別にフードファイトに興じているわけじゃない
男たるもの大食いで早食いであるべきだ。
僕はこの信念をずっと掲げている。
食べ物なんかいっぱいの量を早く食べた方が絶対にかっこいい。
出されたものをちんたらとちまちま食べる男に何が護れるというのだろうか。
そんなやつは有事の際、自分の身を最優先に考え、大事な人を置いて逃げるちんけな野郎に違いない。
そりゃ人それぞれ胃のキャパシティは決まっていて多くの量を食べれない人もいるだろう。
正直ぼくだって169cmの53kgで胃のキャパだけでいえば少食な方だと思う。
だが、これは胃のキャパどうこうの話ではないのだ。
ここぞというときに食べなければならないときがやってくる、そのときに備えて普段から意識して食べることが大切なのだ。
例えば、彼女とご飯に行ったときに、彼女から「、、もうお腹いっぱい、、私の分たべれる?」と言われて「いや、俺ももうきついから無理」と返す軟弱者なお前に何が護れるというのだろうか。
お前は彼女が人質にとられて助けを求めてきても「ごめん、俺こわいから無理」とでも言うのか。
有事の際に身を挺すのが男だろ馬鹿者、そんなやつは女と付き合うなと至近距離で怒鳴ってやりたいものだ。
例えば、人気のお店に入って外に大量の列ができたとする。
しかもその日は真夏で列に屋根などはなく、たくさんの人を過酷な環境で待たせている状態だ。
そんなときにちんたらゆっくり味わって食べているお前に何が護れるというのだろうか。
お前はやっぱりまわりの人よりも自分のことしか考えていない愚か者だ、お前は街で痴漢を見つけても見て見ぬふりをするに違いない、その腐った根性を叩き直してやると胸ぐらを掴んで言ってやりたいものだ。
例えば、友達の実家に行ったときに、友達のお母さんが息子の友達が来てくれたことに大喜びし、とんでもない量のご飯を用意してくれたとする。
ここでお腹が空いていないからと、あまり美味しくなさそうに食べて料理を残すお前に何が護れるというのだろうか。
人の愛と喜びを仇で返すような輩は、自分に都合が悪くなればすぐに人を裏切るろくでなしに違いない。
その挙げ句、嘘に嘘を重ねてどんどんまわりから人がいなくなっていく典型的なクズ野郎だ、お前なんか一度頭を丸めて滝行にでも行って何かを悟ってこいと強く言ってやりたいものだ。
とにかく、男たるもの大食いで早食いであるべきなのだ。
少し大袈裟だと思うかもしれないが、僕は本気でそう思っている。
そして、このことに賛同してくれる男がひとり、僕の同期にいる。
それがこいつ。
どうですか?
見るからに食べなさそうでしょ?
168cmの49kgですよ?
ガリガリもガリガリでしょ?
どんだけガリガリかというと中2男子の平均が159.8cmの48.8kgですよ?やばいでしょ?
こいつがバクバクたくさん食べていたら胃のキャパがどうとか言ってられないでしょ?ねえ?
もちろんこの男も本当は少食の部類だ。
別に生まれ持って大食いの才があるわけではない。
だが、この男はここぞというときは限界を超えて食べる。
そして、僕と同じくらい食べるのが早い。
僕はこのガリガリおかっぱ同期と一風堂で替え玉を5回したことがある。
替え玉5回ということはラーメン6杯ということだ。
僕たちは、気合いと根性さえあれば胃袋なんか何倍にも膨らませれることをそのとき証明したのだ。
そして先日のこと、このガリガリおかっぱとその場の流れでたまたまお昼ご飯に行くことになった。
その場の流れだとしても、僕とガリガリおかっぱが揃えば普通の会食も大会食と化すのが恒例行事。
僕たちの他に同期が2人いたのだが、その同期たちもこの恒例行事に付き合わされるはめになった。
僕たちはびっくりドンキーへ行き、ハンバーグLサイズ(300g)とサラダとご飯大盛りのディッシュ、そして別皿でご飯の普通盛りを頼んだ。
合計で約1500kカロリーあるそれらを僕とガリガリおかっぱは5分たらずでぺろっと平らげたのだが、他の2人は苦しそうな表情を浮かべていた。
巨漢パチンカス同期と低身長スケベ同期が目の前できつそうに食べている。
いやそりゃ僕たちだってきつい、1500kカロリーってビッグマック3つ分やもん、きついよそりゃ、きついけどそれを表情にだしてしまったら終わりだ。
だって彼女が人質にとられているときに助けながら嫌そうな表情を浮かべるのか?
それと同じことをやっていると言っても過言ではないのだ。
巨漢パチンカスの方は僕たちより5分ほど遅れて見事、完食。
遅れた言い訳は「体調が悪い」だった。
それから20分ほど遅れて低身長スケベも見事、完食。
遅れた言い訳は「量が多い」だった。
その日はそれで解散し、僕は別の後輩と飲みに行った。
そして次の日の昼頃、僕は女の子とこじんまりした定食屋さんにいた。
二日酔いだしまだ昨日のびっくりドンキーも腹に残っているしで1mもお腹は空いていなかったのだが、まあ何か軽いものを適当につまめればいいやという軽い気持ちで僕はそこにいた。
だが、定食屋に軽くつまめるような代物は当然なく、普通にしょうが焼き定食を頼んだ。
すると、届いた定食のご飯が山々盛りすぎて、僕は全身の身震いが止まらなくなった。
だが、前述の通りきつそうな表情を浮かべては終わりなので、僕は余裕綽々なフリをしながら5分ほどでペロッと平らげた。
ここで別のお客さんがお店へ入ろうとしてきた。
すると店のマスターが「もうご飯終わったから!いま炊いているとこだから!ごめんね!ノーライスノーライス!」と言ってお客さんを断っていた。
女の子の方を見ると、まだ半分ほど定食が残っていた。
何も言わず黙々と食べる彼女からは、口には出さないが僕たちの分でご飯が最後になりお客さんが入店を断られたことによって、もう米一粒も残せないという思いが感じられた。
ほんとはめっちゃきついんやろなあ、がんばっとるなあと、のほほんと眺めていると「、、もう無理、、」と彼女が上目遣いで僕に言ってきた。
( はいきた有事の際〜!!)
定食はまだ1/3ほど残っている。
だが、有事の際には身を挺して護るのが男の役目。
例にもれなく僕は余裕綽々で彼女の定食を食べてあげた。
彼女の言い訳は「本気じゃなかった」だった。
そして次の日の朝、僕は夜勤明けでそのまま病院に行かなければならなかった。
全くお腹は空いていなかったが、病院の時間まで少し時間を潰そうと、駅前の松屋に入った。
あくまで時間を潰すのが目的なので、1番安い朝定食を頼もうとした。
だが、松屋の朝定食は小盛り・並盛り・大盛り・特盛りが同じ値段なので、僕は特盛りを選択した。
値段が変わらないのに特盛りをいかないなんて、そんな軟弱者に成り下がりたくないのだ。
お腹が空いていないからと言って並盛りを頼むようなやつに何が護れるというのだろうか。
僕は昨日の山山々盛り定食がお腹に残ったまま、朝から特盛り定食をしばきあげた。
そして次の日、僕はお昼ご飯で巨漢パチンカス同期とラーメン屋にいた。
ラーメン屋で並んでいるときに巨漢パチンカスが「あんなやつにも彼女がいて俺にいないのはおかしい」と、カップルで来ていた客を見ながら言っていた。
そして僕たちはラーメンの大盛りと替え玉と牛丼を頼んだ。
外を見ると10組ほどの列ができており、みんな辛そうな表情をしていた。
( はいきた有事の際〜!!)
こんなときは爆速で食べて早く外の人を中に入れてあげなければならない。
僕たちは生卵2つと海苔をさらにトッピングして、これらを5分ほどでペロッと平らげて誰よりも早く席を立った。
店を出る際、先ほどのカップルは僕たちより早く入っていたのにも関わらずまだちんたらと食べており、男の方はまだラーメンが半分くらい残っていた。
たしかにこんなやつに彼女がいて巨漢パチンカスにいないのはおかしい、お前に何が護れるというのだろうか、横の彼女すら護れないだろと、ひとりで思いながら店を出た。
僕たちは別にフードファイトに興じているわけじゃない。
早く食べて大く食べることを楽しんでいるわけじゃない。
護りたいものを護るために、男を磨いているだけなのだ。
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