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日本の山はほんとうに荒れているか?里山利用についての雑感

近年、森林の活用などを進めていこうという議論も増えてきています。木材利用のために「木をもっと伐ろう」というような風潮があります。
木を活用することは重要だと思いますが、手放しで喜ぶことができません。なぜ、喜べないかという部分について、山が現代よりも活用されていた時代にどんなことが問題になっていたのかを知ることは重要だと思いますので、今回は話題を提供できればと思います。

かつての日本では暮らしの近くに「里山」と呼ばれる空間がありました。
まずはその説明からできればと思います。

里山とは何か?

 現代を生きるみなさんにとっては、生きるために「ヤマが必要」と言われても、なかなかイメージがしにくいと思います。
里山についてイメージをしやすくするために、里山がないとどうなってしまうのかについて現代の生活に置き換えて例えてみます。

どんな状況かというと、「食品スーパーや飲食店がなくなる」、「電気がつかない・ガソリンスタンドが買えない」というような暮らしになると思います。

里山とは、簡単にいうと生活のために使われていた山で、上記のたとえのように、生活に必要な「食料と燃料」の供給源でした。
下図は江戸時代と現代(ちょっと古いですが)の一般的な家庭の支出を比較したものです。
図から、現代に比較して光熱費のウェイトが高いことがわかります。
現代では最低限の生活をするため以外の支出に回せる余裕がかつてより大きくなっているため、相対的に光熱費のウェイトは低くなっています。

薪や炭は、食事や暖をとるためには欠かせない存在でした。
では、江戸時代のこれらの支出はどこへ支払われていたのでしょうか?
江戸時代には中東から石油を輸入するなんてこともありませんでしたので、徒歩や牛馬により近く山や河川の上流から運ばれてきていました。

エネルギーの供給源

 現代では、この光熱費の多くをどこへ支出しているかというと、大半は石油メジャーや商社を通して海外から輸入しています。
 しかし、高度経済成長期よりも前までの日本では海外からの燃料の輸入はほとんどなされず。主な燃料は「里山」が供給していました。
一例ですが、下図は、森が生み出すエネルギー源である「木炭」の生産量と県外への移出量を1900年(明治時代)からの約100年間でどのように変化したかをグラフにしたものです。この図から分かるように岩手県から県外へ、特に東京への移出が大きなウェイトを占めていることがわかります。つまり、エネルギーは地方から都市への大きな移出産業であったといえます。

食料生産に必要な資材の供給源

 この他に、里山は食料生産のための栄養の供給源としての役割もありました。
 化学肥料が普及するようになったのは戦後になってからのことです。
 それまでの農業は現代風に言えば「みんな有機農業をやっていた」という表現が近いと思います。ヤマでかき集めてきた落ち葉や枝などを集めて田や畑に入れることで地力を維持してきました。

ヤマが利用されていた時代の課題

 かつては暮らしに欠かせない資材の供給源として活用されていたヤマですが、そのような時代に問題になっていたことがあります。
それは「木の伐りすぎ」です。

日本の歴史の大半は木の伐りすぎによる山地の荒廃が問題とされてきました。これによって山は崩れ土砂の供給が活発でした。
現代の山を70年前の人が見たらびっくりすると思います。

 それが化石燃料の普及(下図)や海外からの木材製品輸入へ代替されていくプロセスのなかで利用されなくなったことにより、保護されてきた側面もあります。
 その結果、日本の森林の蓄積量は中世以降では最も蓄積が豊富にある状況であるといってもいいでしょう。かつてのヤマの光景は木は少し生えてきたらすぐに切られて、森というより「藪」という表現があうような状態だったと思います。それに比較して現代では樹齢50年を超える木がたくさん生えているので、半世紀前まででは考えられないことです。
 そういう意味ではヤマが活用されていた時代からみると必ずしも「荒れている」とは言い切れないのではないでしょうか?

戦後は木質バイオマスから化石燃料への代替が進んだ

木材利用の注意点

 森林の木材生産現場では、機械の大型と高性能化が進んでいます。木材の利用についても大規模な設備が増えています。このことが何を意味するかというと、木材を安くたくさん切り続けなければいけないという状況になるということです。
 木をたくさん伐る必要がでてくるため、すぐに、はげ山になってしまいます。設備が集材範囲の木の成長量以内でないといずれ他地域と木材の取り合いと森林資源の劣化を招きます。
 そのような状況にならないように、成長量を超えた伐採をしないことを徹底しなければならないと思います。

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