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(仮題)北園克衛「圖形説」の周辺備忘録..vol.2

 前回のこの周辺備忘録において言及した『奈良大学紀要第34号』に掲載された奈良大学教授浅田隆氏(当時、現在は名誉教授)の論文「奈良大学図書館『北村信昭文庫』北園克衛初期詩篇及び初期未発表詩稿等」において公表された北園克衛の未発表詩稿『記號学派』の詩稿が下の図(部分)です。
 下の図に取り上げたのは5篇ある『記號学派』うちの「記號動作」という表題の1篇となります。(※これは公開されている論文のPDFファイル画像データに変換をさせていただきました。)

北園克衛による詩「記號動作」の原稿

 そして、上記詩稿をから活版印刷の技術で活字化したものが下記の画像となります。

詩「記號動作」の試し刷り

 原稿用紙の升目に合わせた形で書かれた詩稿から活字を使って印刷物とする場合、通常は縦書きであれば文字組は縦組みになり、行間を必要な幅のインテルで揃えてゆくことになります。
 その基本となる文字組みの組版に大小の活字を混在させ、またある一部分に罫線を入れてゆくとなると、縦の文字組みの行間の値を設定を統一するのか、一行ごとに変えてゆくのか、考え方を決めて作業に取りかからなければいけません。さらに斜めの罫線を入れるとなると斜めの線を作るための印字されない余白となる部分と合わせた罫の加工とそれをどのように版に組み入れるかといった込物の計算が必要になります。その上、活字の大きさが行ごとに変わると縦の長さを合わせる作業が必要になります。そうなると極端な話、縦組も横組みも関係なくなり、一つの四角形でできた大小の金属の小さな塊の集合体という面の上に印刷される凹凸をはめ込んで行く作業になりますが、そうなると原稿用紙に書いて表現しようとした意図が全く消えてしまうことがあり得ます。それはここでは欄外に置きます。 
 想像ですが、活字工(作業としては植字工が行うと思いますが)としては仕上がりの指示がないとどこから手を付けてよいかわからなくなる可能性があります。
 浅田隆氏の論文では、この詩稿を同封した北園克衛の手紙も公表されており、そこで北園克衛(当時は橋本健吉の名で書かれている)は、「この詩は、みんな普通の活字で組んでください。数字、アルハベットもなるべく小いさいのをお使いください。」と組版の指示をしています。これはとても簡単な指示です。
 通常、標準の活字は、活版印刷では五号、つまり10.5ポイントの大きさになります。ファニチュアなどの詰め物やブレーズ鋏などの道具は、この大きさを基に作られている場合が多いです。では小さい活字をどの大きさにするかとなると、普通は七号、つまり五号活字の半分の大きさである5.25ポイントとなります。七号活字となる理由は五号活字と同じ版で等倍ですから組みやすいという理由になります。

詩「記號動作」の試作組版(部分)

 上記は私が原稿から起こした版組です。表題は12ポイント、ひらがなと漢字は9ポイント、数字とアルファベッドは6ポイントで組みました。12と9と6の組み合わせは、3の倍数の関係になりますから組版が楽です。どうしてひらながと感じといった文字の基本の大きさを五号にしなかったかというと、圖形説で使われている活字の大きさが9ポイントと6ポイントだと考えているからです。
 原稿では約5行の中に収まっているのですが、ワタシが作った試作の組版では7行となっています。約2行多くなった大きな理由は、文字間をベタにした場合、「8」2文字と「a」とを結ぶ90度の角度を持つ斜めの線が三角形で結ぶためにです。「8」の2文字は、「鳥類」の文字と「魚類」の文字の中間に位置しているので、その2つの「8」位置が決まると罫線の位置も自ずと決まります。「鳥類」や「魚類」の漢字とブレーズの位置をもっと縮めれば行数は1行ほど減るのですが、それは今後、全体の配置をみながら調整したいと思います。
 こんなことをして何が面白いのか。ワタシが考えているのは、北園克衛の白のアルバムに至る表現に当時の印刷技術、つま活版印刷がどういう影響を与えているのか、といったことです。色々と考えていることは次回以降書きたいと思います。

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