血統閑談#018 未知の種牡馬がひらく道(水野隆弘)/週刊トレセン通信
栗東トレセンの馬場で今年初めての2歳馬を発見したのは2月29日でした。もっと早くに馬場入りしていて私が見逃していただけかもしれませんが、一日二日違っていても誤差のようなものです。今から2歳の話なんてと早いようには思いますが、もう既にホッカイドウ競馬では3月14日から能力検査が始まっており、JRAでも6月に入るとすぐ2歳戦が始まります。
ペーパーオーナーゲームをたしなむ方々は「今年産駒デビューの新種牡馬は?」と問われればすぐに答えが出てくるのでしょうが、この業界でもそうでもない人はそうでもない。そこで自分の備忘録をかねて、主な新種牡馬のリストを作りました。
全部で30頭以上、40頭未満と思われますが、正確なところは恐らく6月ころから週刊競馬ブックで恒例の連載が始まる「ファーストクロップサイアー名鑑」に譲ります。下表にはそのうちG1またはJpn1勝ち馬を抜き出しました。15頭のうち父馬が同じなのはダイワメジャー産駒の2頭だけでした。ディープインパクト直仔は1頭で、新種牡馬全体でも6頭と、昨年の8頭から頭数は縮小傾向にあります。
2021年度の種牡馬別種付頭数は供用全種牡馬の1位がルヴァンスレーヴの223頭でした。以下、2位エピファネイア218頭、3位ゴールドドリーム212頭、4位サートゥルナーリア205頭、5位キズナ195頭となっておりまして、ベスト5のうち3頭が新種牡馬です。新種牡馬が人気を集めること自体は珍しいこととはいえませんが、ルヴァンスレーヴ、ゴールドドリームとも競走成績はダートだけです。ダート三冠創設をはじめとする変革を見越してといういい方もされますが、2021年のファーストシーズンサイアーチャンピオンがドレフォンUSA、2022年はマインドユアビスケッツUSAと米国のダート短距離で活躍した種牡馬が続いたところを見ると、そのダート競馬体系の大変革より前に種牡馬需要の傾向の変化は起きているというべきでしょう。
今年の直木賞受賞作品『ともぐい』(河﨑秋子著)に以下のような一節があります。「流れ者の熊による子殺しは将来の獲物が減る難点はあるが、どこかでよそからの血が混じらねば熊の体が小さくなり、数も減るため、猟師としての熊爪もそれは受け入れて来た。」クマとウマでは違う、野生動物と人間の管理下にある動物では違うということもあるでしょうが、アイルランドがディープインパクトの血を求めたように、ディープインパクト~サンデーサイレンスUSAの血で満ちた日本ではその反対の方向への新たな血の導入が避けられないことではあります。
1頭の競走馬の活躍期間、1頭の種牡馬の活躍期間は長いと思えば長いし、短いと思えば短いので、血統のトレンドは一気に色が塗り替えられるというよりはグラデーションをなして変わっていくことになるのでしょうが、あとから見ればここが潮目の変わり時だったということになるのかもしれません。今年産駒デビューの新種牡馬のラインナップを見て、そんなことを思いました。
本稿は2024年3月20日に「競馬ブックweb」「競馬ブックsmart」に掲載されたコラムです。下記URLからもご覧いただくことができます。