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朝5時、鴨川デルタ|京都 - 自己紹介にかえて

5月末、京都。早朝。


徹夜明けにカーテンを開けると、きれいな朝焼けの色が遠くの空に見えた。

白んできた空に浮かぶ雲が橙色に染まっている。そんな雲に隠れて、山の向こうから昇ってくるのであろう眩しい光が控えているのがわかった。

すごくきれいだなあ、とぼんやりしたのも数秒の間だけ。
すぐに、散歩に行こう、と思った。

そうと決まれば自分でも驚くほど行動は早く、財布とスマホ、鍵だけトートバッグに放り入れて家を飛び出した。
誰に会うわけでもないからメイクもせず、服も適当に。とりあえず、太陽が昇りきる前に、間に合いたい。その一心で。

時間は過ぎていく、変化する。

鴨川デルタから南を向いて。


到着したのは、鴨川デルタ。

賀茂川と高野川の合流地点の三角州。ここで交わった川が、「鴨川」と名を変え、南へと流れていく。

いつもは人で賑わうこの場所も、静かだ。


賀茂川側の河川敷では、時間帯を問わずジョギングや散歩をしている人が少なくない。

この日も、まだ日が昇りきっていない早朝だというのに、南の丸太町方面から走ってくる人の姿が見えた。

対岸、賀茂川の河川敷をジョギングする人。


一方の私は朝にめっぽう弱く、散歩はおろか、早朝にゆったりとした時間を過ごすような活動をする習慣はない。
目が覚める頃には早朝なんて時間帯は終わっているし、もし起きることができても活発に動けないから。
けれどこの日は、眠りそこねた頭がスパークしていたみたいで、妙な「散歩に行きたい」衝動に駆られた。
早朝でも私はこんなに俊敏に動くことができるのか、なんて思うくらいだった。

そんな私が突き動かされたのは、
きっと、今年の初夏という季節がそろそろ終わってしまうからだと思う。

ここ数年、季節の儚さ、もっといえば”時間の再現性の無さ”に焦燥感を覚える瞬間がある。

20代の前半くらいまでは、例えば梅やホタルのような風物詩(特に、桜や紅葉のようなメジャーどころではないもの)を見逃したところで「また来年にでも見ればいいや」と思えたけれど、今はちがう。

来年、その景色が同じように存在してくれる保証はどこにもない。
今、掴むことができなかったらもう目にすることができないんじゃないか。

そんな考えが浮かぶようになった。

歳を重ねるに従って、変化することや失うことをそれなりに経験してきた証かもしれない。
直近だと、コロナ禍も大きく影響を与えた事象のひとつだ。
なにも自然の景色だけでなく、街、お店や人もそう。
特急サンダーバードだって気付けば金沢まで連れて行ってくれなくなってしまった。
ずっと変わらず存在するものの方が少ない。

もう二度と同じ景色は見られないかもしれない、という、経験にもとづいた予感が定期的に訪れる。

それは同時に、もっと今に目を向けたい、この地面を踏んでいる足の感覚を覚えていたいという感情でもある。
刹那的に生きすぎている気もするけれど。

とはいえ、とくに初夏は気付いたら過ぎてしまっているような短い季節。
その景色を今逃してしまったら、もう来年まで出会えないかもしれない。この朝は特にそんな気がした。

考え事が勝手に広がって、消えていく。


この日の前日は土砂降りの雨だった。
雨上がりの、ひんやりと青みがかって見える澄んだ空気。地面を覆う湿度の高さが、足元の緑を濃くしていた。

濡れた緑から覗く鴨川は雨の影響でたっぷりと水量を有していて、飛び石の亀もいつもより深く水に浸かっている。

鴨川で鴨を見るとクスッとくる。


ひとりで歩いていると、頭の中にいろんな考え事が浮かぶ。

散歩中や、旅先、美術館の中に、映画館の帰り道。場所は問わない。

自分の声で「こう思うんだけど」と流れてくる思考に、別の自分の声が「とは言ってもさ、」と返したりして、思考の枝が広がっていく。

BGMがついてくる時もある。そんな時は、編集要らずの脳内Vlog動画みたいなことになるのでちょっとおもしろい。

けれど、頭の中で考えるだけでは記録に残らない。
記憶には残るとはいえ、時間が経てば忘れてしまうもの。

――あの時、なにを考えながらこの景色を見ていたんだっけ。

現地で撮影した写真を見返しながら、もったいない気分になることもある。
その時、その場所では、あんなに生き生きと頭の中を巡っていたのに、気付いたら消えてしまっている。頼りない存在だ。


だから、思考の記録を残したくて、このnoteを始めようと決めた。

自分に宛てた、自分のためだけの日記はかれこれ20年間、書き続けている。
ひっちゃかめっちゃか、好き勝手に日々のことを書いているノートが知らないうちに20年で積み上がっていた、という感じ。

でもここ、noteでは、そんな日記に書く時よりもちょっとだけ整理をして、
”自分宛て”と”よそ行き”の中間くらいの気持ちで文章を綴っていきたいと考えている。

最後に自分のことを、少しだけ。

出町橋から遠くの比叡山を望む。


ふらふらと歩き回っているうちに、空は明るくなってきた。
出町橋から東に目を向けると、比叡山と空の境目から太陽が顔を出す。

朝、だ。

なんとなく、「ミッション達成」という言葉が浮かぶ。
私は初夏のきれいな朝焼けを水辺で見たかったんだな、と少しずつ眠くなってきた頭で考えていた。

さて、最後に少しだけ自己紹介をしたいと思う。

はじめまして、カボスといいます。
京都在住。会社員。
好きなことは、ひとり旅、散歩、映画鑑賞、美術館と博物館に行くこと。
それから、小説を書いたり、本をつくったり、作字してみたり、という創作活動も下手の横好きだが長く細々と続けている。
どうぞよろしくお願いします。

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