長編小説「ウンコ」③

ブサイク男性のチンカス臭にまみれたビル群を抜け、ようやく私が住むワンルームアパートにたどり着いたのは、13時半を過ぎたころだった。私はこのボロボロのアパート、向日葵荘をすごく気に入っている。見るからにボロボロのアパートのくせに、周囲の植え込みにはなぜかそれを隠すための植栽ではなく向日葵が植えてある。何もかもが予想外で、成形的な都市のリズムを狂わせる意図が満々なのだ。私は不動産屋に案内してもらった時、一目見てここに住もうと決めた。奇跡的な出会いというのはだいたい突然おとずれるものだ。私はその機を逃さない。それから、これは住み始めて知ったのだが、この向日葵が夏におどろくほど巨大な大輪を咲かせ道行く人を圧倒する。ボロボロのアパートの周囲に、この世界のあらゆる魔をはねのけんばかりの大輪が連なるのだ。アドール、貴方はそんな素敵な聖なるアパートの一室の便器の中で生まれたのよ。アドール、私は今アパートに着いたわ。もうすぐよ、あと数秒であなたに会える。

つづく



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