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【内向型HSP小説】もしかして、HSPの方ですね?~橋本直人編➀~

その日、俺は、忙しさのあまり昼食を食べ損ねていた。

俺は、橋本直人、28歳。
営業の仕事をしている。

取引先から急遽、納入期日を早めて欲しいと電話があり、
断り切れず、それに関することを扱っていたら、
訪問時間になっていた。

俺は、みんなみたいに要領よくいろんなことが扱えないから、
いつも食事の時間や睡眠時間を削ることになってしまう。

「営業は向いてないと思いますが、ずっと会社の中にいるよりは気を使わなくていいのかもな…と思っています。」


俺は空腹が苦手だ。

空腹になると胃がじりじりするような痛いような感覚になり、
ほかのことに集中できなくなる。
やむを得ず、移動の途中、コンビニで牛乳を買っていつもの公園で
少しだけ休むことにした。

いつもの公園は、大きな道から一本入ったところの住宅街にある。

静かな公園だったので、
俺は疲れた時や、
一人になりたいときによくここに来ていた。


黄色と青に塗られたかわいい滑り台と、
大きな桜の木があって、その木陰に一つだけベンチがあり、
そこがいつもの俺の指定席だった。


牛乳を飲み終えてストローをくわえたままパックをつぶしていると
知らない女性が、


「お隣、使ってもいいですか?
新しい靴をおろしたんですけど、靴擦れしちゃって…。」

と、申し訳なさそうに声をかけてきた。

「あぁ、どうぞ、僕もそろそろ行かないとなんで。」

笑顔で答えると、女性は軽くお辞儀をして隣に座った。


靴擦れはかなり痛そうだった。
女性はストッキングの上から絆創膏を貼った。

「ストッキングの上からで大丈夫なんですか?」
意図せず言葉が口から出てしまった。

「あ、あの、その、い、痛そうだなと思って!
あのっ、別になんかそんな変な意味じゃなくて…っっ。」

余計なことを言ってしまったと焦って言い訳する俺に、
女性は軽く笑ってこう言った。

「もしかして、HSPの方ですね?」

「…HSP?」

「あら、ご存じないですか?」

「はい…。聞いたことないです。」

「HSPも、だいぶ認知されてきたと思ってたけど、まだまだなんですね。」

そう言って女性はハイヒールをはきなおしながら優しく笑った。

4~5人に一人生まれつき危機管理能力が高めな人がいるんです。

ハイリー・センシティブ・パーソン。
その頭文字を取って、HSPと呼びます。

最近では、『繊細さん』なんて言われますけど、実際のHSPは、
繊細の前に『大胆』という言葉が付くんじゃないかなってわたしは思ってます。

HSPは

『大胆かつ繊細』

実は、とても心の強い人達なんじゃないかなって。」

女性は嬉しそうに話し続けた。


「人って言いましたけど、HSPって、人間だけじゃなく
100種類以上の生物にもみられる気質なんです。

HSPが廃れないところを見ると、種の存続に必要なのではないかというもあるんです。

もし、本当に繊細で敏感で弱いだけの存在なら、
とっくの昔に自然に淘汰されているはずですから

今、この時代にHSPが存在するということは、
必要があるか、
生き延びるための術を持っているか、
とにかく何かある
と、いうことだと思うんですよね。

断れないのも
空腹が苦手なのも
HSPあるあるなんですよ。

睡眠時間や食事時間を削ってしまうのもそうなんです。

少数派なので、HSP以外の方には受け入れられない考え方も、
HSP同士なら共感できることがほとんどなんです。」

彼女は一気にHSPについてを話した。

「HSPについてお詳しいんですね…。
聞けば聞くほど、心当たりしかなくて…(笑)

やっぱり僕もHSPなのかな…?」

「わたし、HSP男性専門カウンセラー片桐恋と言います。」

そう言ってその女性は俺に名刺を渡してきた。

「理解されないがゆえに、
自分を殺してしまっているHSP男性が本当に多いです。
HSP男性同士でお互いの弱さと見える部分を刺しあう事もあります。
傷つけたくないのに、傷つきたくないのに…。

それから、
あなたは、ちょっと無理しすぎな顔をしてます。

そろそろ休まないと、こころがいっちゃいますよ。

疲れやすさ、
・過剰な眠気または不眠
・自己否定、
・今まで好きだったことが好きじゃなくなってる、
・お風呂に入るのが苦痛、

これらは、あまりよろしくない状態なので、
一つでも感じる事があったら、わたしに連絡をもらうか、
病院に行ってくれますか?」

突然のことに、なんと返事をしたらいいか迷っていると、


「ごめんなさい、急にこんなこと言われても困りますよね。」

と、女性は優しく笑い、

「何か力になりたいって思ってしまいました。
わたしもそろそろ行く時間なので、これで失礼させていただきます。

短い時間でしたがお話しできて楽しかったです。」

そう言ってから、女性は深々とお辞儀をして、靴擦れを気にしながら、
少しゆっくりと立ち上がる。


「もし、今、人生にしんどさを感じているなら、
睡眠時間を意図的に9時間取ってください。

毎日です。

眠れなくても大丈夫です。
照明を落とした静かな場所で、ゆったりと横になって9時間を過ごしてください。」

これを実践してもらうだけで、QOLがかなり上がるはずです。



これが、俺と恋ちゃん先生とHSPとの最初の出会いだった。


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