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桐生市の不適切業務に忖度なしで切り込む【生活保護】

ニュース報道でもあったとおり、桐生市福祉事務所(群馬県)で不適切な生活保護業務の事案が複数発覚しました。

  • 事案①:毎日来所を求めて生活保護費を1,000円/日で分割支給

  • 事案②:毎週来所を求めて生活保護費の本人必要額を分割支給

  • 事案③:保護費の支給が約1ヶ月遅延

  • 事案④:保護費を金庫で保管

  • 事案⑤:相談時に「保護を実施できない」と申請受理せず

  • 事案⑥:印鑑の保管と無断使用

  • 留意:上記は本人への口頭同意のみで文書保管なし

桐生市の取り扱いの異常さ

生活保護業務に詳しくない方でも、上記の取り扱いに違和感を抱く方が大半なのではないでしょうか。

特に事案①は求職活動を毎日継続させるためにハローワーク終わりに福祉事務所に立ち寄らせ、都度、1,000円を手渡していたというもの。しかも担当が「口頭で同意を得ていた」と主張したのに対して当人は「同意していないが、こういうものだと思った」と発言しており、一方的な価値観の押し付けだった可能性があると考えられます。

確かに生活保護の要件に「稼働能力の活用」があるため、求職活動を行うよう指導するのは当然ですが、果たして、「毎日欠かさずハローワークへ通う」を強いることは正しい判断だったのでしょうか。

さらに言えば、1日1,000円を受け取ったところで『1,000円×30日=30,000円』と最低生活費の約70,000円/月には程遠い金額。実際の運用も、本来支給すべき金額の半分程度しか支給されていない月が複数あったと報道されていました。

支給されないまま宙に浮いてしまったお金はどうなったのかというと、事案④のとおり福祉事務所内の金庫へ保管していたとのこと。確信犯的かつ常習的にに「最低限度の生活」を侵害していたと言わざるを得ません。

他の福祉事務所でも起こり得る

生活保護制度は日本全国各所のどこの福祉事務所でも、同じ生活保護マニュアルを用いて業務にあたっています。ですがそのマニュアルにはすべてが明記されているわけではないため、各福祉事務所内で協議し決定することも少なくはなく、そのために長い年月をかけて培ったそれぞれの独自の「文化」が育ちやすいのもまた事実なのです。

例えば、「稼働能力の活用」のための求職活動を、桐生市のように自力でハローワーク通いさせる福祉事務所もあれば、担当ケースワーカーが送迎をしてサポートする事務所もあります。また、「求職活動をしている」の定義も曖昧なため、桐生市のように「毎日ハローワークへ行く」とする福祉事務所があれば、「月に2回求人へ応募する」とする事務所もありますし、「月に1回採用面接を受ける」とする事務所だって存在します。

生活保護における指導の中でも「就労指導」は、ケースワーカーとしても大きな悩みの種。稼働能力の活用が十分ではない方へ指導するわけですが、「自分には仕事は向いていない」「就職しても続かない」とハナから決めつけている生活保護受給者も少なくはありません。ただしそれでは生活保護の要件である「稼働能力の活用」が満たされないため、指導を繰り返したのちに保護廃止をしなければならなくなります。

となると、何とかして就労指導に応じてもらう必要があり、結果として各地の福祉事務所ごとの工夫(文化)が強く育つことに繋がります。倫理観の欠如したケースワーカーや福祉事務所長が揃ってしまえば、今回のような強制力の高い手法での指導方法を育てる選択をとることが想像できるため、他の事務所でも同様の不正が起きている可能性を否定することはできません。

個人的には事案⑥印鑑の保管と無断使用を行っているケースワーカーは意外とたくさんいるのではないかと疑っています。

今回の不適切事案の発覚から学ぶべきこと

なぜ今回の不適切な生活保護運営が起きたのでしょうか。

  • 倫理観(福祉的視点)の欠如

  • 上下関係による相手方の支配

  • 福祉事務所の指導範囲の誤認識

上記3つが原因の根底にあったと考えます。

①生活保護制度の具体的なルールはあれど、概念的な部分も見失ってはいけません。仮に生活保護上のルール内で運用していたとしても、憲法第25条に定められた「健康で文化的な最低限度の生活」の保障が守られていなければ、何のための制度でしょうか。言うまでもなく、福祉制度として高い水準の倫理観を持っていなければなりません。

②福祉事務所やケースワーカーと、生活保護受給者には上下関係があるのでしょうか。制度上、指導や助言をする立場ではあるため、ケースワーカーが上に見えることはあるのかもしれませんが、大前提として支援者であることを忘れてはいけません。支援者である以上、上下関係は必要なく、これを勘違いして高圧的な態度をとったり、逆に一歩引いてしまう必要は全くないのです。

③生活保護法では福祉事務所の指導は「必要最小限にすること」と定められています。やり方を指定した具体的過ぎる指導や、本人が納得していない不利益な決定を強いることが、果たして必要最小限なのでしょうか。指導範囲の誤認がないかどうか、考え直す必要があります。

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