見出し画像

世界の文様❹「饕餮文様」(とうてつもんよう)

今回は古代中国の文様を語る上で欠かせない「饕餮文」に触れてみたい。

中国最初の王朝は「夏」と言われており、中国の教育では中華思想の原点としており、美称として「華夏」と現在でも表現されているくらいである。

しかしながら、夏王朝の存在は私が知る限りそれが決定づけられる出土品や記録がなく、世界史では殷王朝(紀元前1600年頃〜1050年頃)が明確な最古の王朝とされていることは周知のことである。

ただ個人的には今回触れる饕餮文を含む様々な青銅器の加工技術やそれらを祭器として使用する文化はいきなり出てきたとは考え難いことから、殷時代以前に、王朝または呪術師のような人が支配する集落によって形成された文化が存在したと考える方が自然である。

殷王朝は強い権力を持った王族が奴隷を支配する社会であり、鬼神に仕える祭政一致(祭祀と政治が一体となった宗教色の強い政治体制)である。甲骨占いによって現れた模様を神の意志として政治を司っていたのである。

proxyのコピー

さて、話を饕餮文様に戻すことにする。冒頭の写真は殷時代のもので、「饕餮文鼎(とうてつもんてい)」と名付けられており、「鼎」とは2つの把手があり三本足の器のことである。

饕餮文様の青銅器は祭祀で鬼神に捧げる酒食に使われる祭器であり、写真のものは、羊や牛などの肉を煮た鍋であると思われる。

饕餮は怪物であり、饕(とう)は財を貪り、餮(てつ)は食を貪るの意味である。文様としては非常に面白味の溢れる意匠であり、中央に鼻を配置し、角、目、耳、尾などをつけた動物を表している。また表面には羊、牛、龍、虎などを入れたり、四角い渦のような繋ぎ文様の雷文を配していることが多い。ちなみに写真の饕餮文鼎は、中央に饕餮、上部に虎、足部分には三角の山道文に屈輪文が配されている。

また文様には陰陽思想のもとになっている二而一(にじいつ)という「二つにして一つ」の概念が垣間見られ、中央の饕餮の顔の表現の仕方もシンメトリーになっていることがわかる。

また饕餮文器物は王権の象徴でもあり、権力を誇示するため、徐々にその大きさも増していき、後の周時代のものになると巨大なものも多数存在している。

古代中国では「魂は陽、肉体を司どる魄(はく)は陰」で魂は天にのぼり神となり、魄は地にとどまり鬼となると考えられていた。それが善神と悪鬼として両様の現れ方をする自然界を支配する鬼神として崇めていたのである。

中国は殷時代の頃の日本は縄文時代。文化形成レベルとしては大きな違いがある。ただこの饕餮文器物と火焔土器の謎の文様。全く違うものではあるが、私個人としては何かの関連性があるのではと勝手な期待と想像を膨らませるのである。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?