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資本政策を見る視点

私が資金調達をしているベンチャー企業の支援をしている中で、必ずといっていいほど議題になるのが資本政策。

資本政策は、特にベンチャー企業が、株式を追加で発行して資金を集める上で、各株主がどれくらい割合を持って、どれくらいの支配権を持つかを自社の戦略に合わせてシミュレーションすることです。

資本政策については、書籍「起業のエクイティファイナンス」や「資本政策立案マニュアル」に詳しく書いてあるものの、ゼロから理解するには相応の時間がかかります。
私は、本業に集中しなければいけない経営者は、エッセンスだけ知って、詳細は専門家に確認を取りながら適切な意思決定ができればよい、というように考えております。

そこで、資本政策に必要な、「押さえるべきポイント」を、絞ってメモしておこうと思いました。スピード感を持った意思決定に貢献できればと思っております。今後の経営リスクを左右するものまでは押さえていないため、あくまで参考・メモ程度に捉えていただければと思います。

早速ですが、押さえるべきポイントは
権利(シェア)必要な(出資してもらう)金額バリュエーション(会社の値段)の3つです。この3つは資本政策を考える上で重要な変数と考えていただければと思います。

このポイントについて資金調達前に方針を固めて、後は相手との交渉の中でバランスをとりながら双方合意の水準まで持っていきます。
資本政策は資金調達とセットで考えます。

それぞれのポイントについて、自社の方針を決めておくことが重要です。

1. 権利(シェア)

どこまでシェア(権利)を自分が握っている必要があるか

資本政策において1番重要なポイントです。株式会社では、株主が企業が発行している株式の何割を保有しているかで、意思決定できる内容が変わってきます。自社の資本政策を考える上では、経営者または安定株主と言われる物言わない株主の保有割合が3分の1、2分の1、3分の2超を保有しているかがポイントになります。

少し乱暴な言い方かもしれませんが、3分の2超を保有していれば、株式の発行、取得、合併、解散、定款の変更など企業経営の重要な意思決定が経営者の意思でできます。逆に、3分の1超を保有していれば、他の株主が1人だとしても3分の2超を保有することはないため、その重要な意思決定を拒否できる、という意味で重要です。

2分の1超を保有していると、役員の選解任や配当など、一般的な意思決定を自身で決めることができます。

段階的に株式の発行(増資)をすれば、基本的に既存株主の保有割合は下がります。これを希薄化(きはくか)といいます。資金調達やM&Aをする上で、多くの場合創業者である株式保有割合がどう変化し、その後の意思決定の影響力を持ちたいか、方針を決める必要があります。

基本的には、一度株式発行をしてしまうと、個人でその金額を払って買い戻さない限り、権利を取り戻すことはできません。資本政策は原則後戻りできないので注意が必要です。

2.必要な(出資してもらう)金額

事業計画を実現するために、どれくらいの資金が必要か(将来含めて)

資金調達を画策している企業は、資金の出し手である投資家に、これから自社の事業がどのように成長するか、そしてそのためにはどれだけの資金が必要がをプレゼンすることになります。
資本政策を考える上でも、この事業計画をもとにどれくらいの資金が必要かを考えておくことが必要です。
将来にわたって何度か資金調達をすることもあると思います。将来のことほど不確実性は増しますが、それでもあえて現段階で考えられる計画を数値に落とし込む、ということが重要です。

3.バリュエーション(会社の値段)

バリュエーションは、相場を反映し、事業の特性を反映しているか、その事業計画が実現した場合予測されるリターンがどうか

バリュエーションとは、大雑把にいうと会社の全体の価値のうち株主に帰属する部分の価値で、会社がまるっと売買される時の金額と捉えていただければと思います。
ベンチャーの資金調達においてバリュエーションは、調達しようとする金額を、新規に発行する株式割合で割ることにより算出されます。
例えば1000万円を資金調達するときに、その1000万円を出してくれる投資家に株式の割合10%を付与すると、1000万円÷10%でバリュエーションは1億円になります。
この場合、創業者が元々100%保有していた場合、出資後の保有比率は90%になります。
このとき、1億円のバリュエーションは投資後の価値なのでポストマネーバリュエーションといいます。また、1億円から投資前の1000万円を引いた価値9000万円はプレマネーバリュエーションといいます。

3つの変数を交渉しながら調整する

調達金額と株式発行割合(シェア)が決まると、自ずとバリュエーションが決まるのですが、この数値はあくまで出発点です。

調達金額が多く、分け与えるシェアが少ないほど、バリュエーションは高くなります。ここで、投資家サイドの思惑と、相場が出てきます。

一般的に、エンジェル投資家など、会社の初期段階に投資してくれるような方は、シェアやバリュエーションを気にせず、必要な金額を出せる金額出してくれることが多いのですが、投資を本業としているベンチャーキャピタルに代表されるプロ投資家はバリュエーションを気にする傾向があります。

これは当たり前ですが、ベンチャーキャピタル側も裏には出資してくれる投資家がいて、決まった期限でリターンをもたらさなければならないからです。
一般的にベンチャーキャピタルはM&Aや株式上場で投資した金額より高い金額で株式を売却し、差額を儲けとするビジネスをしています。
出資時点でバリュエーションが高いと、株式発を売却する際に差額が小さくなったり、下手をすれば値下りして損をすることもあります。企業の早い段階でリスクをとって投資するので、なるべく低いバリュエーションで投資したいという意図があるのです。

ちなみに、バリュエーションのほかに、投資家にとっての損失のリスクを下げるため様々な条項を投資契約に盛り込むこともありますが、またの機会にいたします。

いずれにせよ、ベンチャーキャピタルに出資依頼をするときは、安く取得したいという思惑の中で交渉することが多くなります。

また、最近よく聞くCVC、コーポレートベンチャーキャピタル、いわゆる大企業やメガベンチャーなどが自社の事業戦略上で設立するベンチャーキャピタルなどとの交渉もありますが、傾向としてはバリュエーションというより、自社との事業シナジーに重点を置き、よりシェアや投資条件についての交渉が多いです。

このような投資家の思惑でバリュエーションやシェアが決まってくることが多いですが、ある程度の相場もあります。

そもそも、バリュエーションは思惑とは別に、体系化された手法で論理的に算出がある程度可能です。資本政策では、上場までの事業計画から上場時の予想バリュエーションを算出するなどして、算出された理論的な価値をバリュエーション交渉の出発点にすることもあります。殆どのプロ投資家はこの算出をしていますが、自社でも事業計画と資本政策をリンクさせて考えておく必要があります。

このように、思惑、企業ステージごとの相場、理論価値などを双方で話し合いながら、最適なバリュエーションを探っていくことが肝要です。

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以上、ベンチャー企業の資金調達にかかる資本政策において、権利(シェア)、必要資金、バリュエーションの方針を自社なりに決め、各投資家とこの変数について交渉するということをまとめました。

これ以外にも多くの重要な論点がありますが、別の機会に譲るとし、ここでは初めて資本政策について考えるきっかけにしていたぢければ幸いです。

繰り返しになりますが、資本政策は一度動き出すともとに戻しにくいので、ぜひプロの方や経験者の方に話を聞いて進めていただければと思います。


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