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なんでもない日々

大学院を中退した。東京で一人暮らしを始めた。馬鹿みたいに通り過ぎた、幼馴染との横浜での時間は夢をなんとなく思い出しているように遠くに放り投げた。また、僕はそこにいるのが息苦しくなってその場所から離れた。大人になってから初めて恋をした。まだ夢の中にいるように、お互いの息を聴いて、君の溶け出した言葉をなにも考えずに脳に通り抜けさせていた。何も聴かないように、なにも考えないようにするのが精一杯だった。愛おしくなることは幸せなことなのか、また立ち止まってしまった。終わらない仕事と睨めっこをしていると、先輩から連絡がきた。お世話になっている先輩は、下積みハウスと言われていた木造アパートから、綺麗で広いアパートに引っ越した。先輩の家に向かう下北沢の、もう少しでなくなってしまいそうな少し暗くて、なにも考えなくていい時間が好きだったけど、閑静な住宅街に引っ越した。先輩は相変わらず寝言を言っている。なにも変わってない、変わらないでいてほしいという自分が見ているだけの尊さなのか、自分だけが取り残されていっているのかわからなくなった。でも先輩はいつも通り、僕が美しいと思う生き方をしていて、寝言ではいつも通り女とプロレスをしていた。愛おしいものばかりではないことがわかりきっているなかで、この時間はなんなのか、思いを遠くに馳せることもなく、また1週間がはじまる。くたくたになっていながら、この時間はなんでもなく、いつも通りの時間だと気付いていること、このどうしようもない気持ちを言葉にすることの無意味さ、それでもなんとかして残しておかないと、壊れていく時間、すべてに絶望していた。別に苦しいわけじゃない。なんでもない日々。今日も君が愛おしい。

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