恵文社一乗寺店 8月の本の話 2024
こんにちは。書籍フロアの韓です。
8月の書籍売上ランキングと、おまけの本の話。
今月もよろしければどうぞお付き合いください。
////////
問題の根源を知るには、まず歴史そのものを知ること。大きく声をあげる側ばかりが注視されがちな今、私たちが持つ歴史観 / 先入観について問いただす。アラブ、ポーランド、ドイツを専門とする学者三名による『中学生から知りたいパレスチナのこと』が今月1位にランクイン。
戦争を遠い話と見かぎらず身近に手繰り寄せること。大きな声だけを注視せず周辺と背景に意識を向けてみることを、堅苦しすぎない形で、けれど本質的な部分から紐解いてくれます。
現在進行系で起こっているジェノサイドを前に、今の歴史の学び方への危機感を抱く。「生きるための世界史」に出会い直すタイトルが並ぶ選書フェアも引き続き書店内で開催中です。この機会に。
////////
はじめて家に来た日のこと。いまでは名前を呼ぶと返事をしてくれること。甘えたときに見上げる顔や、眠っているときにちょっとだけはみ出た舌…。二匹の保護猫と共に暮らす絵本作家・くさかみなこさん(作)と、動物たちのそのままの姿を木彫りにする彫刻家・はしもとみおさん(絵)が、ただただ「きみ」がとなりにいることのしあわせを綴った絵本『きみがいるから』が2位にランクイン。
あわせて、ハンドメイド絵本で知られる南インドの小さな出版社「Tarabooks(タラ・ブックス)」による新刊『Seed』の日本語版『たね』もランクイン。生きているのか死んでいるのか分からない一粒のたねが、ある時、芽を出し、成長をはじめる。その神秘的な力について。今作もどのような美しい出来になっているか、実物が楽しみです。
※こちらは2024年8月末~9月初旬頃予定に入荷予定のご予約商品です。
////////
自身のルーツ、病気のこと、日々の暮らし、自身を信じ支えてくれる家族の助けと想像。長年共にする躁鬱病、苦しみながらも耐え生き延びていく過程は、自らの治癒力を高める手段のよう。
坂口恭平さんが西日本新聞で2023年8月15日から10月27日まで連載していたエッセイにあとがきを加え”palmbooks”の手により刊行された『その日暮らし』が今月3位に。
////////
呼吸すること、ペンで何かを書くこと、頬にあたる風に季節を感じること、ぴったりの靴を選ぶこと、カバンの中身に計画と準備を見ること、残るということについての研究、景観を維持する私たちと世界の間で起こっていること…。
あらゆる人が暮らしのなかであたりまえに行為している営みを研究対象に、ありふれていてあまりに当然のことゆえに普段は気づかない世界の設定や、意味にこだわりすぎて時に取りこぼされてゆくその豊かさについて考察した一書『世界をきちんとあじわうための本』が4位にランクイン。
当店のロングセラーでもあるこちら。術的で専門的になりかねないテーマを、シンプルな行為やルーティンの延長のなかに捉え、提示する、あざやかで心地よい気づきと学びの本を、棚のお供にぜひ。
////////
数年前、東京・吉祥寺から神戸へと住まいを移し、ひとり暮らしをはじめた日々のこと。本を読み、自然にふれ、新たな出会いを経て、つながる。
窓から見える海、鳥のさえずり、山から下りてくる緑の匂い、過去の記憶、料理のこと、友人とのひととき…。彼女のまなざしを通した季節のうつろいとささやかな日常は、どれもきらきらとまぶしく愛おしい。
今月5位は、料理家・文筆家として活躍する高山なおみさんによる、神戸新聞の連載をまとめた『毎日のことこと』。
////////
今回のおまけ話。
夏休みも明け、新学期もはじまり、2024年も折り返し地点を過ぎる頃。
よく読書の秋という言葉を耳にしますが、個人的に夏も本を読むのにいい季節だと思っています(でもそんなことを言い出すと春も春で良い面があり、冬も冬で…)。
小学生の夏休みに、何度も何度も枕元で読んでいた一冊。名作なので知ってるという方も多くいらっしゃるのでは。ドイツの作家、ハンス・マグヌス・エンツェンスベルガーによる数学ファンタジー童話『数の悪魔』のご紹介です。
数学があまりにも嫌いでじんましんが出たり、悪夢まで見てしまうという少年ロバートと、血の気の多い数の悪魔のお話。
「こういう問題を分かりやすく解くには!」「公式を一発で覚えるには!」などのようなアドバイスや要点は載っていません。1からはじめ次々に前の数字を加算していく「フィボナッチ数列」をうさぎのつがいと子どもにあてはめたり、終わらない無理数を砂浜の砂に例えたり、「順列」を「席替え」、「素数」を「すごい数」、階乗を「びっくり」、「平方根」を「大根を抜く」と言い換えたり、おとなが読んでもなるほどと頷けるトリックがあちこちに散りばめられています。
「0」は最もしゃれていて、人間が生み出した一番最後の数字だそうですよ。
たしかこの本をはじめて手に取ったのが小4の頃で、π?累乗?はて…と思いながらも(こんなにもむずかしい(であろう)内容を楽しく読めているのはすごい!)と学者のような気持ちになったりして。一晩に一編ずつ読み進めるのが日々の楽しみでした。
公式だけを覚えてあてはめて、いざ応用問題に直面すると手も足も出なかったわたしにとっては目から鱗なことばかり。
0や1でできているパソコンへの命令、自分の席の番号、職場から家までの距離、卵をゆでる時間、記入する日付…。わたしたちの周りは実は数学で満ちあふれているということを、少し離れた地点からユーモア交じりに見つめ直す。学ぶ、知ることの輝かしさを改めて思い出させてくれる一冊です。
それでは、来月もどうぞお楽しみに。
(担当:韓)
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?