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緊急避妊薬市販化に反対する方々の理屈を聞いて思うこと~草の根セックス研究録~

前提として、人工妊娠中絶により堕胎された胎児はこの記事においては「死者」として扱う。胎児にまで至らなかったものは「死者」としては扱わない。

 製造業で使われている製造機械には、ほぼ必ず「緊急停止スイッチ」や危険部が露出したら稼働が止まる「インターロック」という機構が設けられている。これらの機構はJISの規格で定められており、それらは人命を守るための大事な機構である。こういった機構を改造して無効化していたために労働災害が発生し、令和となった今でも死者が出ることもある。

 礼儀正しく性を楽しむをモットーに、調べて実践したことをお伝えしていくシリーズ、草の根セックス研究録。今回は緊急避妊薬について取り上げる。とは言っても、今回は調べて実践したということより、話題となっている緊急避妊薬の市販化について思ったことを述べていきたい。

 2021年6月から緊急避妊薬の市販化の検討会が厚生労働省で開かれている。反対派の声(を上げる人の権力)が強く、市販化への道のりはまだまだ長そうだ。緊急避妊薬の市販化について反対をしている主な団体は日本産婦人科医会という医師会である。かの医師会が挙げる反論ポイントは「性教育が先」と「悪用の恐れ」の2点だ。

性教育は先か?

 かの医師会が仰るとおり、性教育において、避妊方法をしっかり教示しなければならない。そういった根本治療の大事さを説くのはもっともであり、正論である。

 しかし、その正論は自己解決の選択肢を狭める理屈にはならない。ましてや、過ちを犯す人間という生き物に対し、「正解以外を許さない」という考え方や制度設計は傲慢で無知で愚劣である。

 話を戻そう。労働災害の中には「緊急停止スイッチ」が手の届かないところに設置されており、そのスイッチを押せなかったがゆえに、労働災害に至るケースがある。これは機械の設計が杜撰だと非難されても否定することは難しい。

 では堕胎における日本の制度設計上、緊急停止スイッチの役割を担う産婦人科医や医院はどうだろうか。大抵の産婦人科医院の診療受付時間は夕方までである。もちろん休診日もある。

 未成年だろうが成人だろうが、緊急避妊薬が必要とわかってから、日常の生活を送りつつ、それを有効な時間内に処方してもらうことは簡単ではないのが現状だ。なんたって政府が目指すのは男女平等に死ぬまで働かなくてはいけない『一億総活躍社会』なのだ。仕事を休めるかどうかも勤務先の状況次第だろう。

 72時間以内の服用が必須である緊急避妊薬の処方が医者や医院の都合で遅れてしまうこの状況は大変不可解である。

 前置きとして、私は医療に携わる方々を大変尊敬している。その手によって救われた人間は数多く存在するだろう。

 しかし、大変申し上げにくいが、こと堕胎においては産婦人科医や医院が人命を守るための緊急スイッチとしての役目を充分に果たせていない。2018年の統計によると人工妊娠中絶件数は161,741件となっている。ちなみに同年の労災での死者数は909人、交通事故の死者数は3532人だ。桁数の異常さがわかるだろう。

 設計に欠陥があり、その欠陥によって死者が10万人以上発生しているのである。これがもし企業の中で発生した話であった場合、歴史的大事件になるに違いない。ただちに対策を取らなければならない。しかし、現実として緊急避妊薬の市販化に反対の有識者の皆さまは大変呑気にしておられる。

 また、学校教育で全てをフォローできると考えているのも浅慮であり、無責任ではないだろうか。知能や理解力は個人個人で異なるのに対し、学校による教育は画一的に行わざるを得ない。個別指導するには圧倒的に予算や人員が足りない。医師会の皆様方は今の自分にはほとんど無関係である「学校」をやり玉に挙げるのが楽なのだろう。

 かの医師会に所属するお偉い様たちでも、授業中寝てたことが一度や二度はあるだろうし、先生の言う事を100%守るような少年少女ではなかったはずだ。そんな人々が教師や学校に丸投げしようというのはずいぶん虫がいい話ではないか。

 以上のことから優先順位をつけるのであれば「危険回避のシステムが先」で「教育はその次」だと私は主張したい。

避妊しない人の増加、悪用の恐れ

 「避妊しない人が増える」「悪用される危険がある」という事柄が緊急避妊薬の市販化反対の理由によく挙げられる。しかし、本当にそうだろうか。

 もし避妊具無しの性行為を女性側が嗜好する場合、緊急避妊薬ではなく、安上がりで負担も低い低用量ピルをすでに処方してもらっているだろう。

 そう考えると、緊急避妊薬を盾に避妊具無しの性交を相手に要請するのは女性ではなく、間違いなく男性側である。性交において、男性側の責任を法律上もう少し明確化しておくべきではないだろうか。

 「避妊もしないような男と寝た女が悪い」というような女性側の浅慮を責める言論なども見受けられるが、こうした意見の持ち主が男性側の責任について触れることは少ない。「レイプされるのはそんな扇情的な服を着ていたからだ」「痴漢されるのはお前が色目を使ったからだろう」という詭弁と同じ論法だ。そんな論を振り回す奴らを4tトラックではね飛ばして「お前が車にはねられたのは、お前がはねてほしそうな見た目してるからだ」と言ってやりたいところだ。

 前後にどんな事情があろうと、レイプや痴漢は加害者が違法行為をしている。避妊しないことにまつわる法律の定めはないが、避妊の容易さを考慮すれば、避妊の責務は性器が外側にポロリンチョしており、避妊の負担が少ない男性の方にあると私は思う。

 上記のことから、緊急避妊薬を悪用するとすれば、その主体はほぼ間違いなく男性である。もし、女性の愚かさが原因にあったとしても、女性側が妊娠を回避する選択をとり、緊急避妊薬を服用することは悪事になることはない。過ちを認め対処する人間より、過ちを認めず対処しない人間のほうが愚かであると昔の中国にいたピン子だか悦子だか孔子だかいう名前の偉い人も言っている。

性感染症の拡大の原因になるか

 緊急避妊薬の市販化により性感染症が拡大してしまうという意見もある。しかし、緊急避妊薬市販化がどうこうの前に、すでに日本において梅毒の感染が広がっているという調査もある。避妊具無しの性交が感染ルートとなるのは明白となっているが、国を挙げてとるべき性感染症対策は「緊急避妊薬の市販化の阻止」ではない。私見ではあるが、とるべき対策は「性病検査のハードルを下げること」だと私は考えている。

 性病検査は症状なしで受けると保険が適用されない。各自治体の保健所が性病検査を無料で実施しているが、平日昼間に2回保健所に行かないといけない自治体が多い。人間ドックにおいても基本項目に性病検査はなく、オプションとなっている。

 プライバシーの問題もあるが、定期健診や人間ドックの基本項目に性病検査はあったほうがいいのではないだろうか。保健所は限られた予算の中で頑張っているとは思うが、エイズデーのある月だけ頑張るのではなく、月一回ペースででも土曜か祝日の窓口を設置してほしい。

 以上のことから、医師会の主張する「緊急避妊薬の市販化による性感染症拡散」は的外れだと私は考える。

代替案

 もし市販化がダメというのであれば、代替案として、全都道府県の産婦人科医院の診療時間延長を提案したい。24時間診療とはいかなくても、せめて『安さの殿堂』ドン・キホーテ(営業時間9:00~翌4:00)と同じくらいに時間を選ばず行けるようになれば、医者のみで緊急停止スイッチの役割を全うできるであろう。

 しかしながら、産婦人科医だって人間である。24時間ぶっ通しで働くコンビニオーナーのような非人道的な働き方は難しいし、そんな働き方をする医者にはこちらとしてもかかりたくない。

 何度も言うが、人間は誤りながら成長していくものだ。誤りを全く許さない考え方や制度設計はよろしくはないと思うわけである。

参考文献:
『「緊急避妊薬の市販化」に日本が踏み込めない根深い理由』山田剛志 著 ダイヤモンドオンラインより(https://diamond.jp/articles/-/258013) 
『衛生行政報告例』厚生労働省政策統括官(統計・情報政策、政策評価担当)
『「アフターピル」の薬局販売に産婦人科医会が反対するのはなぜか』宋美玄 著 プレジデントオンラインより(https://president.jp/articles/-/41805)

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