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23年ジャパンCを振り返る~底を見せない怪物の圧勝劇と1コーナーの激闘~

世界に通用する強い馬づくり

今から50年近く前に提唱され始めた言葉だ。競馬後進国である日本のレベルは、諸外国と比べると歴然。差を埋める一環として、1981年に初の海外馬招待競走として行われるようになったのが、ジャパンカップというレースだ。

メアジードーツの衝撃から42年。今や、間違いなく日本馬のレベルは世界一だと思う。恐ろしいほどに強い。

正直ここまで強くなるとは思わなかったな。短期免許で日本にやってくる外国人ジョッキーみんな褒めるものね、日本馬の全体レベルの高さを。

そんな全体レベルが高い馬たちが揃う極東の国に、わざわざ遠征する馬も少なくなるのも分かる。なんて、今から20年前のジャパンCの結果を見ながら少し思いにふけったものだ。

18頭中9頭が外国馬の時代なんてもうだいぶ昔のように感じるよ。懐かしいな故ウェインストック卿遺言執行人

20年前は9頭もいた外国馬が1頭、また1頭と減っていき、今年は1頭。コンティニュアスの回避があったとはいえ、正直寂しい頭数だ。まー、出ない年があったくらいだから、出てくれるだけありがたいんだけどね。

創設当初は世界の広さを知るレースだったが、今のジャパンCの存在意義、立ち位置はだいぶ変わった。今は世界で最も全体レベルが高い国・日本で、一番強い馬を決める、そんな立ち位置になっている

思い返せば、3年前のジャパンCも戦前から注目度が高かった。最強牝馬アーモンドアイに三冠馬コントレイル、三冠牝馬デアリングタクトが挑む構図とあれば、そりゃ注目度が例年以上に高いのは当然。

正直この20年ジャパンCを超えるレースは当分ないんじゃないかと思っていたんだけどね。割とすぐに、20年を超えるんじゃないかと思わせるハイレベルな年がやってきた

間違いなく現役最強と思われるイクイノックスに、三冠牝馬リバティアイランド、GI3勝タイトルホルダー、ダービー馬ドウデュース、牝馬二冠馬スターズオンアース。

そこにサウジカップなどを勝っているパンサラッサやダノンベルーガ、ディープボンドなんていう強豪も混じって、昨年の覇者であるヴェラアズールが前日の単勝オッズ70倍超え、10番人気なんていう状況さ。

そんなことあるか?前年の覇者が10番人気だぞ。これくらいハイレベルなメンバーが揃って昂らない競馬ファンがいるのか?と思うほどの好メンバーが揃った

加えて東京芝は1カ月前の天皇賞秋で驚異の1:55.2というスーパーレコードが出る状態で、先週コース変わりした結果、この時期としてはだいぶ速い状況が続いていた。

土曜の最終レースもマイルの2勝クラスで1:32.4が出るんだから相当速い。ちなみに5年前、アーモンドアイが2:20.6という信じがたいタイムを出した年の前日のオープン・キャピタルSが1:32.6

ペースの差はあれど、計算上5年前のジャパンカップウィークより気持ち軽い高速馬場が出現していた

日曜はそこから少し時計が掛かっていたものの、それでも十分に速い。そこにペースメーカー役のパンサラッサ、タイトルホルダーがいる。内目の状態も良好。内容、数字が伴った好レースが見られるのでははないかと、戦前からマスクは年甲斐もなくドキドキしていたんだよ。

ジャパンC 出走馬
白 ①リバティアイランド 川田
水 ②イクイノックス ルメール
黒 ③タイトルホルダー 横山和
赤 ⑤ドウデュース 戸崎
青 ⑧パンサラッサ 吉田豊
紫 ⑦イレジン ヴェロン
黄 ⑩ダノンベルーガ モレイラ
橙 ⑭ディープボンド 和田竜
桃 ⑰スターズオンアース ビュイック

スタート。一瞬焦ったのは黒タイトルホルダーだ。これ画像で見てもなんとなくしか伝わらないから、レース映像を見てほしい。

駐立が怪しいんだよな。ゲートの中で暴れて危うく出遅れそうになっている。以前からゲートの中のお行儀がいいタイプではないが、これはよくスタートを出たね。

もし出遅れたとしよう。パンサラッサ大逃げで、離れた2番手にイクイノックスと、それまた誰も予想していなさそうな隊列になるところだった

駐立がひどかったタイトルホルダーが好発を決める中、赤ドウデュースが少し遅れている。ただこの馬は元々スタートが速くない。天皇賞が出過ぎたくらいで、ほぼほぼいつも通りと言っていいだろう。

対して外に目を移すと、桃スターズオンアースが好スタートを決めている。しかし外はスターズ以外が遅いなあ。能力的に仕方ないとはいえね。

注目の2頭、白リバティアイランドと水イクイノックスはほぼ同じスタートだった。隣同士のこの2頭、隊列組みには2パターンが考えられる。

1.リバティアイランドの後ろにイクイノックス
2.イクイノックスの後ろにリバティアイランド

もちろんリバティアイランドが何を思ったか内ラチを飛び越えてダートコースに入っていくという、宇宙的なウルトラプランも存在するかもしれないが、まー、そんな話をし始めたら終わらなくなるから、『主に2パターン存在した』という形でご理解願うことにする。

今回のジャパンCのポイントの一つが枠の並びだろう。木曜、発表された枠の並びを見て笑ってしまったもんな。

ジャパンCの内枠
①リバティアイランド 川田
②イクイノックス ルメール
③タイトルホルダー 横山和
④スタッドリー マーカンド
⑤ドウデュース 戸崎

おいお前フォワードアゲンがいないぞなんていうご意見があるかもしれないが、すまん、そこまでして文字数を稼ぐ意図はないから、もう少し話の経緯を見守ってほしい。

1枠にイクイノックス、リバティアイランドが並んだのだ。巷ではJRAがわざとやったという話が散見されたが、そんな分かりやすいことを自発的にやるかって話。

ただ偶然にしても面白いよな、この2強が隣同士になるのは。もう何度も回顧に書いてきたから今更改めて書く必要性がなさそうだが、新規層向けに書いておくと、強い馬、上手い騎手の後ろは絶好のポジションになりやすい。これもうプロフィール欄に書いておいたほうがいいかな。

2強が隣同士ということは、お互いの後ろがベストポジションになるわけで、2頭ともポジションを取りやすく、レースがやりやすい。この時点でだいぶ堅いレースになると見ていた。

前に出たのは水イクイノックスのほう。青パンサラッサが逃げの手に出て、黒タイトルホルダーも出していった直後、それについていく形を取っている。

イクイがリバティの前につけることに関しては予想通り。予想にも『イクイノックスが延長分5番手くらいにつけて、その後ろでリバティアイランドがマークする隊列になると思っている』と書いた。

これは今年の天皇賞秋だが、緑イクイノックスはスタート後、緑丸で囲んだ部分を開けている。要は最初から内に寄せず、意識を外に向けている

これはルメールのイクイノックスに対する信頼感の現れなんだよな。仮にイクイノックスが負けるとしたら、故障などアクシデントを除けば満足に進路がないパターンだろう。ルメールからするとそれだけは避けたい。

逆に言えば、進路さえあれば伸びる。そういう信頼感があるから、ルメールは1枠を引いたのに内にこだわらず、すぐに外に出そうとする。

そのためにはリバティアイランドの真後ろではダメなのだ。だってリバティの後ろだと、あくまで進路の選択権はリバティにあるだろう?だからイクイノックスの後ろにリバティアイランドという隊列読みができる。

強い馬、上手い騎手の後ろはいいポジションなんていうことはジョッキーもみんな知っている。当然白リバティアイランドの川田は水イクイノックスの真後ろに誘導しにいく。

囲まれないように外に外に出していく水イクイノックスを、白リバティアイランドが追いかけているのが分かる。

ただ当然、イクイノックスの後ろというポジションはみんな欲しい。これは1着賞金5億、2着賞金2億のジャパンCだ。みすみすリバティアイランドに簡単に譲るわけにもいかない。

まして、何もしていないのに自分たちの前に水イクイノックスがやってきた黄ダノンベルーガ、橙ディープボンドにとっては、せっかく向こうからターゲットがやってきてくれた以上、ポジションを譲りたくはない

最初に脱落したのは黄ダノンベルーガのモレイラだった。両サイドから寄ってくる白リバティアイランド、橙ディープボンドに抵抗できずに下がってしまっている。

ダノンベルーガは昨年のジャパンCも最後甘くなっているように、2400mは少し長い。序盤から押してポジションを取りに行き辛い。まー、両サイドに寄られると真ん中が一番苦しいのもあるがね。

これでイクイノックスの真後ろ争奪戦はリバティアイランドVSディープボンドになる。殴り合いだ。BreakingDownだ。

一旦は橙ディープボンドが有利になったんだけどね。水イクイノックスのルメールがどんどん外に誘導していくもんだから、ディープボンドの前まで来てしまったんだ。

①リバティアイランド 川田
②イクイノックス ルメール
③タイトルホルダー 横山和
⑤ドウデュース 戸崎
⑧パンサラッサ 吉田豊
⑭ディープボンド 和田竜
⑰スターズオンアース ビュイック

内ラチ  →
ーーーーーーー
  ⑤        ⑧
   ⑭② ③
   ⑰ 

このままだとこのような隊列になる。①リバティアイランドの川田としてはこれは避けたい。

川田の理想
内ラチ  →
ーーーーーーー
  ⑤② ③                   ⑧
   ⑭
   ⑰

その理想形のために白リバティアイランド川田は更に外に馬体をねじ込んでいった。すでに後ろにいる橙ディープボンドを外に弾く動きだ。

これ注意書き書いておかないと後から面倒なのに絡まれそうだから注釈を載せておくが、これはセーフ。全然ルールの範囲内。実際過怠金も戒告も出ていない。

こういう強引な動きをする川田が嫌い』なんていうご意見を以前いただいたことがある。強引でもなんでもなく、ポジションを取るためならどのジョッキーもやることだし、これは取られないようにディープボンドの和田が抵抗する場面だ。

まー、若干難しいところはあるがね。仮にゴリゴリ抵抗したとして、リバティの脚に絡まったりして落馬、なんていうことがあるとそれはまずい。人気馬相手にやり返しは結構難しい部分がある。

結果白リバティアイランドが水イクイノックスの真後ろを取り切れた。この時点でポジション争いに負けた橙ディープボンドは苦しい。

大げさでもなく、ディープボンドのジャパンCは1コーナーで終わった。攻めた未来を見たかったのは正直なところだね。

昔からジャパンCの1コーナーは戦場と言われるほど激しい。今年も垣間見た気がする。

激しい戦いを制した白リバティアイランドに、外からピタリと張り付いていたのが桃スターズオンアースだ。

事前の予想段階で1枠2頭が早々に隊列を組むのは分かる。前述したようにイクイノックスやリバティアイランドの後ろが有利ポジになる、ということは内有利のレースのはずで、そんな中スターズオンアースが引いたのは17番。

果たしてビュイックが17番からどう乗るのかはマスクの興味を持っていた点の1つだったんだよ。

そうきたか、と思ったね。8枠から先行策でリバティの横につくというのが桃スターズオンアースのビュイックが取った作戦なんだけれど、パトロールで見るとスタートから、少し馬群とは離して先行しているんだよ。

よく上手い騎手がやるが、少しだけ馬群から離して折り合いをつける。そうやって折り合いをつけながら、2枚目、よく見るとビュイックがインを見ているのがお分かりだろうか。完全にこれはタイミング、ポジションを測っている。

先程ジャパンCの1コーナーは戦場と書いたが、このようにイクイノックスの後ろでハードモードの殴り合いが行われている最中、桃スターズオンアースはまるで不利も受けていないし、ぶつかり合いもしていない

確かに強い馬の後ろは有利だ。ただ有利な分取り合い、負荷も掛かる。スターズはまるで負荷をかけずに1コーナーに入ることができた。

昔からジャパンCの外先行が嵌まることはある。トーセンジョーダンがウィリアムズ乗せて外から2着になったのを少し思い出した。

向正面。もうすでに隊列ができている。黒タイトルホルダーの後ろに水イクイノックス、その後ろに白リバティアイランド、その後ろに赤ドウデュース。

強い馬の後ろという観点で考えれば、普通この隊列で有利なのはイクイノックス、リバティアイランド、ドウデュースの順

ただ桃スターズオンアースも外を回っているとはいえ、縦長の隊列の分、過度に外を回されているというわけではない。仮にこれがもう1、2列後ろであれば、更に1、2頭分外を回されていることになる。

その観点で考えれば、スターズオンアースのビュイックが1、2列ポジションを上げて先行策を取ったのは大正解だったと言える。

一方、橙ディープボンドはスターズオンアースの1列後ろのポジションに入ってしまっている。

当初は水イクイノックスの真後ろを白リバティアイランドと争っていた馬だ。ポジション争いに勝ったリバティより1~1.5列後ろになってしまっていた

それでいてまだまだ走れる内ラチ沿いは赤ドウデュースに取られてしまい、内に入れるところもない。1コーナー前のポジション取りに敗れてからずっと後手に回ってしまっている

その後ろを見ると、同じくイクイノックスの真後ろ争奪戦に敗れた黄ダノンベルーガが、赤ドウデュースの真後ろ…ではなく、紫イレジンを挟んで後ろに入ってしまっていた。

イレジンもフランスでGIを勝った馬ではあるが、ではドウデュースとイレジン、日本でどちらが強いかと言ったら、これは聞くまでもないだろう。たぶん世界の合田でもドウデュースと答える。

ベルーガはドウデュースの後ろが良かったね。もちろんドウの後ろを取れていたら勝っていたとは言わないし、それでもたぶん3着以内はないと思うが、掲示板の可能性はあった。

矢作師が「大逃げする」と示唆していたが、実際大逃げになった。1000m通過は57.6

これは速い。東京2400mのジャパンCでこれまで一番速かったのが2020年、アーモンドアイが勝った年の57.9。2:20.6というモンスタータイムが生まれた年のほうではない。冒頭で少し触れた、アーモンドアイVSコントレイルVSデアリングタクトのあのレースだ。

20年ジャパンC 2:23.0 1000m57.9
12.7-10.8-11.8-11.3-11.3-11.5-11.8-11.9-12.1-12.3-13.2-12.3

23年ジャパンC 2:21.8 1000m57.6
12.7-11.3-11.5-11.0-11.1-11.5-12.0-12.1-12.1-12.4-12.4-11.7 

馬場は20年のほうが少し時計が掛かっていた。そう考えるとペース面はほぼ同レベルだと思う。ラップも似てるんだよな。

キセキが大逃げをかましていた20年と比べると、2番手以下が少し離れている感じもあるが、今年、2番手であるタイトルホルダーの1000m通過は推定60秒ほど

言い方の問題だと思う。『パンサラッサが57.6で大逃げした』というとすごく速い気がするが、『タイトルホルダーが60秒で逃げた』というと遅いペースに感じる。

以前なんかの回顧でパンサラッサの逃げはレコードを生みにくいと書いたが、2番手が60秒で通過する2400mでレコードは出ないな

ではこれがもっとレコードに近づくにはどうすれば良かったか。たぶん2番手タイトルホルダーがもっと飛ばす必要があったと思う。

別に1000m57秒台で飛ばして逃げる馬ではないが、3000m級でも60秒前後で逃げる馬。タイトルホルダーにしては少しペースが遅い

2番手以下はスローに近いんだから、タイトルホルダーはもっと飛ばさないと持ち味が生きない』というご意見が散見された。確かに、マスクもそうだと思う。

昨年の宝塚記念で1000m57.6で逃げたパンサラッサを、そんなに離れず2番手追走して勝った馬だしね。どちらかといえば自分自身も59以内で逃げるくらいタフな形のほうが合う馬だろう

でもそんなことは俺たち以上に和生がよく分かっている。そんな宝塚記念を快勝した時に乗っていたのも和生だ。その和生が早め早めに踏めなかった。それがタイトルホルダーの現在地なんだと思う。

レース後『次に繋がる』と言われていたのは気になったな。確かに最近まともに連戦できなかったから、そういう意味では無事走っただけ次に繋がるのかもしれない。

ただいい時はもっといい数字が踏める馬。その数字が踏めなくなっている今、過去数字が低調なレースが多い中山2500で更にパフォーマンスを伸ばせるかというと疑問は残った。ここから更に良化してこないと、引退レースの有馬で勝ち負けは難しいかもしれないな。

残り1200mを過ぎた頃だろうか。1頭、パトロールビデオから消えた。まるで令和のシンザンか。

まー、パンサラッサ入れたままパトロール映すと細かい動きが見えにくいからね。こればかりは仕方ない話だ。

そんな中厳しいレースだと思ったのは白リバティアイランドだ。3コーナー手前なんだが、桃スターズオンアースが外目からフタをしにいっている。

これが言い方は悪いが、相手が3勝クラスをようやく勝った馬ならまだしも、相手はGIを2つ勝っている強豪牝馬だ。

3コーナーを横から見るとこんな感じ。桃スターズオンアースが白リバティアイランドを真横から押し込んでいる

恐ろしく分かりにくいのだが、これはリバティアイランド川田のジョッキーカメラだ。右を見ると、スターズオンアースの口元だけ映っているのが分かる。

口だけ映ってるのは新しいな。こういう新鮮な画が見られるのもまたジョッキーカメラのいいところだろう。

これ、やけに口が近いと思わないか?どこの角度から見てもリバティアイランドの真横に、ピタリとスターズオンアースがくっつくように回ってきているんだ。

4コーナー手前だが、正面から見るこんな感じ。桃スターズオンアースが白リバティアイランドにピタリとくっついているのが分かる。まるで河川敷のオナモミかと思ったが、それはそれで失礼な話だと思った。

ビュイックの技術が出てるシーンだと思う。考えてもみてくれ、時速60kmの生き物に乗って、隣の馬とスペースを開けずに回ってくる行為って相当難易度高い。

どうしても少し隙間が空くものだが、ビュイックはピタリと回ってきて、リバティアイランドに自由を与えていない

先週ナミュールが急遽藤岡康太くんに乗り変わって勝ったことで、別に外国人じゃなくてもいいじゃないかというトーンの話が巻き起こっていた。

確かに結果だけ見れば勝っているのだが、外国人ジョッキーのトップ級はこういうコーナーワークが上手い。ムーアやデットーリクラスは基本コーナーに遊びがない。

それはそうで、ヨーロッパはそこら辺の野原にラチ並べて競馬場を作ったようなものだから、風の影響が強い。少しでも影響を抑えるために馬群がギュっと固まる。横のスペースが全然ない状況下で競馬するんだよ。

日々そういう環境で競馬している分、このようにスペースを作らずにコーナーを回ってくる。ケースバイケースだから何がなんでも外国人を乗せろなんて思わないが、このコーナーワークを見たら、俺が馬主ならトップ級の外国人を乗せたくなる

加えて白リバティアイランドは道中掛かっていたんだよな。これ画像で分かるかと思って何度もスクショ連打したんだけど、ちょっと難しいからVTRで見てほしい。この画像でも少し頭が上がっているのが分かるよね。

まー、スタート後にゴリゴリポジション争いをやって、しかも距離延長じゃ引っかかるのも分かる。中内田師が「若干ハミを噛んだものの許容範囲内」と言っているように、こういう競馬を選択すればこのくらいはハミを噛む。川田も覚悟の上での、攻めの競馬だった

そして前述しているように外からスターズオンアースにピタリとつかれているときたもんだ。相当負荷が掛かっている。それでも2着まで来れているんだから、お嬢さん、立派でしたよ

しかし唸るほど強いね、イクイノックスという馬は。パトロールだけでこの馬の強さを表現するのは難しい。少なくともマスクの腕じゃ無理だ。VTRを見てくれとしか言いようがない。

後ろの馬たちがムチ入れてしっかり追ってる中、水イクイノックスは追い出しを待っているんだもんな。

もちろんいつでもギアが掛かるようにエンジンを吹かした状態ではあるが、直線に入る時点でもうルメールはパンサラッサを捕まえられると思っている。だから仕掛けを待つ。

相手は自分より後ろ。後ろに食われないように1頭だけ追い出しを待っているのだ。

確かに1000m通過だけなら、自分自身は60秒ちょっとと大して速くない。それでもこのレベルの相手で追い出しが待てる馬がこの世に存在するのかと思う。

1コーナーまでのやり取りのパトロールは面白いんだけれど、途中からイクイノックスが強過ぎてパトロールがただの記録装置と化しているのがだいぶ面白い。もう、2着以下の話に移っていいよね?

2着リバティアイランドについてはもうだいぶ書いてきたから、他に書くことは少ない。道中の負荷は相当大きく、個人的にはよく頑張ったと思う。

まー、相手が悪い。このメンバー相手に直線坂の部分まで手綱抱えたまま上がってこれる相手が化け物なだけ

相手が58kg、しかも1:55.2で走ってから中1カ月なのに対して、お嬢さんは更に2週間間隔が空いていて、しかも54kg。完璧に負けた。完敗と言っていいし、これはイクイノックスを褒めるしかない

マスクが注目しているのは川田のコメントの続きだ。

本馬も全力で走ってくれました。負けたことは残念ですが、今後に繋がるレースができたと思います

今までのリバティアイランドは基本、『次を見据えたレース』が続いていたんだよ。考えてみてくれ、2歳時のレースは3歳に向けての教育だ(教育しなくていいならアルテミスSも勝っている)。

桜花賞は次、中1カ月で長距離輸送、大幅距離延長のオークスが控えている。オークスの次は三冠最終戦の秋華賞が控えている。秋華賞の次はジャパンCと決まっていたから、三冠最終戦もジャパンCを見据えた乗り方をしないといけない。

今回に関しては最初から今年の最終戦だと決まっていて、牝馬三冠はもう決まっていた分、現状の目いっぱいを出せる条件だった。川田の動かし方やステッキワークを見ていても相当やっている。

これは大きい。今現状の底を川田と陣営が知ったのだ。現状出せるものがどれだけかがこれで分かったから、次以降に対して比較対象もできるし、どれくらい早く仕掛けていいのかなど、タイミングも把握できる。まさに『今後に繋がるレース』だった。

マスクはこの馬に足りないものは『ちゃんとした負け』だと思っていた(アルテミスは前述の理由から力負けと思っていない)。この負けは来年に向けて非常に価値のある一敗だった。

堂本監督も言ってただろう。「『負けたことがある』というのがいつか 大きな財産になる」って。まさにこのパターン。パドックの所作も落ち着き始めて、お嬢さんは大人になりつつある。来年のドバイ、今から楽しみにしている。

余談だが、最後堂本監督が肩を抱いているのが沢北ではなく深津なの、いいよな。あのシーンが好きなんだよ、マスク。

3着スターズオンアースの道中の運びについてはもうあらかた書いた。このレースを6カ月半ぶりでやれるんだから強い。

マスクは3着スターズオンアースの目を最後消した。なぜかってちょっと太かったから。1週前の美浦でもちょっと太くて、時期的に間に合うか疑問視していたんだけど、体重計ったらヴィクトリアマイルから+12kg、496kgだった

こういうのは数字だけでなく実際パドックを見ないと分からないもの。パドックで実際見たら、全体的に少し緩かった。蹄のトラブルを起こしてしまった以上、どうしてもこうなる。

それでいて外から三冠牝馬を締めまくって3着だからね。十分。オークス以来、骨折があったり距離が短かったりで、MAXのパフォーマンスを見せられていない

元々これだけ走れることは分かっていたが、今回の収穫は『半年ぶりで』、『多少太かろうがこれだけ走れる』ことが分かったことだ。

次回以降のパドックの参考にもなるし、マスクからしても今回は収穫しかない。阪神内回りもできるから大阪杯でもいいが、当然ドバイでも面白いね。ビュイックもさすがに上手い。

スターズオンアースと真逆、パドックがだいぶ仕上がっていたのが4着ドウデュースだ。今日のパドックの馬体に対してマイナス点を述べることのほうが難しかったと思うな。さすが友道厩舎。

問題はそんな馬体で、道中リバティアイランドの真後ろを完璧に立ち回って、最後スターズオンアースを交わせていないことだ。最後甘くなっていて、これはもう距離だと思う

以前に比べて更にマッスルボディーに磨きが掛かり、見てくれはマイルでもおかしくないほど。パドックの馬の状態『だけ』で見れば上位だが、本質の適性は東京2400にはないと思う。

東京2400mで勝ったダービー馬に対して失礼ではあるが、馬なんて使うほどに適性が変わってくるもの。母ダストアンドダイヤモンズが現役時代ダートのスプリンターだったように、今後は1800~2000で狙いたい

元々この秋は有馬まで3戦を予定しているが、距離のごまかしがきくとはいえ2500mはなあ。かといってマイルだと抱えられるか微妙なところで、ドバイターフになるのかな、そうすると。

天皇賞でガス抜きできたか、今日は折り合いもだいぶマシになっていた。何も考えずに乗れる距離で。過去の数字から見ても強い。条件一つ。

5着タイトルホルダーはもうあらかた触れたから、6着ダノンベルーガ。ようやく間に合ったか間に合ってないかのデキ。トモは相変わらずで、この馬の良くない時は後ろ脚を引っ張るような歩き方になるんだけど、それ。天皇賞の反動がモロに出てしまっていた。

では天皇賞を勝ったあの馬は?という話になるのだが、あれを馬として見ていいのかは何とも言い難い。以前よりズブくなって、マイラーっぽさは消えてきたものの、2400だと序盤書いたように押せずにポジションが取れなかったり、慎重に乗らないといけない。すると現状は1800~2200の左回りなんだと思う。

問題は1800~2200の左回りの主要GIが、春シーズンはドバイターフくらいしかないことだ。トモの問題で右回りだと数字が一気に落ちる影響が大きい

来年の天皇賞秋まで、ドバイターフ以外で買いたいところがない。あ、毎日王冠があったな。出てくれば買う。

7着ヴェラアズールは昨年のパドック映像があれば見比べてほしい。全然違う馬。ずいぶん回り道をしているなあ…。

ドイルちゃんは「今日のようにペースが速いと厳しいので、昨年のようなスローの展開が良かったんだと思います」と言っているが、2番手以降が60秒以下の流れでそれを言ってしまっては、今後買いどころがほぼない。

大きなコースの中長距離ということで復調すれば天皇賞春なんかも少し考えたいが、現状の馬体を見ては難しい。いい馬だし、もう一度復調してほしい気持ちはもちろんある。

8着スタッドリーは完全に内枠の分。今日のデキでチャレンジCを使ってくれよとこちら側は思ったりするが、チャレンジC以上に得るものがあるチャレンジだったんじゃないかな。上がりが掛かる右回りの2000~2200のオープンで。

1コーナーの入りで後手に回っていた10着ディープボンドはレース後、和田が「よどみのない流れの中で仕掛けながらの追走になり脚がたまらなかった」と話しているが、本当にそんな感じ。道中もっと抱えられないとどうにもならない感じの追走だった。

ただ先程ヴェラアズールのくだりでも書いたように、2番手以下は1000m60秒以上掛かっている。そこからもう少し緩んでくれればってことを言っているのだろうが、なかなかGIで中盤がダラっとするレースは珍しい

レースが上手いようでそこまで上手くなかったりするから、有馬も上手く乗って2、3着と見ている。

中盤で手綱を抱えて最後伸びてきた前走京都大賞典を見る限り、試しに一度広いコースのGIで中団で溜めてみてほしいんだけど、たぶんそんなことをしてくれないだろう。正直GI制覇のラストチャンスはもう過ぎてしまった気がしてならない

12着パンサラッサはただただお疲れ様でしたとしか言えない。スタートから3コーナーが遠いワンターンのビッグレースは日本にほとんどないし、砂のGIを勝っているとはいえ、日本のダートではグリップも利き辛い。使える条件が少なすぎた。

加えて繋靭帯持ち。乗り越えるハードルが多過ぎる。それでもこれだけの実績を残しているように、自分の形に入ると素晴らしい二枚腰、いや、三枚腰だったと思う

それまでの数字を見ているだけに物足りないレースが何度もあったが、中山記念は競馬に対する考え方を少し変えてもらったレースだったな。詳細を書くと長くなるから省くが、『机の上で競馬をやれる』、珍しい馬だった。

17着チェスナットコート、18着クリノメガミエースの挑戦についても触れておきたい。

出走について、賛否両論があるのは分かる。ただこれが完全招待で持ち出しなしならまだしも、招待ではなく自費遠征でチャレンジしてきたことに敬意を表したいな。

だって、園田で使っていれば少しでも賞金をくわえてくるんだぞ。わざわざ東京まで遠征して、リスクのある芝を走らせたことが、シンプルに凄いと思う。得られる経験はとてつもなく大きい

確かに勝ち負けは経験できないかもしれないし、ただ回ってくるに近い存在だが、出ないことには分からないことばかり。海外遠征だってそうだろう。競馬なんて経験の積み重ね。間違いなく次以降の馬たちに生かされる経験だと思う。


さて、最後にイクイノックス。自分自身の前半1000mはそこまで速くないし、上がり3F33.5という数字はイクイノックスなら出せるものだと思ってるからそこまでの驚きはない

これ、感覚がバグってるんだよな。普通の馬は天皇賞で1:55.2なんていう意味の分からないタイムで走って、中1カ月で体重が増えて出てきて、2400mの3番手から33.5を使って楽勝できない。

イクイノックスならまー、このくらいできるだろうと思ってしまっている自分の物差しを、今後引退した後に戻していく作業のほうが大変だと感じている

天皇賞の回顧でも絶賛したから、もう褒める言葉もないな。ダービーで後方16番手から追い込んできた馬だよ。それが今回は3番手から楽勝。ポジションも取れて、コースも選ばない。2000~2400でアクシデントなしにどうやると負けるのか分からなくなってきた。

こんな馬をここまで作り上げてきたスタッフさんたちに、改めて敬意を表したいよ

ルメールがレース後、「乗りやすくておとなしい。ポニーみたいで誰でも乗れます」と言っていただろう。これ、スタッフさんたちにとっては最大限の賞賛だ。

乗りやすくするには日々の作り込み、教え込みが必要になってくる。相手は言葉が話せない。話せない存在に対して根気よく物事を教えていくというのは本当に難しい作業だ

その作業をこなしきっているからこそ「ポニーみたい。誰でも乗れる」という言葉が返ってくる。あくまで例え話であって、見ている分には簡単な馬とは思えないが、ルメールレベルのジョッキーにそう言わせるスタッフさんたちの勝利だと思う

エサもなかなか食べず、まるで牝馬のような繊細な馬が、スーパーレコードから中1カ月でこのパフォーマンスだもんなあ。今日のパドックもMAXではないにしろ、天皇賞より上だった。ダノンベルーガが反動に苦しんでいたことを考えると信じられない。

こんな馬を見られる時間があとわずかであることが若干残念ではありつつ、次世代が楽しみでならないね。

ここまで長々と回顧を書いてきたが、マスクの言いたいことはただ一つ。

彼は本当にUMAじゃなかろうか

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