川崎市市制100周年記念 第9回川崎郷土・市民劇「百年への贈り物~川崎市誕生ものがたり~」 インタビュー/演出 鈴木龍男さん
川崎の歴史や歴史上の人物を採り上げ、 市民の手で上演する「川崎郷土・市民劇」。 公募で集まった市民の皆さん38名が出演し、スタッフはプロの力を借りながら質の高い舞台づくりをしています。
川崎市市制100年を迎える今回のテーマは「水道の創設」 そして「川崎市の誕生」です。 市民劇で3度目の演出を手掛ける鈴木龍男さんにお話を伺いました。
人の暮らしにおいて普遍的な財産「水」
―今回のテーマ「水道」との関わりをどのように感じていますか。
今は水道の蛇口をひねれば水が出るという環境ですが、能登半島地震でも明らかになったように災害時に水道や電気が止まると、人間は無力になるという現実を痛感しています。 2019年に起きた台風19号での冠水は記憶に新しいですし、1970~80年 代には生活排水や工場排水による多摩川汚染を経験しています。恩恵も脅威も含めて、人間の歴史の中で水の影響は大きいですね。この物語は今からおよそ100年前、明治最初の頃が舞台ですが、水が蛇口をひねって出るものではないという時代は、そんなに遠くないと感じました。
―明治30(1892)年当時の川崎町長、石井泰助が「水道敷設」を志したのにはどんな背景があったのでしょうか。
川崎は江戸時代から、たびたび多摩川の氾濫で大被害を受けていました。また町民は、水売り業者が多摩川 上流の二ヶ領用水から取水し、ろ過した飲み水に頼って生活していましたが、赤痢、チフスといった水に伴う伝染病が蔓延していました。後に初代川崎市長となる石井泰助は、こうした悲惨な患者の実態を目の当たりにし、 人々が安全な水を飲めるようにするため、「水道敷設」を川崎で公共事業として行った初めての人です。石井は工場誘致と一体化した「人にやさしい工場のある町」に向けて奔走していきます。
財産を共有する関係を少しずつ築く
―水道の敷設には長い時間がかかりました。どのような困難があったのでしょうか。
まず一つは財源の問題です。国や県からは調達できず、税金でも到底足りない。そこで、川崎市の象徴である工業群への働きかけが要となります。当時は、東京電気(後の東芝)や日本鋼管、鈴木商店(後の味の素)など新興の会社が川崎に入ってきたタイミングでした。さらに、二ヶ領用水から水を配っていた水売り関連業者は水道設置に反対し、また町民は水道のために高い税金を払うことに抵抗しました。こうした状況に向き合い続ける石井や政治家たちの姿勢からは、町民の健康や暮らしのことを考え行動していたことが感じられます。
市民劇に関わる人たちから感じる郷土愛
―鈴木さんは第5回「華やかな散歩」、第7回「日本民家園ものがたり」 に続いて、3度目の演出となります。「川崎郷土・市民劇」に対してどのような思いを持っていますか。
劇に関わる皆さんから川崎への愛を感じますね。出演者も制作スタッフも、川崎市内外の様々な場所から稽古に通われていますが、川崎に集う人たちの「郷土愛」がとても強いんだなということが分かります。たとえば 川崎市民の方であれば、自分が住んでいる地名が出てくると嬉しいですよね。地名の読み方にもこだわりがあって、川崎町(かわさきちょう)とは言わない、川崎町(かわさきまち)なんだと。稽古もそうやってみんなの知恵を出し合って、台本を肉付けしていく作業なんです。衣装や小道具をみんなで持ち寄ってつくる作業も、専門職がいるプロの劇団とは違うところです。 出演者や制作スタッフがそれぞれの得意技を活かして関わろうとしているのが素敵だと思います。
また、演技にも上手い下手はありません。その存在自体が重要です。劇中では主役が設定されますが、周りを支える一人ひとりが描かれています。小川信夫さんの脚本からも各人物への愛が伝わってきますね。
―川崎の郷土を題材にすることの醍醐味は何でしょうか。
自分たちがその土地の歴史を体感して、明治や大正の人になってみる経験は、その人の中に一生残ります。その後も派生して、何かのタイミングで違うものや別の角度で知りたくなることもあると思うんです。観劇される方にも、その土地で生きた人たちを知る入口になってほしいですね。この市民劇は今回で9回目です。過去には戦国時代も扱っているので、9回観ている方なんかはもう川崎市の歴史通ですよね。過去に取り上げた富士瓦斯紡績や南武線の話も、今回の水道事業に繋がっているので、実在した人物たちがリンクしていくのもおもしろい。そうした取り組みが川崎で継続されているのはとても貴重だと思います。
私たちは未来の世代に何を手渡せるか
―今年は川崎市が誕生して100年という節目の年です。作品は「100年への贈り物」と題されていますが、当時の人たちから何を託されていると思いますか。
私たちは「水」という暮らしを営むための普遍的な財産を受け取りました。今度は、自然と共生しながらどれだけ豊かにこの先の世代に引き継いでいけるか、そこに人間の知恵が必要です。これからもまた様々な問題が起きてくると思うんです。人権問題や戦争への危惧、貧困の拡大なども含め、 どのように向き合っていくのか。ものを動かすのは、人の力です。水に限らず、様々な基礎を作った人たちの存在や思いを演劇を通じて届け、今の社会で波及していってくれるといいなと思います。
【PR動画協力】
ナレーション:川崎市立南河原中学校放送部
動画編集:【カワゲキ情報局】川崎青少年演劇情報局
企画:川崎郷土・市民劇上演実行委員会
川崎市制100周年記念 第9回川崎郷土・市民劇「百年への贈り物 ~川崎市誕生ものがたり~」公演情報
作者:小川信夫
演出:鈴木龍男(劇団前進座)
■日程
2024年5月11日(土曜)、12日(日曜)、18日(土曜)、19日(日曜)
■時間
11日(土曜)14時
12日(日曜)14時
18日(土曜)11時/16時
19日(日曜)14時
■会場等
5月11日(土曜)、12日(日曜):多摩市民館
5月18日(土曜)、19日(日曜):幸市民館
■チケット
指定席:3,500円(前売券のみ)
一般(自由席):3,000円
小学生~大学生・障がい者(自由席):1,000円
※当日は各300円増。
■チケット販売窓口
当日券(自由席)は各日開演1時間前より会場入口の受付にて販売
【主催者チケット予約WEBページ】
多摩市民館公演(チケット予約システムCoRich)
https://ticket.corich.jp/apply/300626/
幸市民館公演(チケット予約システムCoRich)https://ticket.corich.jp/apply/300659/
プロフィール
鈴木龍男
1953年8月29日生まれ。新潟県南魚沼市六日町出身。1976年二松学舎大学国文科卒業。同年3月劇団前進座文芸演出部入座、現在前進座座友。演出者協会会員、舞台監督協会理事、アシテジ(国際児童青少年舞台芸術協会)日本センター理事、日本演劇協会会員。近年の演出作品―『龍の子太郎』(前進座)・『森は生きている』(劇団仲間)・『イヌの仇討』(人形劇団ひとみ座)など。
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