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呑んで忘れたい


街を歩けば人目もはばからず

まだ日が昇る前は浮かれていた者の

吐瀉物をカラス達が掃除している

この街は金と欲望がいくえにも

交差する歌舞伎町。

「頭痛てぇ・・」

木南秀(きなみすぐる)は

自分の店の照明とは違う太陽のまぶしさに

目を細めていた。

その町にはもう電車が動いているのにも

関わらず緑茶割りのロング缶をもって

床につけば記憶に残りもしない会話をする

人と人がいる。

秀は去年大学を卒業した23歳

就職活動が面倒になり

何もしないのは親に申し訳ないと

別段、自分に自信があったわけではないが

某有名お笑い養成所に入所した。

入所数ヶ月は真面目に通っていたが

教わることは何もないと

今はサボりがちである

というよりは二日酔い、いや常に

アルコールが躰の隅々に居座り

行けてないというのが正直なところだ

世間で言うところ売れてない芸人

いや、まだ芸人でもないフリーター

大学を卒業してからというものの

親からの仕送りはめっきりなくなった

当たり前だ、大人なんだから。

そこで生活費を稼ぐにはアルバイトだ

そのアルバイト探しを・・間違った。

「バイトかぁ・・」

俺は大学生の時にバイトはしてなかった

朝がめっぽう弱いからだ

夜にできて良い感じのバイト・・

スマホでバイト求人サイトを見る中で

「時給1700円 バーテンダー募集」

バーテンダーというなんとも恰好のつく響きに

すぐさま募集をかけた。

募集をかけたバイト先の店名は歌舞伎町にある

「Bar~翔~」

なんかダサい、でも時給もいいし

バーテンダーってなんかかっけぇし

と募集したことに満足していると

電話がかかってくる。

「ああ、どうもどうも木南くんですか?

 僕ね、歌舞伎町のバーで店長やってる者だけど

 今日、面接いけちゃう?」

「あ、はい。。」

「あざすぅじゃあ18時くらいに来てよまたね」

なんともノリだけで生きてるような店長から

稲妻のような電話が届く。

まあいちいち細かい店よりいいかと

家路をでる準備を始める。

17:51店の前にいた俺は「Bar~翔~」の

看板を眺めていた、黒が基調にメラメラと

燃える炎のなかにBar~翔~と書かれている。

「お、どちらさま?」

一昔前のホストのような男が色眼鏡をして

声をかけてくる。

「あ、面接で・・」

「あ、木南君ね!おっけー採用で!」

「え、はやくないですか」

「君、顔悪くないからいいよ人気でるよ!」

「いや、顔って、面接って自分で言うのも

 あれですけどコミ力あるとか雇って大丈夫とか

 そういゆの見るんじゃないのですか?」

「大丈夫、いま僕とこうやって会話できてる合格」

そのまま僕は店の中に案内された

なんとも言えない匂いが店中を包んでいる

「普段、なにしてんの?」

「お笑いの養成所に通ってまして」

「え、まじで?おれお笑い大好きだよ

 そんなの関係ねぇってねww」

・・・・古い・・・・・

「えーっと今日から働ける?」

「え、僕何もできないですけど

 お酒もそんなに詳しくないですし」

「大丈夫!君の仕事はこのドンキで買った

 1100円のボトルを1万円で売ることだから」

はぁ?ぼったくりじゃん

「ぼったくりバーかよって思ったでしょ!

 ほら値段表もあるしウチはこうやってるから」

「いや、おしゃれなバーと聞いて応募・・」

「あぁまだサイトその書き方してるの

 ごめんね木南君、ウチは客に合わせて

 カクテル作るとかじゃなくて

 どんだけ楽しませるかでやってるんだ」

「あ、じゃあ自分帰ります」

「いいじゃん一回働こうよ今日手渡しで給料

 ちゃんとだすからさ!」

「・・・・」

「おっけー!じゃあよろしくね

 メンズバー翔の店長やってる壱家バチカです!」

「・・・イチカバチカ・・・・?」 

                   (続く)

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