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マチルド、翼を広げ

9歳の少女と情緒不安定な母親が織りなすパリ産ファンタジードラマ。
画面の色使いや構図がいちいちオシャレだし、音楽もポップだし女の子も可愛いしでほんわかした子ども映画…
と表裏一体の存在となる、母親という存在。

いつだって娘を愛し我が子を肯定する、世に言う毒親とは全く異なる母親、しかし彼女は精神を患っており、社会生活には耐えられない体だった。
愛という絆で結ばれた親子は共同生活を続けるが、母親の突拍子も無い行動は意図せず娘の生活を縛って行くことになる…

母娘の楽しい生活の中でも、純粋な「愛」が「呪い」に成り代る様は観ていて苦しいものがあった。2人の生活は娘が望んだものだから尚更。
愛と自由との板挟みになった彼女の心は、フクロウを通してもう一人の自分と対話させる。
なんともファンタジックでポップな演出だ。

しかし自分が一番涙してしまったのは、母親が病院に入院すると決心した時の、夫との最後の抱擁。
最愛の人の変わり行く姿に耐えかね、しかし今でも愛し続けている夫のなんとも切ない表情と別れを前に涙が止まらなくなってしまった。
もしも自分の最愛の人が同じ症状に見舞われたら…僕ら夫婦はどんな決断を下せるだろう?

人生は幸せばかりじゃないが、楽しんで生きる前向きな心を9歳の少女から教えてもらえる映画だ。
鑑賞後に監督の私小説的作品だと知ったんだけど、子ども映画としてますます「悲しみに、こんにちは」と表裏もなる作品なのだね。
ジョン・エヴァレット・ミレーのオフィーリアを模したビジュアルが何度も繰り返されるが、呪いが解けて真実を取り戻した最後のカットに、本当に力づけられる。

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