見出し画像

恵文社一乗寺店 3月の本の話 2024

こんにちは。書籍フロアの韓です。

3月の書籍売上ランキングと、おまけの本の話。
今月もよろしければどうぞお付き合いください。


////////

1位 『やまぐちめぐみ作品集 新装版』(ミルブックス)

1966年、大阪生まれ。単身上京後に、無国籍レストラン「カルマ」で働きつつ、セツ・モードセミナーで絵を学び始めました。30代半ばからの遅いスタートでありながらも、旺盛な創作意欲のもと、多くの個展、グループ展に参加。難病を発症し、49歳で亡くなるまでに遺した膨大な作品より厳選した80点を収録した『やまぐちめぐみ作品集 新装版』が1位にランクイン。


3月1日から31日まで、当店書籍フロアで開催中のやまぐちめぐみ作品展も、(今日までですが…)ぜひお見逃しなきよう。

少女や動物たちをモチーフとしながらも、表層の可愛らしさにとどまらない、彼女の内面や物語の深潭に鑑賞者を引き込むような絵の数々。
春らしい陽気が、店内にも満ち満ちていくようでした。


////////


2位 『鬱の本』(点滅社)

本が読めない時に、それでも手を伸ばした本。拾った言葉やあたためた心。安達茉莉子さん、大槻ケンヂさん、荻原魚雷さん、島田潤一郎さん、瀧波ユカリさん、町田康さんら84人の声をおさめた『鬱の本』。重版分も引き続き手にとっていただき、2位にランクインしました。
弱々しさやままならさに寄り添う「本」という物質的なもの。そのちいさな救いのような存在と、実際に手にし、目にし身体に残った記憶の断片に焦点をあてます。


////////


3位 はしもとみお『トゲトゲ』(KISSA BOOKS)

いつからか全身にトゲを纏った「トゲトゲ」は、出会った動物たちにトゲを分けていきます。全て渡してしまったトゲトゲは、一体どんなことを思ったのでしょう。きっと誰もが「トゲトゲ」のような部分があって、出逢い、与える、そんなことで癒されていく。年齢問わず読んでいただきたい、やさしいおはなし。
彫刻家・はしもとみおさんが大学生のときに描いた物語をおさめた『トゲトゲ』が3位にランクインしました。

今月上旬に開催していたはしもとみお巡回展「いきものたちの物語」にあわせ、たくさんの方が手にとってくださいました。

トゲをもらい嬉しそうなカブトムシ。かわいいですね…


////////

4位 青木海青子『不完全な司書』(晶文社)
竹端寛『ケアしケアされ、生きていく』(筑摩書房)

奈良県の山村、東吉野村に位置する私設図書館「ルチャ・リブロ」の司書である青木美青子さん、福祉やケアの周辺について思考をめぐらせつづける竹端寛さんによる2冊が同時に4位にランクイン。
いち個人の「生きづらさ」に寄り添う、灯りのような一冊となっています。

つづきは、今月のおまけ話にて。


////////

5位 五味太郎『ぼくは ふね』(福音館書店)

1973年に『みち』でデビューして以来、本当にたくさんの絵本を手掛けてきた五味太郎さん。
今回の主人公は、きままに進むちいさな船。大きな船に「じゃま!/どけ! どけ!」といわれたり、おおきな嵐に見舞われたり… 「あのね きみ/みずにうかんですすむことに/こだわりすぎているんだよ…」 はじめてそんな言葉をかけられたぼくが行く先は…?

こだわりの装丁は五味太郎さんご本人によるもの。穴の開いた真っ黒のスリーブから本を取りだすと、ちいさな船が海へ出航するように見える造本になっています。


////////

長いような冬も終わりが見えて気付いたときには3月。
植物園に行く日を楽しみにしながら、店頭に立つ日々です。

さて、今月のおまけの本の話です。

先程のランキングでもすこしご紹介しましたが、青木海青子さん著『不完全な司書』(晶文社)と、竹端寛さん著『ケアしケアされ、生きていく』(筑摩書房)について。
当月20日には当店でも刊行記念のトークイベントが開催され、たくさんの方が足を運んでくださいました。

ひとには迷惑をかけてはいけない、つらいことは我慢したほうが偉い、周りもそうしているのだから、できるだけしんどさを隠して明るく振る舞わなければ…と無意識に私たちの行動や思考が縛られたり、世間が定める「社会的な枠組み」との摩擦がこの頃輪をかけて増えているような気がします。ついつい忖度して表に出せないちいさな声や、それぞれが抱える生きづらさを、青木さんの本は「本」と「読書」から、竹端さんの本は「ケア」の視点から見つめます。

青木海青子『不完全な司書』より
竹端寛『ケアしケアされ、生きていく』より

他者に「支えられる」側から、司書という役割を通し「支える」側へ。忖度し合い苦しみを隠し合う関係から、互いの他者性を理解しあい、持ちつ持たれつななだらかな関係へ。

周りが掲げる「いい子」でなくてもいいし、そもそもそういった枠組みを気にする必要はない。舗装された、安全で整えられた道だけを選んで進むより、転びながらも安心できる身の置き方を探っていくこと。
分かり合えない部分が大半だからこそ、他者と伴走しながら日々を歩む大切さについて、深く考え直すきっかけを齎してくれます。

新生活に向けて、わくわくよりどこか不安のほうがおおきいな、という方。学校で、職場で、おうちで、どうしても拭いきれないもやもやを抱える方に捧げたい2冊。

青木さんと竹端さんが「ケア」をさまざまな角度から見つめ、選書されたフェアも引き続き書籍フロアにて展開中ですので、このご機会にぜひ。



それでは、また来月お会いいたしましょう。


(担当:韓)


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?