・モアが500年以上前に書いた「ユートピア」も島でした。半島の一部を大陸から人工的に切り離して作られた三日月型の島がユートピアでした。トマス・モアは、人工的にでも海によって隔離しなければ、争い事無く人々が平穏に暮らす彼の理想社会ユートピアは作られないと考えたようです。

日本では、その昔、海によって隔てられることによって、多くの大陸文化は拒絶され、日本独自の文化が生まれました。海を越えて入ってきた概念は日本の島で形を変えて新たな概念として根付きました。しかしこのボーダレス時代、日本の本土は世界から絶え間無く押し寄せる新しい価値観の波に洗われ、本土では島国文化が薄れていったように思われます。

しかし、私たちが訪れた多くの日本の離島では未だ離島独特の風土や風習が色濃く存在し、本土ではすでに失われた文化や習慣が継承されていました。そこには、洗練されていない無垢の美しさがあり、そしてなによりも、日本の本土が島国であったころの日本人の面影が残っていました。それは、トマス・モアが描いたような完全なユートピアではないものの、私たちにとっては、ある意味でユートピアでありました。私たちが垣間見たそんな「不完全なるユートピア」を皆様と少しでも共有できれば幸いです。

森本徹さんより


[会期]
2024年4月1日(月)~4月30日(火)
11:00〜19:00

[会場]
恵文社一乗寺店 書籍フロア


森本徹(兵庫県)
米国ミズーリ大学院ジャーナリズムスクールでフォトジャーナリズムのコース にて写真を始める。
在学中にアフリカに渡り、ケニアのナイロビにて、東アフリカ最大日刊紙デイリー・ネーションにて写真家として働きだす。ミズーリ大学院終了後、アフリカの作品により、マグナムとニューヨーク・ タイムズ紙でのインターンに招待される。インターン終了後、ニューヨーク・タイムズ紙の専属フリーランス写真家としてコートジボアール、アビジャンに渡り、西アフリカ全体をカバーする。2004年より、拠点をスペイン、バルセロナに移し、それ以降、世界各地でドキュメンタリー写真プロジェクトを展開する。ドキュメンタリープロジェクトには、常にモノクロフィルムを使う。2007年、Pictures of the Year International (POYi)で優秀賞を受賞。2009年、第10回上野彦馬賞を受賞する。2010年、日本全国をキャンピングカーで1年間撮影する旅に出、翌年2011年に写真集「JAPAN/日本」がバルセロナの出版社から出版される。2020年、プラチナプリント写真集「SHIZEN」がイタリアの出版社から出版される。2022年に「Imperfect Utopia」を出版。2020年より京都美山在住。

ティナ・バゲ(バルセロナ)
若くして写真に興味を持ち、バルセロナの写真学校で写真を学ぶ。1994年アメリカに渡り、フィラデルフィア・アート大学で写真を学びながら、中判カメラ1つでニューヨークを撮りおろしたモノクロ写真は、後にバルセロナで展示される。その後、バルセロナの写真学校で、モノクロ暗室も教えながら、フリーランス写真家として働く。2002年の日本への旅行をきっかけに、トラベル・フォトグラファーとして、カラーでトラベル写真を専門に撮りだし、ヨーロッパの雑誌で発表してきた。2002年~2010年まで、スペインのカメラ雑誌「Digitalfoto」の編集長を勤める。2010年、日本全国をキャンピングカーで1年間撮影する旅に出、翌年2011年に写真集「JAPAN/日本」がバルセロナの出版社から出版される。2022年に「Imperfect Utopia」を出版。2020年より京都美山在住。



(担当:韓)


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