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高人さんが猫になる話。-後日談1日目-

「…と、いうのが今の現状ですね」

人間に戻れて次の日だ。
東谷に説明を受けて項垂れる。
「は――――――――…っ」
頭が痛い。
リビングのテーブルに手をついて、頭の前で手を組んで視線はテーブルの下。
どうしようか…。

西條はかなり大事になってる自分の失踪の現状を知った。

「まぁでも、世間的には体調不良で通ってるんで炎上とかは無いと思いますよ?」
何をそんな思い詰めてるのかと、東谷はキョトンとする。
「いや…そうじゃなくてだな…」

猫になってたなんて誰が信じるんだよ。
「チュン太くん、あのな?1週間以上行方不明だった人間が、いきなりお前の部屋から沸いて出てきたらみんなどう思う?」

東谷は、ん――――。と考え、
「俺が犯人ですかね。」

「そういう事だよ」
どう言い訳しようかと考えあぐねていると、見えない羽根をぱたぱたさせる東谷が、ハッとした。
「あ!でも、俺高人さんを拉致監禁してみたかッ―…」
「うるさい黙れ」

進んで犯罪者になろうとするなバカ天使がっ。
「正直に言っても…信じて貰えないだろうな…あぁ――…」

だが早く無事は報告しなければ。

「猫が高人さんだったって言う、証拠が欲しいんですか?」

う―んうーんと唸っていると、隣に座っていた東谷が顔を覗き込んでくる。

「そうなんだが…そんなものある訳―…」
「ありますよ?」

「え゛⁈」
きょとんと即答する東谷をぐるんと見やる。
「な、なんでそんなの…写真とかじゃ証拠にならないぞ?動画だってただの猫だろ!」

「あはは。えーっと、あんまり教えたくなかったんですが…」
困ったように笑う東谷は立ち上がると、部屋の棚にある本を一冊取り出した。それを西條に見せる。
「これです。」

「へ。本じゃないか。」

「ええ、見た目は。じつは中身がですね…。」
ぱかっと本を開くと綺麗にくり抜かれており、何やら機械が入っていた。

「盗撮カメラです♡」
意気揚々と爆弾発言をする東谷に、
ドン引きの眼差しを送る。
「……防犯カメラじゃないんだな…」

「ハッ、防犯カメ―…」
「言い直すなもう遅い。」
しまったとばかに訂正しようとした東谷を遮ると、これからの流れが分かってしまってダラダラと嫌な汗が出てくる。
「まさかとは思うが…」
「はい!一部始終撮影されてます♡」
満面の笑みで元気よく、はい!と言える神経がおかしい。

「う゛――――――。」
今度は別の頭痛で頭をかかえる。
「大丈夫ですよ!セックスしてる場面は見せなきゃいいじゃないですか。高人さんが猫から人間に戻る所だけ見せれば」

「うるさいだまれ…ッ!あとその盗撮カメラは全て撤去だ!分かったか!」
涙目で顔を真っ赤にしながら東谷を睨みつけた。

えーー…。と、しょんぼりしている天使を他所に、西條はハッとする。
「そういえば、俺の荷物は?」

「あぁ、まだ警察にあると思います。」
しょんぼりとカメラを片付ける東谷が言った。

なら俺から事務所や佐々木さんに連絡するのは無理だ。
「俺から連絡しますよ。来て貰って話た方がいいでしょうし。」
心中を察したのかそう言うと、ヒラヒラとスマートフォンを見せる。

ホッとした反面、あれを見られるのかと思うとかなりアレなのだが…

「はぁ――――。仕方ないな…」
腹を括るしかない。

――――――――――

「高人くん!!良かった!無事だったんだね!」
東谷から連絡を受けて家まで来た佐々木は、リビングに通されると、ガバッと抱きしめる。

「良かったよ…ほんと…っ」
「すみません、佐々木さん…ご心配おかけしました。」

「うん、キミが無事ならそれでいいんだけど、一応、どうして居なくなったのか、経緯を聞いても大丈夫かい?」

「それが――…」

佐々木さんにことの経緯を話す。

「…はぁ〜…不思議な事もあるもんだねぇ…」
「え、信じてくれるんです…か?」

意外だという風に呆気に取られる西條に、佐々木はにこりと笑う。
「だって、真面目な高人くんが仕事ほっぽり出してどっか行くわけないし嘘なんてつける人間じゃないからね。そういうのは、分かってるつもりだよ。」

佐々木さんの言葉にジィーンとしてしまう。
「ありがとうございます。佐々木さん。」
「いいえー♪」
にこりと笑うと、よいしょ、と立ち上がる。
「高人くん見つかったし、社長に話してくるよ。あ、それと、高人くんいつから復帰しようか?」

「仕事、どんな感じになってますか?」
そういえばそうだった。普段の俺は忙しい身の上だ。

「延期とかキャンセルとかで…まぁおやすみ3日って感じかな。」

これは佐々木さんの配慮だろう。大変だっただろうから3日くらい休んでね!という心遣いが見え隠れする。

「ではそれでお願いします。」
西條の言葉に、にこりと笑い佐々木は部屋を後にした。
「東谷くん、高人くんのことよろしくね!」
「はい、任せてください。」
ふたりで笑い合うと、佐々木は帰っていった。

「高人さん、佐々木さん帰られましたよ。」
東谷がリビングをひょこっと覗く。
「うん、ありがとな。」

「信じてくれましたね、佐々木さん」
東谷は、西條の横に座るとそう言った。

「そうだな。」
でも、疑われてもおかしく無い状況ではある。
「チュン太、そのカメラの映像取っておいてくれ。」
「え!いいんですか⁈」
ぱぁぁぁぁッと嬉しそうにキラキラ笑顔を披露する東谷に脱力する。
「お前のためじゃなくてだな…証拠としてあった方がいいだろう?」
頭痛がして額を抑えてつつ、西條が言う。

「はい!そうですね!」
東谷はにこにこと満面の笑みである。
「はぁ――――――。」

とりあえず仕事の復帰はなんとかなりそうだ。

うちの天使が犯罪者扱いされないように気をつけないとな…。
動画保存します〜♪と意気揚々とパソコンに向かう天使に、さらに頭が痛くなるのだった。


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