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恵文社一乗寺店 8月の本の話 2023

こんにちは、恵文社一乗寺店の韓です。
8月の書籍売上ランキングをご紹介いたします。

後半は当店ベテランスタッフでもある能邨が本の話を綴ります。今月もよろしければお付き合いください。

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1位 シャーム / バーイー / ウルヴェーティ『夜の木 11刷』(タムラ堂)

夜になると本性を現すという聖なる木。精霊が宿る木。詩のような短い文章が添えられ、ページをめくるごとに姿を現す神秘的で美しい木々。
南インドの小さな出版社、Tarabooks(タラ・ブックス)のハンドメイド絵本『The Night Life of Trees』日本語版。古布を漉いた手漉き紙に、シルクスクリーン印刷で一枚ずつ刷られた後、職人が一冊ずつ丁寧に製本した工芸品のような絵本が、今回首位にランクイン。

同月に、当店アテりで開催された迫力あふれるシルクスクリーン展も、大変ご好評いただきました。

『夜の木 11刷』は在庫僅少につき、店頭のみでの販売とさせていただいておりますが、同時期に入荷いたしました『太陽と月』はオンラインショップでもご紹介させていただいております。この機会にぜひ。


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2位 政木哲也『本のある空間採集』(学芸出版社)

2位は、全国の新刊書店や古書店、私設図書館、ブックカフェなど44件を訪ね歩く実測集『本のある空間採集』。この空間の中でこうして本をおさめて、並べているのか…と思わず隅々まで眺めてしまいたくなる仔細なスケッチの熱量に驚かされるばかり。
本と人とまちが織りなす空間の居心地とスケールに迫ります。

刊行を記念し、書籍フロアの一角ではスケッチパネル展を展開中。こちらもお運びの際はぜひご覧ください。

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3位 向坂くじら『夫婦間における愛の適温』(百万年書房)

まずもって、あの夫というやつは臆病すぎる。
合理的であるということを隠れ蓑に、ただ予期せぬものの訪れを怖がっているだけ。なんだい、なんだい、びびりやがって。くされチキンがよ。
だいたい、すべて計画通りの毎日なんてつまらないじゃないか。(中略)
そのくされチキンがある日、なんの前触れもなく急須を一式買って帰ってきた。

本文より

編集者・北尾修一さんを主宰とする百万年書房の新レーベル「暮らし」第四弾目。今回の書き手は詩人・国語教室ことば舎代表の向坂くじらさん。
日々観察し、考察する夫という存在、その人のとる言動。おもしろおかしく、別に思い返さなくても良くて、でも抱えていられると尚うれしい出来事。裏側にある意味を汲み取ろうとせず、ただ目の前に並ぶことばを目と頭の奥に焼き付けて欲しい。「他人」という存在と共に暮らすうえで生まれる細やかな思考に光をあてた、はっと目の醒めるような、リズミカルで闊達な一冊。


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4位 『palmstories あなた』(palmbooks)

手のひらにおさまる、「あなた」と「きみ」をめぐる掌篇小説のアンソロジー。
こちらは、2022年秋・加藤木礼さんによりスタートしたマイクロ出版「palmbooks」より刊行された第二弾目となる書籍。津村記久子、 岡田利規、 町田康、又吉直樹、 大崎清夏の鋭敏で個性光る書き手による書き下ろし作品5篇を収録。それぞれのお話の最後、各作家の描いた手のひらの小さなイラストも注目です。


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5位 石黒由紀子著 ミロコマチコ絵『猫は、うれしかったことしか覚えていない』(幻冬舎)

「猫には、楽しい記憶だけが残ります。
コウハイちゃんには、梅干しの種(と認識しているかどうかは別として)を転がして遊んでおもしろかったな、という記憶だけが残り、苦しくなって手術して、入院までして大変だったということは、そのうち忘れます。
だから、梅干しの種を見つけたら、"あ、あのおもしろいやつだ"となって、同じことになりかねません。猫とはそういう動物なんですよ。」

本文より

5位は、当店ロングセラーでもあるこちら。
梅干しの種を飲み込んで、開服手術を受けた猫のコウハイ(センパイという、柴犬と共に暮らしているそう)。苦しかったはずなのに、獣医師さんからは「また誤飲しますよ」という言葉が。冷たい雨に打たれても、地域のボス猫に追いかけられても、ごはんを食べ、日向ぼっこしながら一眠りすれば、つらかったことはみなさっぱり忘れていく。おどろくことなかれ、これが猫の習性だそうです。
そんな猫たちのラブリーな存分におさめた、笑えてつんとなる一冊。ミロコマチコさんによる愛らしい挿絵も必見です。

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こんにちは、恵文社一乗寺店の能邨です。
まだまだ厳しい残暑が続きますが、朝夕はようやく涼しい風が吹くようになりました。秋はもうすぐそこなんですね。

ちょっとだけおまけの本の話です。

今回は、新刊でもなんでもないのですが、先日久しぶりに店頭に積んでみたところ好評だった絵本『もぐらバス』について少し。

もぐらやねずみやトカゲなど、地下にある街を舞台にした小さな生き物たちだけの暮らし。彼らの生活の足となっている「もぐらバス」のある日の活躍について描かれた絵本なのですが、その設定の細かさやのほほんとした空気感がなんとも言えず素晴らしい作です。特に、地下にまさか人間の知らないこんな街があるなんて!という点は子どもたちに愛されるポイントかと思われます。

個人的な話で恐縮ですが、いまは小学生になった我が子も、幼稚園の頃はこの様々に張り巡らされた地下の街のインフラや生活の描写など、細かな点を本当に喜んで毎日のように読んでいました。もしこの街に住むならどの生き物になろうかな?などと...。

作者は、佐藤雅彦さんと、うちのますみさん。Eテレ「ピタゴラスイッチ」好きの方には胸がときめく名前ではないでしょうか。このお二人がその世界観をすべてつぎこんだ、と言ってはおおげさかもしれませんが、絵といいおはなしといいシチュエーションといい語感といい描き文字といい、この二人だからこそ、この二人にしか作り得ない楽しくシュールな景色がページをひらけば広がります。刊行は2010年。これからも愛され続けるであろう不朽の名作絵本と勝手に決めております。どうぞご来店の際には探してみて頂ければ幸いです。

それでは、来月のお話もどうぞお楽しみに。


(担当:能邨、韓)

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