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リピート②

急激に冷え込んだ1週間。
バイト先では膝丈のキュロットを履かなくてはいけないのでこの時期は辛い。
リボン付きの薄ピンクのブラウスにチェックベスト。今が令和だということを忘れそうになる時代錯誤な制服。
こういうのはいつになったら滅ぶのだろう。

家の冷蔵庫の中に、調理しきれなかった大根が半分横たわっている。
料理のレパートリーを増やすことにあまり関心がない。大根は、炊くものだ。
半分炊いて食べきった後、残りのもう半分もまた同じように炊く。

ピンク色の制服も半分だけ残った大根も、私の日常だ。

日常の中に、一人、もう一人、と人形が静かに増えていく。
私はすぐには顔を完成させずにしばらく放置する。顔のない状態も好きなのだ。
顔が出来上がると、一気に存在感が増す。
狭い机の上に人形が並んでいる。
おはよう、と声をかけたりはしない。ただ、横を通り過ぎるとき、気まぐれに頭をなでる。
人形は特別よろこんだりしているふうでもない。一向に距離が縮まらない。
人形と一緒にいると、とても温かくさみしい。


私はたまに日常の外へ出かける。

日常の外が非日常だとは限らないが、日常をすごく遠く感じるところまで出かける。
日常の外には見たことのないものがたくさんある。
私の日常はどこへいったのだろう。私の日常は今何をしているのだろう。
ちゃんとストーブは消してきただろうか。

日常に帰ると、真っ先にストーブを確認して安堵する。
冷蔵庫をあけると飲みかけの麦茶があり、半分の大根は少しだけ水分が抜けていた。
人形たちに、ただいまを言ってみる。
隣人の電話の声が壁の向こうから聞こえる。
身支度をしてすぐにバイトに向かう。
到着したバックヤードにはクリーニングされた制服がかけてあり、おかえり、と言ってくれた。


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