麻雀店でチヤホヤされるために先輩巨乳女を丸裸にして撃破した話⑤
本当の父親の顔は、あまり覚えていません。
母が再婚するにあたって、わたしはさぞ邪魔な存在だったのでしょう。
あの人がわたしに話しかけてくることは、罵倒の言葉以外ではほとんどなかったように思います。
そんな母の影響なのか、それとも似た者同士でくっついたのか。
いまのお父さんも、はじめは全く、わたしと口を利いてはくれませんでした。
小学生くらいのときの話ですから、当時のわたしにとってお父さんは『毎日わたしの家にいる知らない男』という認識です。
ただ自分の家で誰も話す相手がいない日々は、子供ながらに辛いものだったと記憶しています。
お父さんはたまに、家で男友達と麻雀をしていることがありました。
広い家じゃありませんから、わたしも、その場をよく目にすることがあったのです。
別に興味があったわけではありません。
少しでも孤独感を紛らわせたいとでも考えてたのでしょうか。
わたしは不意に「それ、なにやってるの?」とお父さんに尋ねてみました。
どうせ答えてくれないと思いながら。
しかし意外なことに、お父さんから返事ありました。
そのときの手牌の1牌を差し出して「触ってみるか?」って。
その日からです。
麻雀の話だけに限ってではありますが、お父さんがわたしに話をしてくれるようになったのは。
相変わらず、母がいる前では話をすることはなかったから、世間的にはきっと『クズ』に分類されるお父さんだったと思います。
天気とか勉強とか学校のこととか、そういう普通の親子がするような会話はなかったけれど、麻雀の話をしてくれるお父さんは、とても楽しそうで、「よっぽど麻雀が好きなんだな」って子供ながらに思いました。
だからわたしは麻雀を覚えました。
わたしのほうからその話をふると、お父さんはとても嬉しそうにするんです。
そのうち、お父さんのご友人ともたくさんお話ができるようになりました。
ひとりぼっちだった家でも、ひとりぼっちでなくなりました。
わたしにとって麻雀は、男にチヤホヤされるための道具です。
わたしを――――独りにしないための、道具です。
ひとえに麻雀だけが、他人とつながれるツールだと思っていましたが、それ以前に、最低限の身だしなみを整えることは必要不可欠だったようです。
せっかく届いた化粧品を無駄にはするまいと、メイク動画で一生懸命に勉強。
綺麗な洋服に身を包むと、周囲からの目もだいぶ変わったかのように感じました。
しかしまだ、男性スタッフからの話かけてもらうよなことは、ほとんどありませんでした。
ピンクちゃんだけが「最近すっごく、可愛くなったよね~」と褒めてくれて、そのことは純粋に嬉しかったです。
【南四局 上家(南家) 10巡目】
南家 3副露 ドラ西
オーラスでした。
点数状況は以下のような感じです。
【南四局 点数状況】
東 対面 …… 34,000
南 上家 …… 11,000
西 わたし …… 46,000
北 下家 …… 9,000
上家さんの仕掛けは、どう見ても3着確定の仕掛けです。
わたしの手は和了まで遠く、親が2着目であることも考えると、差し込みをしたほうが良いでしょう。幸い、当たりそうな中張牌は複数持っています。
上家さんも、それを望んで鳴き始めたところがあるかもしれません。コミュニケーション能力が欠如しているわたしでも、卓上であればそれなりの対話をすることができます。
いえ、卓上が唯一、誰かと心を通わせることのできる場と言っても過言ではないかもしれません。
ブーブーと、アイフォンの通知音が鳴りました。
『対話を捨てれば願いが叶う』と。
件のアカウントからの通知です。
わたしはすでに決めていました。
またこのアカウントからのメッセージが届いたら、それに従おうって。
上家さんの仕掛けに差すことをやめました。結果、その局は親が満貫をツモ和了り、まくられての終了となりました。
でも構いません。
代わりにわたしは、卓外でのコミュ力を手に入れたのですから。
その日以降、なんだか妙に自分に自信がでてきたわたしは、お客さんや男性メンバーに積極的に話しかけることができるようになっていきました。
前にも言いましたが、うちの男性メンバーは内向的な人――つまり、陰のもの――が多く、それはわたしと属性が同じということを意味していました。
ですから、いざ話が軌道に乗ると、会話が続く続く。
仕事のこと。学校のこと。時事ネタやくだらない冗談。
案外、話のウマが合うようで、打ち解けてみるとなんてことはありませんでした。
麻雀の話だけは、口論になるのが怖くて意図的に避けるようにしました。 男性メンバーも麻雀に関しては女性軽視の傾向があるようで、その話はあまりしたがらなかったように思います。
ただ、望んでいたチヤホヤって感じとはちょっと違い、なんていうか、みんな『ガチのオタク友達』って感じで接してくるのが、いささか不満ではありました。
――――ピンクちゃんみたいに、『女性』として接してもらえていない。
出勤日数を重ねるごとに、そういった想いは募っていきました。
「最近、ほんとうに雰囲気変わったよね〜」
洗い物が溜まったキッチンで、ふたりきりのとき、ピンクちゃんが、そう話しかけてきました。
「あ、は、はい。わたしも少し、服とか気をつかっていこうかな、って」
「あはは、そうなんだ〜。うん、似合ってる、似合ってる〜」
ピンクちゃんはフワフワな笑顔を掲げます。
こう言った笑い方が男ウケするのかな? と、ついつい観察してしまいました。
すると不意をつくように、
「そんなに男からチヤホヤされたい?」
冷たく低い声が聞こえました。
え? いまのはいったい誰が言ったのでしょう。
一瞬混乱しましたが、他にいようがありません。
ピンクちゃんです。
たしかに、目の前にいる彼女の可愛らしい口から聞こえてはきました。
ふだんのピンクちゃんの声とは似ても似つかない声色で、はっきりとそう言ったのです。
冷や汗を垂らすわたしの目の前で、彼女はただただ笑っていました。
この記事が参加している募集
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?