見出し画像

女王陛下のお気に入り

ギリシャから生まれたブラックコメディ

ミニシアターから始まった日本デビュー作から劇場で観続けてきて、とうとうアカデミーの賞レースにも加わる世界最前線の人物になっちまった、しかも最新作が一番最高傑作!!なんて監督が2人いて、1人がブレードランナー2049のドゥニ・ヴィルヌーヴ。
もう1人がこの女王陛下のお気に入りの、ヨルゴス・ランティモス監督だ。

もうこの作品はすべてが完璧に好きすぎてて手に負えないほどなんだが、冒頭から
・目の前で自慰を見せつけられるエマストーン
・その後に突き飛ばされて肥溜めにダイブさせられるエマストーン
と言うハイテンポなブラックユーモアぶりでもうこれは絶対好きな作品だと言うことを確信。
前作の鹿殺しはラスト以外こう言う笑いが足りなかったんだよ。
ヨルゴス監督はゴダールやウディアレンを忠実に踏襲したシュールギャグの後継者だから!

壮大で甘美なクラシックと中世ゴシック美術のマリアージュに対抗するは、不協和音が鳴り止まぬ、女と女の底意地の悪さが生み出す不愉快さ。そこに割って入るのが露骨な性描写に一切配慮がないシュールギャグという、美・陰・笑の三国志特盛状態。
この内容を女3人の演技合戦だけにピントを当てることで本筋は一切ブレなく中弛みなく楽しめるなんて、こりゃ敵いませんわ、、

特盛なのは我らがエマ・ストーン、出演作ごとに過去最高のエマ・ストーンを更新する彼女の新記録はまたも達成され、彼女を虐めたい方も虐められたい方も全方位の性癖をカバーするスペシャル版になっています。
グレタ・ガーウィグ監督作への出演をキャンセルしたのも分かる程、彼女の演技は楽しんでるし滅茶苦茶役に入り込んでいるのも分かる
エマ・ストーンの手●キとおっぱいが拝めるのは本作だけ!(ただしシュールギャグ)

そしてヨルゴス作品ならではの陰鬱な余韻を残すラストも勿論健在。
女王とその侍女という絶対的な服従関係と、女王の子どもと同じ数だけ揃えられたウサギ達。
ラストの後に仄めかされるのは、アビゲイルの復讐か、ウサギ達の報復か…
ロブスターの時よりも解釈は複数あり、難解なので鑑賞後も思考する楽しみが増えたとも言えます。

孤独と向き合うこと

この作品から伝わるのは国境や言語の壁を越えるナンセンスギャグの懐の深さだけではなく、人が抱える孤独について。
女王の孤独感をどう埋めるかがこの映画のキーポイントとなっていますが、それは僕ら観客一人一人も同じで、避けられない孤独についてどう向き合うかが人生とも思えます。

女王アンは絶大な国家権力を一人で支配するが国にも戦争の行く末にも興味はなく、17人の子どもを失った我が身を嘆きながら、涙に溺れる日々の孤独を紛らわせてくれる人ばかり求めている。

女王の幼馴染のサラには棘があるが嘘はない。夫と自分の利益のためには女王と夜を共にし、手なづけ、戦争を推進させる。「嘘をつかないことこそが愛よ」と叫んだ彼女の言葉は虚しくアビゲイルの策略によって露と化すが、国を追われた彼女の傍には信頼する夫の姿がいた。彼との関係にもまた嘘がないことは想像に容易い。

没落貴族からのリベンジマッチを夢見るアビゲイルが見る世界には、嘘と野望しか存在しない。金と貴族的な生活のためには男にも女にも媚びまくり、泣きまくり、身体を利用することも厭わず(主に殴られる方)、策謀しまくる。
しかし彼女が最後に手にしたのは、情緒不安定な女王陛下の「お気に入り」に過ぎない保護の下で得た地位と生活だけ。本当に信頼できる人がいない孤独な彼女の今後を脅かすのは、サラの影ではなく、女王という絶対的な存在そのものなのだ。

サラとアビゲイルの最後の会話、
「勝ったと思っているのね」
「違ったの?」
「求めているものが違う」
と言うやりとりが効いてくる。アビゲイルが求めていたものは権力者の庇護で、サラは自活した人生を、その為には国家権力の乗っ取りすら厭わなかったのかもしれない。

人生の目的とはなにか?
それによって、人の一時一時の立場が勝ち組か負け組か変わってくる。
物語が終幕を迎えた時、本当に勝利したのは3人のうち誰なのだろう?
いや、人生に本当に勝ち組負け組なんて存在するのだろうか。すべての物事は相対的だ。

どうせ短い人生、すべてが流れ行く中で、せめて人生の目的を、生きた証を立てたいと言うのなら、やはり人との繋がりを残していきたいかなあ。
そう言う意味では3人の中ではサラの「嘘のない」ことで他人との信頼を保つ人生とは、違う誰かと人生を共に歩むことで孤独に打ち勝つ、かけがえのない財産を手にしていることになるのもかもしれない。
それこそ相対的にマシってだけで3人の人生はどれもイヤだけど。笑

今年は劇場でほとんど映画を観れなさそうだけど、こんなに愛しい映画を観られたらもうこの1本で相当お腹いっぱいだな!
新作映画では本当に2049以来に大好きな映画となり、この両監督の作品をすべて観てきた身としては感動でいっぱいです。
出来たらリピートもしたいです!

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?