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「彼岸より聞こえくる」第8話
■腐敗の章
ここはオカルト研究会の部室。
俺と、如月卑弥呼&白タンクトップ改めシロは、放課後まで待てず、あの会話の後すぐにここに来てしまった。
俺の招集メッセージで、昼の時間、兄貴たちもこっそりと部室に集まっていた。
「いいな~、いいな~、弟さんには霊さんが見えてるんですよね~!
私にも見えたらいいのに~。」
雪ちゃんがよだれをたらしそうな顔で俺を見た…。
「シッ!ユキチャン、声が大きいアルヨ!私達、ココニイル事、誰ニモ知ラレテハ、イケナイアルヨ!」
極限まで抑えた小声で話すたっくんは、今日は謎の中国人テイストか…。
「とにかく我々は、その人探しとやらに全面協力することを約束しますぞ!」
と、兄貴が右手を大きく振り上げ、高らかに宣言した。
「セイサン!モット、小サナ声デ、オ願イシマス!」
「あぁ、すまん、すまん。」
ここに来ると、変だ変だと思っていたうちの兄貴なんて、別にそんなにたいしたもんでもないんじゃないかと感じてしまう。
…まぁ、上には上がいるって言うしな。
そういうことなんだろう。
***
「探したいのはこいつ!」
シロはサブバッグの中から一枚の名刺を取り出し、机に乗せた。
名刺には、
【音楽プロデューサー 都築 瞬】
と書いてあった。
兄貴が、名刺を見るなり大きな声をあげた!
「こ、この人は…!!」
全員が兄貴に注目した。
「い…いや、詳しくは知らんのだけど、確かYouTubeでアイドルユニットのオーディション番組をやっていたような…?」
雪ちゃんが、
「そういえば、クラスの女子がそんなのあるって言ってたの、聞いたことあるかも…?」
普通の高校生なら興味のありそうな番組なのに、この場に詳しい奴が一人としていないってのが笑える。
「その動画、今、見れるか?」
「ああ、多分、僕のスマホですぐに再生できるのだ!」
兄貴が早速、動画を検索し再生した。
みんなで覗き込む。
騒がしいオープニングが流れ、胡散臭い司会者らしき人物が話し出す。
『さぁ~、今日も始まります!
今世紀最大の対戦型アイドル発掘企画!
誰がこのユニットのメンバーになるかは、このYouTubeのコメントの数で決まります!
そう!視聴者の皆さんが審査員です!
ルールはたったひとつ!!
誰あてのメッセージなのかをコメント欄に入れるるるるるぅ~~~!!!
ただそれだけ!
新しい対戦者、随時募集中!そして今の一番人気は~…』
「兄貴、その、都築瞬ってやつはどこで出てくるんだ?」
兄貴は画面を指で触り、動画を進めた。
画面の人物が男二人になった。
『さて、天才音楽プロデューサーの都築さん、ここからの流れをどのようにお読みになりますか!?』
『あぁ、今回もトップで抜けるのはMaryaだろう。凡人にはなかなかわからないかもしれないが、あいつには他の者に追随を許さない狂気がある。
アイドルというものは、可愛いだけでなれるもんじゃない。
まぁ、それは俺くらいのレベルにならないとはっきりとは見えてこないかもしれないが、君達でも、なんとなく感じる事くらいはできるだろう?』
「こいつか…。」
都築は、太ってはいないが、うまいもんばっか食ってんだろうなって思うような、ちょっと脂っぽい固太り体系。
50代前半と聞いているが、体のラインがまるわかりのタンクトップに、ぴちぴちの黒っぽいジャケットを羽織って、袖をまくっている。
フランス人ならおしゃれに着こなせそうな細身のパンツと、趣味の悪い金のネックレスに成金ぽい指輪。
色黒で、白髪交じりの髪を無造作に立てた短髪。
くっきりとした二重に、右ほほにあと数年したら深いしわになりそうな深いえくぼがあり、俺の感想としては、かなり下品な若作り野郎。
上から目線の物言いは説得力はあるのかもしれないが、俺は苦手だと思った。
俺は確認のためシロを見た。
シロの目がこれでもかというくらいに見開かれ、体はガタガタと震えていた。
全く知らない人間にこんな反応をする奴はいないだろうから、こいつでないとしても、何か関係はあるのだろう。
「大丈夫か?」
俺が覗き込むと、がくがくしながらも、
「…こいつ…で…間違いない…!」
相手が誰なのかはわかった。
が、俺には気がかりがある。
如月卑弥呼の霊体が、今朝に比べてかなり見えにくくなっているのだ。
声も聞こえてこない。
下手したらこのまま、明日の朝にも消えてしまうかもしれないと感じるくらい反応が薄くなっている。
一刻も早く、この女を成仏させないと、誰も知らないまま如月卑弥呼の魂はこの世から姿を消す事になるかもしれない…。
自分がその状況に陥ったのでない限り、見えない奴らにはあまり関係のないことかもしれないが、こんな風に、誰にも知られないまま消えていく魂にもたまに出会う。
(あの人、急に変わった)なんて思ったことはないか?
なぜ、急に変わったのか、考えてみたことはあるか?
そいつは、本当の、そいつだと思うか?
本当にそうなのか…?
消えていく魂は、自らが望んだように俺には見えた。
諦めた者の
なれの果て…。
…そんな言葉が頭に浮かぶ。
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