ファイアーエムブレム 風花雪月 感想

黒鷲の学級、帝国ルートをクリアしました。プレイ時間は55時間ほど。
プレイ済FEは紋章、聖戦、GBA3部。FEHもガッツリ。聖戦愛。覚醒をハードごと買って10時間で投げた前科あり。そんな人間が感想を述べていきます。

■素晴らしい点

・歴史が育む圧倒的な没入感

月跨ぎのナレーションと、図書館に眠る(特に全部読む必要はない)膨大な歴史資料の数々。もうこれだけで、歴史萌え設定厨には神ゲーだと分かる。
知らなくても生きられる余白が、この世の中には溢れている。日本の歴史も世界中の歴史も、そのすべての過去を知ることがなくても、生きていくことに不足はない。
だけど今日は昨日になる。直接目の当たりにすることはなくても、知られることがなくても、今を生きる現代人にとっては余白であっても、先人達の歩みは確かにあった。
その余白をあえて知ろうとすることは、ゆとりがあり、贅沢なことだ。国の歴史が残っていて、それを学べるということは贅沢なことである。
その贅沢さを、風花雪月では創作の歴史で埋めてしまった。これは凄いことだ。
セスリーンだのブリギットだの◯◯の会戦だの◯◯家の歴史がどうだだの、SRPGをやる分には知らなくても全く支障はない。
しかし登場人物達が皆この歴史を前提とした会話や展開を繰り広げてくれることで、プレイヤーもこの歴史を自ら知ろうとすることで、説得力が、没入感が違ってくる。
知らなくても支障のない余白を知ることで、楽しみが増す。なんて豊かなゲームだろう。歴史を語らせたらさすがのコエテク力だと言わざるをえない。


・めんどくさく愛らしい人物達

フェーが荒稼ぎした資金力がここまでのフルボイスを作らせた…とは冗談まじりで語られるが、とにかく登場人物達の描写がハンパでなく細かい。
人物達の心が何を思い、信念がどこへ突き動かすかを圧倒的な量のテキストが語り尽くしてくれる。
ストーリー中や散策中の会話にはじまり、支援会話や食事に課題中などあらゆるサブイベントで豊富に用意された会話の中で、20を超える人物達が多様なシチュエーションに合わせて多様な感じ方や意見を見せてくれるのだ。
彼らと四六時中顔を合わせていると、時には矛盾した価値観を口にすることもあるだろう。しかしそれこそが真に生々しい人間らしさだと思っていて。人は、時には矛盾したり結果的に嘘を言うこともあるだろう。でも本人としては決して矛盾していない、誰しも複雑な信念を胸に抱いているし、そもそも現実世界においてら他人の考えていることが100%分かる人間なんているだろうか?
他人の反応や会話が予測できるとしたら、それは安易なキャラ付けをされた創作キャラクターぐらいのものだろう。
風花雪月の登場人物達にはそれがない。皆等しく嘘つきで、皆等しく隠し事をしていて、皆等しくめんどくさくて、だからこそ皆等しく愛らしい。
その一方で、散策中にしきりに話しかけ支援レベルを上げて、彼らのめんどくささと愛らしさをある程度解釈できてくると、お茶会でパーフェクトを取りやすくなるというのがいかにもゲームらしくて好きだ。
しかし通常の散策や支援会話はともかく、2部ではスカウト先により会話が全部変化するし、食事やグループ課題では一定の組み合わせが、しかも支援レベルにより都度変化するって…更には支援会話が他者の支援レベルの進行具合により変化することがあるって…
素晴らしいを通り越して怖いよ。気が狂ってるよ。何がコエテクをそこまで突き動かすのだ。。


・3(4)ルート全部周回できるんだけど…

風花雪月は素晴らしいんだけどやっぱりゲームなので、現実とは違って時間を巻き戻して異なる選択を、複数の人生を味わうことが出来る。
3(教会を含めると4)ルート、それぞれでボヤかしてる点もあるし視点も全く異なるから、全ルート回収して謎を解き明かしてね☆
っていうことなんだけど、1週目の途中から薄々と、いや実は最初から気付いていた事実がある。
どれだけ周回を重ね、どれだけ真実を知っても、最初に選んだ選択(クラス)を否定することは決してできなくないか。
そりゃ、エーデルガルトは戦犯だよ?自分も紋章の被害者とは言え勢いで国中を戦火にした張本人だし、侵略先のみならず自国民の犠牲も厭わないし、大義名分を掲げながら明らかに物騒な連中である闇うごとはズブズブだし、1部の騒動のほぼすべてを知っていてそれを他クラスどころか仲間にも師にも黙っているし、と言うか序章から他級長を暗殺にかかってるし、親父殿が死んだの半分こいつのせいだし…

でも黒鷲を選んで、エーデルガルトの野望を、悩みを、信念を、覇道を進む確固たる理由と覚悟とを一番近くで見知ってしまうと、とてもあそこで『エーデルガルトを斬る』なんて選択はできるものではないし、この先青や黄を選んで赤では描かれなかった彼女の残虐性が、醜悪な部分がいかに異なった視点で目の当たりにしようとも、どうしても彼女の肩を持ち、哀れみを禁じ得ないのは変わらないだろう。
もう既に、青や黄ルートやらずにもう一度黒鷲の皆と仲良くやりたい気持ちでいっぱいだしね。そういうゲームなんだ…。

・強く儚い者たち

最初に青や黄を選んでいたとしても同じように、最初の選択が2週目以降の思い入れを上回ることは決してなかったように思う。
最初の印象に肩入れしすぎてしまうこと…人の情とは美しくもあり、同時に人を破滅に導くものだと思っていて。

ネットでは『極悪人』と囁かれる人物が私刑の対象になっている。SNSで叩きが流行っているのを見ただけで、顔は晒されているけれどリアルでは見たことも当然会話したこともない。いいや暇つぶしに周りに乗っかって叩いちゃえ。
ところがその『極悪人』とリアルに知り合いだったらどうだろう。共に笑い合った時間があったとしたら?人に言えぬ悩みを打ち明けられた時間を共有していたとしたら?その『極悪人』が噂に留まらず、本当に罪深いことを実行した罪人だとしたら………
それでも実際に同じ時を過ごした人間だったら、擁護してしまうこともあるかもしれない。「どうしてこんなことを…」と苦悩してしまうかもしれない。
これが風花雪月において、黒鷲(帝国ルート)を、エーデルガルトを選ぶということなんだと思っている。

帝国ルートを選んでも尚、ハッキリ言ってエーデルガルトは人でなしだ。しかし野望と信念とが底知れぬ魅力となって他人を惹きつける。
その人でなしの大戦犯相手にさえ、刷り込みに近い情を持って接し、寄り添えるという「情」ってやつは…人間にとって、救いとなるのか、破滅への道連れになるのか。

人は強いものよ そして 儚いもの

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