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ラスボスが高人さんで困ってます!38

俺は唖然とベッドから外の景色を見ていた。

「な、なんで港町に居るんだ??」

さっきまで、森にいた筈なんだが?
開いだ窓から秋の日差しとともに潮風が香り、窓辺のベッドから見える景色は、赤や青の屋根に石造の家や商店が立ち並ぶ街、その向こうは海だ。遠くから細波の音に海鳥の鳴く声が聞こえてくる。
空はまだ明るいが、だいぶ日が陰ってきていた。部屋にはベッドが二台あり、それ以外は小さなテーブルがあるだけだ。見たところ宿屋のようだが。チュン太の姿は見えず、この部屋に居る気配もなかった。

まぁアイツが俺を置いて何処かに行くなんてあり得ないし、ましてや襲われても返り討ちにするだろうから身の危険もないだろうし。

「大人しくしてれば帰ってくるか。」
またアイツに無茶苦茶やられたせいで身体も動かないしな。まぁ、誘ったのはは俺だから仕方ない。

しかし、七日掛かると言われた港町に何故もう居るんだ?

「俺……もしかして七日も眠ってたのか……?」
そう考えゾッとする。
「いや、ならこの腰の痛みが説明付かないな……。」

流石に寝てる俺に無体な事はしないだろう。 

俺は重だるい腰をさすりながら窓辺に行こうと立ち上がった。その瞬間、下半身にヌルリとした感触と腿に液体が伝い流れているのを感じビクリとする。

「な、なんだ!?」
ブカブカのワイシャツだけの姿で、下着も履いてない。手で拭うと、それはドロリとしたアイツの……。

俺は事情を思い出して羞恥心で顔を真っ赤にする。
「あいつ。中に出してそのまんまかよ……。」
なぜそうしたかは分かっている。彼は本気で俺を孕ませたいんだ。龍の本能がそうさせているのだろう。

「ったく。ほんとに。」

彼と、子供を抱えて子育てしている姿を想像すると、芯から暖かくなるようなそんな気さえする。
家族か。できればいいな。

元々男の俺が母親なんてできるか分からんが。
まぁ、本能的にどうにかなるんだろう。じゃなきゃ性転換なんて起きないわけだし。

我ながら楽観的だなとも思うが、本能とは馬鹿にできないものなのだ。ごくごく自然にそういった思考に傾けてくる。抗うなんて無理な話なのだ。
そう考えると、前回の発情期を耐え忍んだチュン太の精神力は凄いなと感嘆する。どんな言い訳を考えてでも、本能は俺を抱こうとしていた筈なのだ。

「ハッ!てかアイツ俺の下着どこやったんだ!?」
上着はチュン太の物だし、下は履いてないし。シャツで隠れているので一見して履いてない事はバレないが、スカスカで気持ち悪い。

……コンコン。

下着を探して辺りをキョロキョロ見ていると、部屋をノックされ返事を待たずにドアが開く。

「ただいま帰りました。」
コソッと小さな声でそっと扉を閉めるチュン太の姿。
「おう、おかえり。」
俺の返事にビクリとして、チュン太は手にした紙袋をテーブルに置いて俺を抱き締める。
「良かった!目が覚めたんですね。無理させて申し訳ありません。お風呂入りますか?」

チュン太は発情期など一切感じさせないほど、清々しく微笑んでいる。
「おぉ……。お前気分良さそうだな。」
「お陰様で!何にも考えないで高人さんを抱いたからか安定してます。夜になったらどうなるのか分かりませんけどね。」
チュン太は困ったように笑う。
「おい、ここってお前の言ってた港町だよな?お前の言い方だと森でシたのって今朝の話か?」
「……あ――…………――。」
チュン太はピタリと静止し、ソロリと視線を逸らす。その仕草は、子供達が約束や規則を密かに破っている事に気付かれた時のソレだ。

ほほう。何やらこいつは俺に黙っている事があるらしい。
「あの、高人さん!お風呂!お風呂入りましょう!一応拭いてますけど身体気持ち悪いでしょ?」

まぁ、確かにそれはそうなのだが。コイツのこの動揺はかなり気になる。
「おい。何したんだ?お前の見立てじゃフィノストまで、歩いて七日だったよな?」
「あ、え……えっと…………ッ」
まだ何か下手な言い訳を考えている様子の彼に、どんどん腹が立ってくる。
「チュン太」
「はいッ」
「“お座り”!!」
「……――!?」
チュン太は俺の言霊にガクンと膝をついて、そのまま正座する。
ギリギリと怒りを露わに見下ろす俺に、見上げるチュン太はたじろぎ観念したように口を開いた。
「……空間の精霊様が、助けて下さいました。」
「は?お前、大精霊を呼んだのかッ!?」
「あの場所とフィノスを繋げたくて。時空の精霊を呼んでみたんです。」
「……そしたら?」
「空間の大精霊様が、奥さんが俺を気に入っていて、自分も気に入ったからと、フィノスに行く道を開いて下さいました。」

唖然とする。口をぱくぱくさせながら俺はチュン太を見つめた。

「……勝手な事をしてごめんなさい。」
チュン太はシュンと首を垂れた。
「まったくだ!!いいか、時空の精霊は番だ。時の大精霊クロノス様と、空間ね大精霊アレス様のお二人なんだ。」
説明していると、チュン太がチラリと俺を見上げた。
「一度会った事があると言っていました。どういう事か分かりますか……?」
しゅんとしたまま、首を傾げ生徒らしく俺に質問してくる。
「お前のアイテムボックスはそのお二人の力を借りた魔法なんだ。」
「ああ!その時にお二人に会ってるんですね!見えなかったので、いつ出会ったか分からず、申し訳無かったですが。なるほど!」
ぱっと笑顔になりチュン太は納得した様にそう言った。 
「お前な機嫌を損ねたら殺されてたんだぞ?」
「はぁ。なんかそうならない気がしたんです。」
意味深な言葉に俺はピクリと眉を動かす。
「ほう?何故だ?」
「……えっと、勘です?」
「はぁ――。」
にっこり答えるチュン太はどうにも反省はしてないようで、俺は頭痛を覚えて頭を抑えて盛大に溜息を吐いた。

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