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恵文社一乗寺店 2月の本の話 2024

こんにちは。書籍フロアの原口です。

今年の2月は“閏年”でしたね。にだけ現れる本、「渡り鳥」が4年の時を渡って再入荷した月でもありました。4年の歳月に思いを馳せ、本書を贈り物へされる方も多くいらっしゃいました。

それでは今月のランキングです。

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1位 花原史樹『ね、この素晴らしき世界』(KADOKAWA)

花原史樹さん初のイラストブック「ね、この素晴らしき世界」。
大学生の時に、保護猫との出会いからねことの生活がはじまった花原さん。共に暮らすねこたちを題材に、描き続けて2222日。
だっこをされたり、しっぽをのせたり、ねこをぶつねこがいて、毛づくろいするねこがいる。1頁ごとに様々な表情を見せるねこはユーモアたっぷり。
愛らしい世界が詰まった1冊です。
セルフパブリッシングの4コマ漫画集「ねんねんころころ」もおすすめ。

恵文社一乗寺店でのオリジナルグッズも好評です。

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2位 岩谷香穂『渡り鳥』(さりげなく)

“閏年”にだけ現れる本『渡り鳥』。
青色の表紙をひらけば、「見えないものと見えるもの」をテーマにした短いエッセイ。そして、それから空白のページが続きます。
この空白部分に、ご自身の文章を綴られる方も多いことでしょう。閏年は、「季節と暦のズレを補正するために追加されるおまけの“一日”」。見えていないだけで、毎日うるう年の一部がいて…と岩谷さんは綴ります。見えないものにちょっと思いを馳せてみる。そんなきっかけにもなりそうです。
表紙の布地は、やや色味のばらつきがありますが、そこも本書の個性のひとつ。

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3位 大橋知沙『もっと、京都のいいとこ』(朝日新聞社)

当店でも好評の『京都のいいとこ。』の続編が刊行です。
コロナ禍を経て「自分の目で、舌で、肌で感じることでしか、得られない体験の尊さ」を改めて思ったという著者の大橋知沙さん。
その選ぶ眼、穏やかな筆致、多様な視点、美しい写真と、今回も読んで見て楽しい内容。幅広いエリアを取り扱いながらもやはり小さな差異や独特の輝きに着目したセレクトが光ります。季節をいただく食の場、アート&クラフトに出会えるお店、古いものを扱う魅力、止まり木のような小さなカフェや飲みどころ、そして京の誇る名店たち。
ぜひ大橋さんと京の大路や路地裏を一緒に散歩するような気持ちで眺めてみてください。

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4位 西尾勝彦『のほほんと暮らす』(七月堂)

詩人・西尾勝彦さんがかねてから標榜・推奨する「のほほん」を主題に据えた当店のロングセラー『のほほんと暮らす』の新装ポケット版が先月に続きランクインです。

まさに文字どおり「のほほんと暮らす」ための知恵がゆったりたっぷり織り込まれた本書。おだやか、ゆっくり、少し上機嫌。自転車なら走る、ではなく漕ぐ。身近なコミュニティを大事にする。朝の光、木漏れ日、珈琲の匂いに幸せを感じる、スマホは「のほほん吸い取り機」…。そもそも、のほほんとは何か。それは人それぞれ異なるものでしょうが、この本では、ほんの少し自分を楽にし、暮らしをたのしくする小さな秘訣があちらこちらに散りばめられています。西尾さんの散文と詩に触れながらじっくりと、自分にとっての「のほほん」を見つめてみてください。
また、店内では西尾さんが愛してやまない尾形亀之助のミニコーナーも展開中です。ご来店の際はぜひ。

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5位 三浦哲哉『自炊者になるための26週』(朝日出版社)

料理本批評という稀有なジャンルを誕生させた映画評論家・三浦哲哉さん。全26の章立ての中で提案されるのは、「今週は○○を作ります」からはじまる、自炊を楽しむうえで欠かせない「風味」をよく知るための実践。
「蒸す」「焼く」「煮る」「揚げる」「切る」といった具体的な調理法を掲げ、それぞれの調理法から生まれる「おいしさ」の周辺に浮かび上がる、五感を刺激する事象について、科学的な視点と共に実際のレシピをも交えながら展開された1冊。

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おまけの話。
先日、近所の小学校に声をかけていただき「未来を生きる」という授業の一環で本屋さんの仕事についてお話しする機会がありました。
子供たちの中で、将来本屋さんになりたい人はそんなに多くはないでしょうけれど、本を作る人になる人や、生涯にわたって読書の楽しみを大事にする人はたくさん居るのだと思い「本」を主役にお話しようと準備しました。
当日は小雨がしとしと、何度も校門を間違えやっと教室へ。
ずらっと並んだ子供達に自作のプリントを配ります。
最初にみんなで本を作ってみようという魂胆なのです。

1枚の紙から本を作るよ。

未来の若人の為、夜なべの苦労もなんのその。念の為と100枚近く自宅でプリントした用紙が、床に座った子供達の手もとへ流れていく時など最高に緊張いたしました。が、不安をよそに、上手にできる子がしぜんと教える側になったり、組み立てた後にもっと簡単に本になるしくみを考える子や、何度も繰り返し折ってみる子などが居て、失敗してバラバラになった本もありましたが、新しい紙で一緒に組み立てをすると、次第に参加する意思を持ってくれ、それぞれの過ごし方と共に小さな本が完成しました。

定規やハサミを使わなくても作れるよ。

それからその出来上がった本をテキストに使い、恵文社の仕事についてお話をしました。緊張して早口になったり、その時に言葉にならないことを言葉にしようとして子供たちに助けてもらったり、懸命の1時間。会の終わりで片付けをしていると、依頼をしてくださった先生から「本がほんとうにお好きなんですね」と言われました。
私は子供たちに、本をはどんな人でも作ることができて、今を生きる人だけでなく未来に生きる様々な人たちに、書き換えることなしに思いを伝える手段であることを伝えたかった。本が生活の中のほんのひと匙だとしても、それを掬って食べてみたら何かが変わることがあって、その可能性が違いを生かして未来をつくることにつながるという可能性を感じてほしいと思いました。本には瞬間的に多く売れるものもあれば、情報の強度が非常に高く豊かな為に国や時を超えるようなものもあります。
ランキングの記事ではありますが、そればかりではない世界が膨大に広がっていること、自らの心の内を知る方法があること、そうしたものに出会える場所のひとつに本屋があるということ。最後は絶叫していたのかもしれません…。
ほんの少しでも彼らの学びになり、将来役に立つ1時間であったらいいなと思います。

みんなの幸せを願っているよ〜!

3月も本とのいい出会いがありますように。

担当:原口

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