せう問オブザイヤー2023


 2023年に高生が自作したクイズの中でお気に入りの問題を選びます。例によって候補が多すぎてナンバーワンを選べなかったので、お気に入りレベルが高い問題を15問挙げていきたいと思います。序列はありません。

 問題は『WidowMaker 2023 公式記録集』『赤、青、黄のコンポジション(院生短文王2023夏、大治との共著)』のどちらかから選ばれます。前者は題材の面白さを強く意識していて、特に美術館や映画鑑賞に行くというよりは家でダラダラYouTube見てるような面白さを提供しようと問題群を編んだので、これまでの既刊よりも多くの方に、より敷居なく楽しんでいただけると思います。後者は別に読まなくていいです。万一将来僕が有名になっても晒さないでください。


当然ですが、問題集のネタバレを含むので、まだ押してない/読んでない人は読み進めないことをお勧めします。多分、初手はクイズとして触れた方がおもしろいです。






 それでは、今年のせう問オブザイヤーを発表していきたいと思います。





あなたも絶対に知っている生物の中で、「小さなネズミ」という意味の「musculus」という種小名が付けられている動物は2種類います。1つは「Mus musculus」ことハツカネズミですが、もう1つの「Balaenoptera musculus」は何?

シロナガスクジラ

WMより。後者の命名者はあのリンネで、勘違いという説もあればジョークという説も


 これ好きですね~。当日は単独正解でした。ネズミではない有名動物が答えになる時点でもうそれなりに面白いのですが、「小さな」なのに世界一大きい動物が答えになるのが面白すぎます。命名者がリンネという裏話も面白くて、ちょっとシンプルにパワーが強すぎて隙が見つからないです。
 「絶対に知っている動物の中で」という前置きもわりと絶妙だと思っています。一応musculusは誰も知らない謎の貝とかにも付いている種小名なので、それらを考慮して問題文を構築する必要があるのですが、「絶対に知っている」という99.99…%正しい主観限定でそれらを弾くと同時に、「お前も絶対に知ってるぞオラ!」と提示することで、理系にアレルギーがある人、知らなくて諦めてしまった人にもコミュニケーションに参加してもらうことを期待しました。せっかく全員参加のボードクイズですし、わからない人を置き去りにしたくはありませんでした。
 WMは、「100人いて100人同意する主観ならそれは最高の限定」という思想のもと、こういう「ふんわり限定」を積極的に採用しています。その功罪は回を重ねると明らかになるところだと思いますが、今のところはメリットが大きいと考えています。うまくいかなかった例も当然あったので洗練させる必要はありますが…。



日本中がバブル景気で浮かれていた1990年にリリースされた、「なんでもかんでもみんな おどりをおどっているよ」と歌いだすB.B.クィーンズのヒットソングは何?

『おどるポンポコリン』

WMより


 「単体ではそこまで面白くない前フリで、単体ではそこまで面白くない後フリに意味を与えて一気に面白くする」という仕掛けを良い感じに実現できた問題です。誰でも知っているような答えなので、この仕掛けがより効果的に効いていると思います。
 WMはコンセプト上、それ単体でゲラゲラ笑えるジャンキーな前フリを採用した問題がどうしても多くなるのですが、この問題のように、字面としてはおしとやかながらも高火力な武器を隠し持った問題を今後積極的に作っていきたいものです。とは言いつつどうせまた陰謀論から何問も作ってしまうのですが…



TOTOの温水洗浄便座:ウォシュレットは、開発時に内部のICチップの漏電が課題になりました。TOTOは、水に濡れても動いている ある別の機械をヒントにこの課題をクリアしましたが、その身近な機械とは何だった?

信号機

WMより


 面白いのはもちろんのこと、「身近」とわざわざ入れて「考えたらなんとかなりそう」感を出したのもWMらしさだと考えています。WMは「そんなものがあるのは面白いけど名前知ってるわけない」みたいなレーゼクイズがわりとあって、それはそれで設計思想に殉じた結果生まれた問題ではあるのですが、やはり「答え(られ)ること」を介したコミュニケーションが少なすぎると会場の一体感が失われるので、こういう「(たとえ知らなくても)自分の到達範囲のどこかにある」と思わせられる問題を差し色的に出題しています。
 また、この問題の場合、多分多くの人が想像するところ(食洗機とか洗濯機とか)の斜め上に正解があるので、仮に解答者が出なかった場合でも、一回考えてもらうというプロセスによって答えの意外性が増幅されるという効果があるかもしれません。意外と「水」って言われて雨を想起する人は少なそう。



晩年は「画家の仕事を奪う」と危惧されたカメラに傾倒した、パリのワンシーンを見事に切り取った絵画『エトワール』や『ロンシャン競馬場』で知られる画家は誰?

エドガー・ドガ

WMで出したものを少し改題


 オシャレな実装が上手くいった例だと思います。ドガがカメラで競馬場を撮影してそれを模写していたとかそういう話ではないので、ストーリー的な流れがあるわけではないのですが、前フリがシンプルに面白くて、同時にドガの画風を形容するうえで「(カメラで撮ったかのように)対象を切り取る」という表現はかなり的確と思われるので気に入っています。

 こういうオシャレ問題って、上手く仕上がると相当な風格を感じさせますが、クオリティが低いと「それがやりたいだけじゃん笑」みたいな問題に成り下がって題材の良さも消し飛ぶので諸刃の剣です。髭男がたまにやる韻踏みたいだけの歌詞みたいなもったいなさが出ちゃう。一応僕は出題規範として、オシャレ要素を排しても面白さの火力が十分担保されること、後フリがその事物を説明するうえで自然であること(「それをやりたいがため」の文章を不自然に構築してしまっていないこと)、そもそも「オシャレをやろう」と狙って問題を作ろうとしないこと(オシャレは常に試行錯誤の結果偶然生まれ落ちるべき)…と決めています。

 ただ、大会当時の文だと「躍動する対象を見事に切り取った」と表現していて、『エトワール』はそれで超バッチリなんですが、『ロンシャン競馬場』に関しては疾走する馬ではなくオフショットの歩く馬を描いているところに面白さがあるので、「躍動」という言葉はピントがずれていたと反省しています。詰めが甘かったですね…。



上野動物園には計5頭のトラが飼育されています。そんな上野動物園の一角にひっそりとお墓が建てられている、名前に「虎」が入る戦国大名は誰?

藤堂高虎

WMより


 完全に遊び心問題ですね。上野動物園のどこかに藤堂高虎の墓があるという情報がもう面白くて、もともとはそれだけで問題を組み立てていたんですが、なんとなくパンチが足りない気がしていろいろ思案しているうちに、せっかく名前に虎が入っているなら…ということでこう改造してみました。

 さっきの問題で話した内容と違って、これはもう前置きの「5頭」に情報としての重要性が全くない(布石としてただ虎の話をしたことに意味がある)ので、「それがやりたいだけじゃん」という批判が一周回って無粋になってしまうのが面白いところです。オシャレに寄せるために意味ある情報を中途半端にいじられると人工っぽさ、余計に手を出された感が生じますが、もとから不自然な無意味が置かれていると、かえってそういう味として受け入れることができるのかもしれません。好き嫌いはあると思います。

 


2001年にはニューヨーク・メッツでプレーしていたくせに、「911同時多発テロはCGだ」という陰謀論をゴリゴリに信じている、「BIG BOSS」の愛称で親しまれる野球人は誰?

新庄剛志

WMより。前の問題がメタルギアで、ビッグボス繋がりという仕掛けもあった


 カスの出典。 スポーツに疎すぎてこれが本物の新庄剛志かわかんなかったので、深夜に古巻と石原に「これ本物?」ととち狂ったLINEを飛ばしたことを覚えています。
 この問題、実は「新庄が9.11をCGだと信じている」という情報だけではギリギリ出題ハードルを越えないです。そんな陰謀論者いっぱいいるし、アスリートってそういうアレな人多そうだし(偏見)。9.11当時にニューヨークにいたという情報が一気に問題の格を上げてくれました。格が上がったとて西成のヘドロが芦屋のゴミ捨て場になった程度の話ですが。




百日咳に苦しむ娘を安楽死させようとしたことがある作者が、その過去を自己正当化するために書いた…とする面白い作品解釈もある、弟を殺した罪人:喜助の身の上が語られる森鴎外の小説は何?

『高瀬舟』

WMより。前の問題で森鴎外その人を訊いていた。


 これ面白いですね~。文豪のカスエピソード前フリは、なまじ無限に発掘できるがゆえに年々ハードルが上がっている(主観)のですが、これはそのハードルをゆうゆう越えたと思います。
 僕はカスエピソードの中でも、「ほとばしる欲望・野望の結果はたらいたヤバ行為」より、「自分をカッコよく見せようとして・黒歴史を消そうとしてはたらいた隠蔽行為」のほうが“ニンゲン”を感じられて好きです。



マンゴーの葉だけを食べさせた牛の尿から作る黄色の絵具と、ラピスラズリを砕いて作る青色の絵具を対比的に使用した、バロック絵画を代表する芸術家は誰?

ヨハネス・フェルメール

WMより


 決勝で厨子王さんがクイズ王スラッシュをキメた印象的な問題。まだマンゴーの葉しか食べてないのに答えを出すのめちゃくちゃクイズ王で、優勝するべくして優勝したんだなと再確認させられます。

 新規性ある前フリを魅力に打ち出す問題って、作れば作るほど「有名な/クイズベタな情報をどうバラすか」みたいなところに悩んだりします。「面白い前フリ+終止形+読点+有名な落とし」という構文は便利なんですが、そればかりを作っていると参加者による攻略が一辺倒になってしまって、いくら競技を標榜しないとしても面白くないです。だから僕はそもそも有名な情報を入れなかったり、この問題のように、「黄色と青色の絵具を対比的に使用した」という自然な流れの中にうまいこと情報を順に入れ込んだり…と頑張ってみています(客観的にうまくいってるかはわかりません)。結局面白いフリ+ベタな落としに分解できるとしても、骨組みをそこにあったかのような自然な形にするのが理想です。



クリーニングハンガーの製造最大手であるマルソー産業が本社を置いているのは、定番のなぞなぞで「ハンガーを使わない」といわれる何県?

福岡県

WMより


 これめちゃくちゃお気に入りです。「服を掛けん」でハンガーめっちゃ作ってたら面白くね?と思って調べたら本当にそうだったので、ちょっと震えたのを覚えています。なぞなぞを聞かずに舐め押ししてもギリ答えられそうなゆる具合も好き。
 WMにはこういう一本釣り作問で釣り上げた問題がいくつかあるので、探してみると楽しいかもしれません。



3ヒントクイズです。この文学作品は何?
①カリフォルニア大学の図書館にある有料タイプライターで書き上げられました。
②しかし大学では資料が足りず、地元の消防署に電話してタイトルを決めた逸話があります。
③デンマークでは、当初「233° Celsius(摂氏233度)」という信じがたい名前で出版されていました。

『華氏451度』

WMより


 これ良いですね。僕の哲学として、3ヒントクイズは「全部のヒントがそれ単体で出せるくらい面白い」か「全体的なストーリーの流れがある」かのどちらかでないと出してはいけない(というより3ヒントにする意味がない)と思っていて、この問題は前者のパターンです。1つ目が押さえてる人は押さえてる硬めのおもしろ情報(実際に押された)、2つ目がファニーというよりユーモラスなおもしろ情報(かつ遠回しな布石)、3つ目がいきなりぶっ飛んだおもしろ情報(かつ超露骨な落とし)…と、全体として面白さで統一感を出しつつも、それぞれのフリがそれぞれの機能美を発揮している点がお気に入りポイント。

 個人的に「単体で面白いわけではない、それぞれリンクし合わない情報を3つくっつけて、進むごとにベン図を狭めていく(あるいは知名度順に並べる)」パターンの3ヒントクイズがあんまり好きじゃなくて、WMの3ヒントクイズはそれらへのアンチテーゼという含みがあったりします。そもそも3ヒントという形式は構文の工夫なしに雑に情報を足し算できる飛び道具であり、クイズとして「差をつけやすい」ことと引き換えにテンポが間延びする、わからない人がとことん置き去りになるきらいもあるので、それぞれのフリに「あえて3ヒントにすることで相乗効果を発揮する魅力」がないとなかなか厳しいな、と感じています。



天理教の現指導者:中山善司(なかやま・ぜんじ)の結婚を祝して作られた もとは宗教ソングである、天理教の信者だった歌手:中島みゆきの代表曲は何?

『糸』

WMより


 気を抜いたらこういうことやっちゃう。露悪もいいとこですが、面白いんだから仕方ない。わりと早いところで正解が出たのも面白かったですが、正解音を鳴らしてからのオーディエンスの不穏なざわめきが作問者冥利に尽きるという感じでした。僕が出すクイズを通して、あなたが何かを見る目を歪められるなんて、こんな気持ちいいことはありません。



本社の講演会のゲストに呼ばれるほどゴリゴリのアムウェイ会員らしく、講演では「Amwayしかない!」と語ったという、「俺にはSASUKEしかない」はずのおもしろ人間は誰?

山田勝己

院生短文王のトリを飾る名問


 カスの出典。 気抜いたらまたこういうことやっちゃう。露悪の極致ですが、超面白いんだから仕方ない。

 個人的には落としの「おもしろ人間は何?」という表現が好きです。山田勝己ってどう括っていいかわかんなくないですか?アスリートって言うには抵抗あるし、タレントって言うほど露出があるわけでもないし、本職何やってんのか全然知らないし、SASUKEって既に言ってるから「SASUKEオールスターズの一人は誰?」も重言になるし…。冗談抜きで1時間くらい逡巡して、「おもしろ人間」という120点の括りに辿り着きました。バラエティでのイジられ具合を考えたらもう仕方ない。

 こういう「どう括っていいかわからない」みたいなことっておふざけクイズに限らずともけっこう多くて、僕は造語で誤魔化すか、「~、『浪速のターミネーター』は誰?」みたいな別称で置き換えがちです(これ水ダウでしか聞いたことない別称ですが)。前者はふざけ度合が中途半端だとただただ意味不明になるのでふざけ切ること。後者はオシャレに落とせますが、属性を定める情報が往々にして増えないのと、わからない人がかなり置いていかれるので気を付けてはいるつもりです。



インドの現首相:モディは「古代インドで形成外科が存在した証拠だ」というトンデモ持論を述べている、父のシヴァ神に首を切られてしまい、象の頭に付け替えられたインド神話の神様はどなた?

ガネーシャ

WMより


 やっぱクイズで人をバカにするのって楽しいよな 以上



地下芸人:チャンス大城の名ツイート。「先日 日本三大どや街のひとつ 寿町に行った。西成あいりん地区と比べたら 落ち着いてるなと思いながら、路地を左に曲がったら…」何?

「車が燃えていた。」

院生短文王より


 「名ツイート」とは書きましたが僕が好きなだけで、全然バズってはいないです。 双方向のコミュニケーションであるクイズにお笑いの「緊張と緩和」を安易に適用するのは良くないんですが、これは解答可能性をマジのゼロにするというデカすぎる代償を払いつつ、人のツイートとクイズの枠組みを二次利用して緊張と緩和でウケを取るという卑怯なことをやってみました。
 こういう「あなたたちと問答という意味のクイズをやる気はあんまりないけど、やりたい仕掛けはクイズの形でないといけない」みたいな問題も1問くらいノミネートしてもいいかな、と。



話題のホラー映画『プー あくまのくまさん』には、メインキャラであるはずのイーヨーとティガーが登場しません。イーヨーが登場しないのは既にプーさんに食べられてしまったからですが、ティガーが登場しないのはなぜ?

ティガーにはまだ版権が残っているから

WMより


 面白いですね~。正直この映画自体が既に面白いものなので、ちょっとズルい問題ではあるのですが、これ見つけて出さないのはちょっと心が許さなかった。

 細かいところでは、「イーヨーがプーさんに食べられた」というジャブ(面白さ的にはそんなに重要じゃない)で思考をミスリードして、答えの意外性を際立たせようとしていました。イーヨーを入れずに問うと、15カウントの間にわりと答えに辿り着くのが容易すぎる気がしたからです。情報を隠すのではなく、逆に自然に情報を増やすことで歯ごたえを付けることができました。



 以上です。今年は7000字近く書いてしまいました。今年は去年より良い問題をたくさん作った良い1年でした。一方で課題もたくさん見つかったし、何回見ても愛が注げる問題と時が経つにつれて好きじゃなくなってくる問題の違いも肌感でわかるようになってきたので、来年のWidowMaker 2024はもっと純度を高めた問題をお届けできるよう頑張ります。まあ、どう転んでも世界はどうしようもなく面白いので、きっと何とかなると思います。

 それでは、よいお年を。


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