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政策のためのプロトタイピング by Camilla Buchanan

この記事は、Camilla Buchananによる「Prototyping for policy」の日本語訳です。Open Government Licenseの下に提供されています。

Prototyping for Policy(政策のためのプロトタイピング)」とは、2018年11月にThe Legal Design Labがスタンフォード大学d.Schoolで開催したカンファレンスの名称です。弁護士、政策立案者、技術者、デザイナーが集まり、戦略とデザインの世界がどのように出会うべきかについて、さまざまな側面から検討するというものでした。

「政策のためのプロトタイピング」の参加者の様子

プロトタイピングは、プロダクトデザインやインダストリアルデザインのプロセスにおいては一般的なものですが、サービスデザインなどの目に見えないデザインの分野にも応用されています。プロトタイプとは、アイデアやソリューションの解像度の低いモックアップであり、実装前にテストを可能にするものです。プロダクトであれば、ダンボールで作ったものをテストできます。ウェブサイトであれば、手描きのワイヤーフレームでテストできます。サービスのインタラクションは、ロールプレイでテストできます。

以下のエスプレッソメーカーのコンセプトスケッチとモデルは、インダストリアルデザインのプロトタイプの典型的な例です。

Aldo RossiによるAlessiのLa Cupolaエスプレッソメーカーのスケッチ
Aldo RossiによるAlessiのLa Cupolaエスプレッソメーカーの木製プロトタイプ
Aldo RossiによるAlessiのLa Cupolaエスプレッソメーカー

政策はプロダクトよりもあいまいな概念であり、今後の方向性を示すメッセージや声明を意味しています。政策声明が出される前に、何らかの形で戦略会議が開かれます。政府においては、通常は大臣や政党のレベルで開催されるため、部外者が立ち入る余地はありません。選ばれた役人が作る政策は、高レベルの声明(マニフェストに含まれる1〜2行程度のもの)であり、スピーチやホワイトペーパーなどの政策文書として提示されます。

政策声明とは、目標を示し、法律・政策プログラム・その他の活動を通じて、その目標の実現に向けて動き出すためのものです。短い政策声明が政府の長期的な政策プログラムを決定することもあります。政策プログラムには定義すべき独自の問題空間があり、政策目標を実際の活動に変換するために、やるべきことが数多くあります。意識的であろうとなかろうと、政策プログラムは何百万人もの生活に影響を及ぼします。お粗末な政策が意図しない結果や衝突を生み出せば、非常に有害なものとなります。政策目標を事前にテストできれば、そのメリットは非常に大きなものとなるでしょう。

デザインと政策立案を結びつける考えは、過去5年間で探求されてきました。このテーマに関する最初の書籍は2014年に出版されました。政府の観点からすれば、このような内容は非常に新しいものであり、現在の説明ではまだ不十分なところがありました。「政策のためのプロトタイピング」の開催により、こうした探求をよりよくするための場が生み出されました。

カンファレンスで検討された課題のひとつに、政策のプロトタイプをどのように定義するかというものがありました。

デザインの「物理的な作成」が、政府にとってどれだけ/なぜ重要なのかを正確に説明することは、まだ始まったばかりです。しかしながら、ほとんどのデザイナーがそのことを強調するでしょう。実際のものを作ることの利点は、運用上のエラーが明らかになることです。また、プロトタイプによってアイデアが明確になるため、アイデアの合意を得たり、アイデアの不十分な点を明らかにすることが可能となります。また、これは質問をするための手段でもあり、プロトタイプの存在によって幅広い課題に関する議論が促進されます。

政策のプロタイプは、政策目標の実現方法を実証するものとなります。たとえば、ベータ版のウェブサイトや新しい組織のビジネスモデルの草案を作ることになるでしょう。あるいは、目標を実現する第一歩として、最終ソリューションの上流工程において小さなものや明らかなものをテストすることもできます。プロトタイプによって、政策を現物のものとして見たり体験したりできます。ただし、プロトタイプのテストに関しては、なかなか受け入れにくいことですが、失敗に対する寛容が求められます。

例を挙げましょう。以下の写真は、バンクーバーのコンサルティング会社OpenRoadのサービスデザインチームのスタッフが、クライアントであるTransLink(カナダの公共交通機関)の運賃の変更のために作ったプロトタイプを検討しているところです。

OpenRoadによる運賃の変更のプロトタイプ

カンファレンスで出てきたもうひとつの課題は、これは私が長年考えてきたことでもありますが、デザイナーが政策プロセスのどこに関与すべきかというものです。

デザインと政策の仕事の大部分は、 政策目標が設定された状態で、政策をどのように実現するかにフォーカスしています。 ここで大きなインパクトを与えることができます。 政策立案においては、通常は最終形を事前に把握します。 大きな目標と求められる成果を政策声明として明文化するのです。 しかし、そうした意図と実際の行動を行き来するプロセスは不明瞭になりがちです。 政策目標を達成するというのは、暗闇のなかにいるようなものです。 デザインにはある程度のプロセスがあります。 通常は、アイデアをリサーチして、テストして、実装するという具体的な手順で構成されています。 つまり、内容の理解が乏しい政策問題に必要とされる構造と手法を提供できるのです。

2015年から2018年にかけて、私は英国政府インクルーシブ経済部の公務員として、さらに多くの慈善団体や社会事業が社会的投資にアクセスできるようにするという政策目標を達成するために、デザインの仕事を依頼しました。3年間、私の知る最高のデザイン会社のなかから、SnookThe Point PeopleDesign Councilと提携しました。Big Society CapitalAccess Foundationなどの関連セクターとパートナーを組み、社会的投資に関するデジタルプラットフォームGood Financeを立ち上げました。デザインを使ったことで、政策へのアクセス方法は大幅に改善されました。ですが、政策そのものを変えることはできませんでした。

社会的投資のためのデジタルプラットフォームの初期のコンセプトのプロトタイプ(SnookとThePoint Peopleが開発)

デザインが政策目標のテストに使用できないという意味ではありません。ですが、政治的な会議に参加することは現実的に不可能です。デザイナーは、政策の発表後であっても改善できるところにエネルギーを集中させる機会をうかがいながら戦術的に振る舞うか、個々の政治家と関係を築く必要があります。

デザインを政策実現の改善にのみ使用するべきという意味でもありません。2018年、私はParsons DESIS Labと一緒にリサーチプロジェクトを実施しました。それは、ニューヨークの政府デザイン部門がどのように成熟しているかを調査するものでした。私たちが話を聞いた方々の多くは、政府の戦略的・政治的な部分に関わりたいという強い願望を示しました。願望を持つことは間違いではありませんが、初期段階において何をすれば違いをもたらせるかについて、実践的な知識を持つ必要があります。

例を挙げましょう。数年前に私は、優秀なデザイナーが主導する政策プロジェクトに参加しました。そこでは、法律制定を変えるためのプロトタイプを作成しました。2年後、その成果は上書きされてしまいました。英国で情報自由法の改正があったためです。この仕事に価値がなかったというわけではありませんが、政治に詳しいデザイナーであれば、政策の状況の変化を予測できていたでしょう。もちろん政治に詳しくても、この法律制定プロジェクトのように回避できない場合もあります。

政府の外側から新しい政策を想像する人たちであれば、こうした状況は明らかに違ってくるでしょう。たとえば、慈善団体、シンクタンク、アドボカシー活動団体などです。あるいは、政府内であっても、英国政策研究所チームのように政策目標に影響を与えることができる機会を持っている人たちです。新しい政策の可能性を想像する余地があれば、プロトタイプを使ってアイデアを説明できます。新しい政策がどのように機能するかを具体的に示すことができれば、書式で推薦文を書いたりエビデンスを求めたりする政策会議よりも、政策に影響を与える強力な手段になるでしょう。また、政策のプロトタイプは、透明性を高め、参加を促すことができます。政府のプロセスに精通していない人たちは、大量の文書よりも具体的なものに取り組む方が簡単です。

民間賃貸セクターのプロトタイピング(Sanjanのブログより)
https://openpolicy.blog.gov.uk/2017/10/19/prototyping-for-the-private-rented-sector/

政策に関わるデザイナーが抱える課題がもうひとつあります。それは、自分たちの仕事によって、政策決定で考慮されていない現実や日々のフラストレーションが明らかになることです。デザイナーは他の公務員やサプライヤーと同様に、契約上の制約に縛られています。デザイナーに与えられているアクセスの限界を考えると、デザイナーからもっと強力な声を上げる必要があります。そのためには、政策チームやアドボカシー活動団体など、政府の内外のさまざまな場所にデザイナーが移動し、政府の政策に変化をもたらす人たちのエコシステムのなかで働く必要があります。デザイナーの可能性を提唱する活動は、政府にとっても悪いことではありません。なお、DESIS Labsの国際的ネットワークが作ったDemocracy and Design Platform(民主主義とデザインプラットフォーム)は、このことを意図的に行なっています。

最後になりますが、私が言いたいのは、プロトタイピングは政策目標の決定に使えないということではありません。むしろ大きな影響を与えることができるでしょう。ですが、現時点での政策デザインは、政策実現の改善にとどまっています。デザインの効果を高めるには、このことを明らかにしておく必要があります。

この記事は、@AndreaSiodmok@ChelseaMauldin@margarethagan@gordonr@desisparsons@garycazalet@JesperC_リチャード・ブキャナン教授との議論に影響を受けています。

政策のためのプロトタイピングについて詳しく知りたければ、 この記事#protopolicy参照してください。

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