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日常の記 2020817-0823

● ○ ● 8月17日 ○ ● ○ ● ○

父の命日。一年経った。去年の暑さはどのくらいだったかな。今年は夏が来たのは早かったものの、夏が辛過ぎて外に出られない。一周忌の墓参りに行きたかったがコロナということもあり、周囲の目に気を遣う母から来るなとの連絡があり、父の墓を参ることはできなかった。「西の空に向かいお父さんを偲んで下さい」と母からLINE。まあ、その通りなんだけど、母のこういうエモさが苦手だ。
午後、ミーティング。小さなグループなのにこんなにもコミュニケーションができないのは何でなんだろう。何故こんなに形式的に物事を進めなきゃいけないんだろう。何事もぶっちゃけて話をするのがいいことだとは思わないけど、少ない人数のよさが活かされてない。どうにかできないものか。

● ○ ● 8月18日  ○ ● ○ ● ○

久々の外出だ。午前中家で仕事をして、午後アルテックのストアへ。家具デザイナーのジャン・プルーヴェのドキュメンタリーフィルム『勇気ある反抗者 Le courage rebelle』の上映だ。正直、あんまり金属家具に興味がないのでちょっとカッコよさが過ぎるジャン・プルーヴェの家具はあんまりきちんと追っていなかった。わりと男性に好かれるデザインなのかなあと思うくらいで。しかも、多くのインテリア好きがプルーヴェ(語尾が上がる)プルーヴェうるさいよくらいに思っていた。彼が手掛けた木製の「スタンダードチェア」の発売を記念して、動画にメーカーが日本語字幕をつけたという。字幕がないのはこちらで見られる。
https://www.dailymotion.com/video/x177lrp

金属をよく用いていたのは、もともと金工の職人としての経験があったからなのだということや、彼が工場の経営者として非常に優れていた点(職人たちと同じくらいの給料しかもらわなかったという)、そして戦争に反対し続けレジスタンス活動をし続けたという点、カッコいい人だなと思った。また、そこでレジスタンス三人衆(プルーヴェ、シャルロット・ペリアン、ピエール・ジャンヌレ)の話に触れられていたけど、その話も知りたいなと思った。

その後、ユトレヒトにミヤギフトシくんの展示を見に立ち寄って、一瞬心は沖縄へ。そのままバウハウス映画祭のBプログラム『バウハウスと女性たち』を観に行く。忙しいな。さすがに間に合わなさそうだったのでタクシーをつかまえたが、明治通りを抜けるときに宮下公園が見えて、気分が萎えた。公園っていうのは、誰もが集える場所なのにホームレスや若者を排斥して高級ブランドを入れた商業施設には、屈強なガードマンが常駐しており入る人を選別しているのだと最近Twitterで読んだ。少し前だったら、新しいもの見学に行っていたかもしれないが、もう無自覚な自分には戻れない。そんな場所には行きたくない。『バウハウスと女性たち』は予想以上に面白かったし、観ていて辛かった。昔の女性たちがどれだけ教育の機会や創作の機会を逃していたのだろうと考えると、もう。でも、それをしっかり受け止めて、きちんとドキュメンタリー映像に残しているだけ進歩しているんじゃないかなとも思った。バウハウスの青春ドラマがドイツにあるらしいから、ぜひ観たい。

で、映画館から出たらスマホに着信が。保育園からだった。急いでかけなおすと、子が熱を出していたらしい。夫は今日は仕事忙しいと言っていたが、お迎え行ってくれたみたいだ。少し映画について考えながらお茶でもしたいと思っていたが、無理。急いで帰宅。しかし子は、熱のせいかやたらとテンションが高く、食欲もあり元気であった。よかった。

● ○ ●  8月19日  ○ ● ○ ● ○

子が保育園休みなので、仕事にならないとわかっていたからもう一日子に捧げようと、朝、心に決めた。朝いちばんで小児科に電話をすると、ネットから予約をして、その時間にかかわらず10時に来てくれと。ついでに、私の目に赤いものもらいのようなものが出来たから、目医者にも行った。午後一本打ち合わせがあったが、最初は昼寝していたのでお腹に抱えながら話をしていたら途中で起きて乱入。ほのぼのハプニング。目医者で赤いポチに針を刺してウミを出した(死ぬほど痛かった)。目の痛さって他の部位の痛さと比べ物にならないくらい痛いと思う。脳が近いからかな。目薬と目軟膏をつけるので、視界はぼやけるし、目の赤ポチが腫れてたこともあり視界は半分になるし、それで目を閉じようとすると眠くなるし。何にもやる気が起きなかったので、ネットフリックスの『椿の咲く頃に』を観進める。ほーんとこういう時に観るのにちょうどいいんだな、韓国ドラマは。最初は長くて観る気になれなかったけど、だんだん大げさな演技にも、わかりやすいギャグにも慣れてきて、脇役のおばちゃん、おじちゃんたちに親しみが沸いてきた。1編のドラマが長いので人間の描き方も深い、1本の映画を観るよりも遥かに多い情報量がそれぞれの人物に対して得られるから、そりゃあハマるわ。恋愛(だけしか起こらない)ドラマがあんまり得意ではないんだけど、椿は裏側に「母子」の大きな物語が、しかもそれぞれの登場人物の背後にどーんと広がっており、普通の顔をして生きてる人たちも、それぞれに何かを抱えていて、それでも生きてるんだなーと思わせる。結局、主人公のドンベクは自分を捨てたはずの実の母と再会し、空いた時間の埋め合わせも徐々に行い、命の危機を乗り越えて、しかも自分は遺伝の病気になっていないという強運を発動して、彼ともうまく行って幕を閉じた。血縁が濃すぎるなあと思うところがあったが、さらりと観るくらいだったら、まあいいのか。結局仕事は1ミリもできない一日であった。

● ○ ●  8月20日  ○ ● ○ ● ○

子は元気はつらつで保育園へ。朝から表参道でお茶の取材。最近は少しずつ対面での取材も増えてきた。でも気にする人としない人での差はけっこうありそうな気がするけど。早めに終わったので、buikでランチボックスを夫の分も買って帰ることにした。小さいなと思ったが、中を開けて見ると4、5種類のサラダと穀物とキッシュが入っており、結局一人じゃ食べられなかった。なんだかのどが痛い。引き続き目にも軟膏を塗ってるので、見えにくいし眠いし。

● ○ ●  8月21日  ○ ● ○ ● ○

完全に風邪を移されたようだ。熱はなさそうだけれど、胃腸の具合が悪くて何も食べる気がしない。最近、冷たい紅茶や番茶を沸かして冷蔵庫に入れておいて飲むのが好きで、調子に乗って冷たいものをたくさん飲み過んでたからな。昼過ぎまで寝込む。夕方、丸の内に展示のオープニングへ。有楽町のCADANにも立ち寄ることができた。60年代から現在までの現代美術作家の作品が織り交ぜられ「summer time blues」というテーマでくくられた展示。夏の刺すような光で作品が見られてよかったな。ああいう展示はいい。小さな空間で、一人のキュレーターによって考え抜かれた、隅々まで行き届いたキュレーション。完全に好みの問題なんだろうけど、いろんな人の思惑やしがらみが絡んだ展示は、本質的に何を見たらいいのか、どこを見たらいいのかがもやっとしてしまうのだ。どの展示ってことじゃないんだけど。いいことをしているかもしれないけど、それで心を揺さぶられるのか?と疑問符がついてしまう。このもやっと感は、いつか言葉にできるんだろうか。と考えながら東京駅まで歩いた。街路樹と街路樹の間に伝わったパイプからときおりピューッとミストが吹き出ていて、道にはトラックで運んできたのであろう芝生が敷かれており、ベンチに座るサラリーマンたちはビジネスの話をしながらコーヒーやビールを飲んでいた。高級品店から派手な身なりの親子が出てきた。私もとてものどが乾いたので、ふと目に入った高級カカオ店でソフトクリームを買って歩きながら食べた。風邪のせいか暑さのせいか、頭がぼんやりしたまま帰った。

● ○ ●  8月22日  ○ ● ○ ● ○

子のプールは親が風邪を引いたのでお休み。無印良品から棚が届き、どこかからコーヒーメーカーが届き、ヨドバシカメラから電子ピアノが届いた。暑くて、風邪も引いていて、どこにも出かける気がしないので、黙々と開梱作業をし、棚を組み立て、部屋のレイアウトを検討し、配置替えを行った。何を食べたのかも忘れてしまった。夕方、丸の内線がよく見える階段まで散歩に行く。いつの間にか、子は小走りするようになっていた。『2gather』の3話を見る。特に誘ったわけでもないのだけど、夫も一緒に見てやいのやいのドラマにつっこむようになった。

● ○ ●  8月23日  ○ ● ○ ● ○

新日曜美術館に女優の奥貫薫さんが出演した。『あるがままのアート』展の特集だ。一つの展覧会に、最初りゅうちぇるが出て、次に奥貫さん、そして司会の小野正嗣さん、あともう一人くらい出てた気がするんだけど、ちょっと出演者が多すぎなんじゃ、と。展覧会は作品数も多いし、面白そうなので、すぐに予約をする。

芸大美術館の陳列館に『彼女たちは歌う』という展覧会を見に行く、11人の女性アーティストによる、なんらかの「境界」を扱う展覧会だ。それはジェンダーのことだけではなく、国境、人間と動物、家族など様々な境界をどう乗り越えたり、すり抜けたりして、コミュニケーションを図ることが可能かということがテーマになっていた。まあ、境界って言ってしまったら、ほぼ誰もが扱うテーマなんだと思うので、さして珍しくもないが、それが女性キュレーターで女性作家のみの展示として行われたのは、重要なことなんだろう。盛るタイプの作家と引くタイプの作家がいるなあと思いながら作品を見た。言いたいことを全部出すか、極力出さないで想像させるか。好みとしては後者なんだけど、やっぱり前者の方が世の中からの注目は集まりやすい。

帰宅したらSNSのタイムラインは卵子凍結、代理出産問題で持ち切りだった。尊厳死の問題もそうだけど、どこかで誰かビジネスを始める人がいて、そのしわ寄せがくるのは絶対的に弱者だ。

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