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糸井重里さんの「ほぼ日刊イトイ新聞の本」を読んできた

ぼくの大事な本のひとつに、糸井重里さんが書いた「ほぼ日刊イトイ新聞の本」がある。
(ぼくの人生で大事な本の3つに入る。残り2つはまたのちの機会に)

これは、ウェブメディアの1つの成功事例であり、ものや企画を販売するウェブとしての大いなる先駆者、「ほぼ日刊イトイ新聞」の創業(1998年)から2001年頃までの話をまとめている。(のちに2004年までのことが加筆された文庫版が発売)

ぼくがキネプレ、というサイトを作ろうと思ったのが2009年頃。
今の形にして創立したのが2012年5月。
その間も、それからも、ぼくはことあるごとにこの「ほぼ日刊イトイ新聞の本」を読み返してきた。
映画のサイトを立ち上げて、情報発信から企画からプロデュースから、いろんなことをやっていきたいな、と思っていたぼくにとってこの本は。
偉大なる先達の、かがやくような試行錯誤の実例がつまった教科書だった。

もちろん、糸井さんの真似をするわけではない。
「ほぼ日」の空気や気配やいろどりは、「ほぼ日」にしかつくれない。
だからぼくは、徹して「向き合い方」を真似しようとした。
ぼくなりのことを考えつつ、ぼくにしかできないものを組み合わせつつ、その時々での問題や新たな動きに対する姿勢は、糸井さんの書かれたことを参考にしようとしたのだ。

それがうまくいったかどうかは、まだわかっていない。
でも、ほんとうにありがたいことに、キネプレは関西でもある意味珍しい立ち位置になり、独自の動きをし、イベントや企画を動かせるようになってきた。

最初、映画情報を配信するサイトとしてスタートさせたキネプレは、もちろんだが無収入だった。
別のライターの仕事をしながら、収入の当てもないのに無報酬で情報発信をしていった。
途中で、イベントや企画の協力をするようになる。
宣伝や配給、講座もやるようになった。
いまでは、店(ワイルドバンチ)を拠点にするようにもなった。
映画を軸に、情報・企画・宣伝・イベント・場所を組み合わせながら、いろんな遊びができるようになってきたし、そうした意図をくみ取って、協力してくれる人たち・一緒に遊んでくれる人たちもたくさん出てくるようになった。

こうなったのは、本当にこの「ほぼ日刊イトイ新聞の本」を読んだからだと思っている。
この本に出会えて、とてもよかった。

ちなみに糸井さんは、「ほぼ日」でずっと「今日のダーリン」を連載している。
この中で掲載されたある時の文章が、あんまりにもぼくの心をグラグラさせすぎて、思わず全部手打ちしてパソコンのメモ帳にずっと残している。

以下、勝手に引用させていただきます。

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後から参入する者に、場所なんか空いてないのだ。
空いているとしても、最悪の場所だけだ。
前々からそれをやっている者が、めんどくさいから手を付けてない場所が、少しだ。
それが、いつも当たり前のことだ。
 
新しいなにかが生まれるのは、場所なんかもらえなかった者たちが、苦しまぎれに、「これしかない」とやったことからだ。
「少しだけ、空いてる場所を分けてください」と、平身低頭してお願いしているうちに、時間はどんどん過ぎていくし、いい機会も得られないままになる。
 
鉄道をひけなくても、自動車があった。
映画をつくれなくても、テレビがあった。
大きな舞台はなくても、小劇場があった。
大きな同業者組合ができているようなところに、新しく参入することを歓迎してもらえるのは、「これまでの権利を脅かさないやつ」だけかもしれない。
 
場所なんか空いてると思わないほうがいいのだ。
居心地の悪い、座ればけつの痛くなるような荒地だけが、新しい人びとがスタートを切れる場所だ。
おそらく、道具も揃っちゃいないし、誰もが認めるすばらしい人なんか集まることもない。
しかし、そこが、場所なのだ。
 
若い人に言うことは、じぶんに言うことでもある。
あなたにも、ぼくにも、用意された場所はなかったはずだし、周到に計画された図面なんてものもなかったと思うのだ。
次の時代は、いつでも、場所なんかなかった者たちの場所からはじまっている。
道具がなければ、じぶんでつくる。
人手が足りなければ、寝ないでもがんばる。
そういう古臭い冒険心みたいなものが、肝心なのだ。
 
「どこにも場所が空いてない」ということは、いつも、新しいなにかの出発であった。
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引用終わり。

キネプレがなんど、この言葉に救われたことか。
なんど読み返して、指針にしたことか。
場所が空いてない、だから作ればいい、という軽やかでおおらかな言葉が、関西の映画業界にあとから参加していったキネプレに、どれほどの希望をくれたことか。

あらためて、糸井重里さん、ありがとうございます。
「ほぼ日刊イトイ新聞の本」、手元にずっと置いています。

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