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僕ん家のクリスマス-子供達が小さかった頃のお話-

娘がまだ中学生の時のこと。
学校でいささかの言い争いをやらかしてきたと。

「うちにはサンタクロースいるもん!」

中学受験を経て、医療従事者や研究者の子女が多く在籍するらしい中高一貫の私立学校に入った娘は、ややキレ気味でそのように言い放ったと。

娘はどちらかというと活動的で、かつ、現実的、合理的な考えの子だった。
小さな頃におジャ魔女どれみを楽しく見てもその格好に憧れるのではなくて、タイトルテーマ曲をいかにキレよく歌えるかに注力するタイプ。
けして「夢想的な女の子」ではなかった。

でも、はじめは半笑いで話していた同級生達が軽く引くくらいのキレ具合で
「うちにはサンタクロースいるもん!」
「よそのお家はお父さん、お母さんがサンタさんのとこもあるかもだけど、うちにはちゃんと本物が来てるもん!」
「毎年サンタさんからは英語の新聞に包まれたプレゼントが届いて、お父さんとお母さんは別のプレゼントをくれるもん!」
と言い放ったと。

うんうん、確かにうちのクリスマスイブには毎年ジャパンタイムズやヘラルド・トリビューンに包まれたプレゼントが届くよね。


娘が小学校に上がる頃から、僕はクリスマスの何日か前には駅の売店で読みもしない英字新聞を購入していたし、購入した新聞をわざとくしゃくしゃにして古新聞風に加工したりもしていた。
それは、若い頃の僕が愛読していたポパイの記事に刷り込まれたとてもベタなアイデアだった。

仕事に追われていたある年には新聞を用意しそびれたこともあった。
横浜勤務の時には横浜駅西口の大きなホテルのロビーで英字新聞の購入を申し出て、「今朝のものでよろしければ。」って分けていただいたこともあった。

そのようにしてクリスマスイブの夜の我が家には、車のトランクに保管しておいた「英語の新聞に包まれたプレゼント」が運び込まれたし、娘が中学に上がってからは受験のご褒美の意味も込めて、両親からのプレゼントも別に用意されるようになっていた。


娘の四つ下の息子は、西岡剛モデルのグラブを受け取る頃には「お父さん、僕の分はもう新聞でくるまなくていいよ。」なんてクールに言っていたし、中学生の娘がサンタクロースの存在をガチに信じていたのか定かではないけれど。

それでも僕らのベタすぎる演出を2人の子供達が好ましく感じていてくれたらしいことは嬉しかったし、なぜだか子供達のことを誇らしくすら感じた。

そして先日、いい大人になった娘とクリスマスプレゼントの話になった。
職場の先輩がお子さんのために何を用意するか迷っているのでということだった。

そこで、我が家のクリスマスプレゼントは綿密なリサーチのもとに選定されていたこと、英字新聞を用意したり加工したりしていたこと、その新聞は概ねジャパンタイムズだったことを初めて娘に話した。

当時の4人暮らしから今や父娘2人暮らしになったリビングには少しだけ微妙な空気が流れたけれど、娘はまんざらでもないという風に立ち上がって
「んじゃ、お風呂入るわ。おやすみー。」と言ってリビングを離れた。